エイプリルフール2022


昼休み。
食堂で丸テーブルに上野、小森、遠坂、柴の4人で食事をしている時のこと。
食べるのが早い上野が先に焼肉丼を平らげ、お冷やを飲んでいると、唐突にしゃっくりをあげ始めた。
それを見て、箸を口に入れていた柴は何度か瞬きをして目線を上に。口を少し歪めたあと、「上野」と呼んだ。
「なに?ヒック」
止まらないしゃっくりに、柴は悪戯げな顔を隠すように箸を持った手で顔を隠した。
「しゃっくりが100回続くと死ぬんだってさ」
「ヒック、えっ!?ヒック」
驚く上野。それを見て白けた目をした小森が柴の頭をお盆で殴った。
「だから嘘は」
「いってぇ!嘘じゃねぇって、これは"迷信"」
頭をさする柴は、耐えきれずに口元から手を離して声をあげて笑いながら言った。
また屁理屈を…。と、小森も食べ終わったらしく、皿にお箸を置いて文句を溢す。そのまま紙コップに手を伸ばすも、中身は空。水を入れに席を立った小森の後ろ姿を見送った柴は再び上野に視線を戻した。
「…嘘なの?」
騙された彼のしゃっくりはいつの間にか止まったらしい。ご飯の最後の一口を口に入れて頷いた柴。それを柴より一足先に食べ終え、見ていた遠坂の緩やかな口元が動いた。
「ねぇ、これは知ってる?薬指の語源」
唐突な質問に、雑学の時間か?と2人は遠坂に顔を向けた。首を横に振る柴と上野。
「薬指って呼ばれるのは、昔、薬指を煎じて飲むと万病に効くって迷信があったから。らしいよ〜」
「へぇ〜!」
「………。」
驚く上野。
ピンときた柴。
「…俺はタクシーの語源知ってるんだけど、take seeの見送る、の略らしい」
「そうなんだー!」
なんでも信じるなこいつ、と柴。
悪戯心が開花してそのまま嘘を並べることに。
「プリン体はプリンのような見た目だかららしいよ」
「ぐっすりはgood sleepが語源」
「北の方角は毎日変わり、年間で最大10度変わってるんだってさ」
「メンマの原料は煮付けた割り箸」
「酢を飲むと体が柔らかくなるんだよ」
「晩飯の時に歌うと悪魔を呼ぶから歌うなよ」
物知りだ…!と口を開けて驚きっぱなしの上野に、唇を噛み締めて笑いを堪える柴と遠坂。
「フッ、ンン"…えーっと、じゃあ実は孔門の皺はトイレットペーパーの摩擦によるものって知ってるか?」
「知らない」
バシッ。バシッ。
打撃音が2つ続いた。
頭を上から殴られたのは、柴と遠坂。
頭を押さえて、答えた主を見ようと柴が振り返る。
殴ったのは、いつの間にか帰ってきていた小森だった。
手に紙コップを持って横を向いていた。
不自然に思えた横顔。
その口角は上がっていた。
心なしか体も小刻みに揺れていて、紙コップの中の水面が揺れる。
それを見た柴が耐え切れずに頭を押さえたまま下を向いて吹き出して肩を揺らす。
2人の様子を見て上野が不思議そうに頭を傾げた。
遠坂は、じゃあこれで最後。と頭をさすりながらにこやかに口を開いた。




「これは知ってる?実は、今まで言ったことはぜ〜んぶ、嘘」
「えっ!!?全部って!?!」
「ブフッ!!アッハッハ!!」
「フッフフフッッ…!」



柴、遠坂win!
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