ハロウィン
「とりっくおあとりーとー」
「……………………何やってんだ先輩。」
俺もめっちゃ思ってる。すっげー思ってる。だからそんな目で俺を見るな。
不良な後輩をいつものように、木にもたれかかっただらしない格好で迎え入れた俺。いつもと違う所は、咥えているのが煙草じゃなくてペロペロキャンディなこと。俺の頭に異物がついてることの2点だ。
異物とは、
「猫耳……?」
そう、猫耳。
狼って勘違いしても良いんだけどむしろその方が良いけど、どう言い訳したところで紛れも無く猫耳。ド◯キで買ったんだろうなあいつら。
「アンタがこんなイベントに乗るとは思わなかった。」
「その認識で正解。ば つ ゲ ー ム。クラスの遊びに巻き込まれた結果がこれよ。」
勿論外そうとしたけど、外したら手錠を付けると囲まれて言われたら、ねぇ……。準備万端で何より。本来は女子に当たるはずだったんだろう、ヤケになってまぁ……。抵抗するのもめんどくさくなってやめた。
何故かこっちに近寄らずスマホを構える後輩。
パシャ。
「いや…………何してんの。」
パシャ。
「……なぁ、それ自撮りだよな。」
「する訳ねぇだろ。」
今すぐ消せ。今すぐにだ。
満足したのか近寄ってきて撮ったであろう写真を見せてくる。
誰が見るか。
「アンタ自分の姿見てねぇの?」
「見たくもねぇって。窓ガラスさえ見て来なかったっての…。」
「……公園にいる野良って感じ。」
「感想もいらねぇー……………。」
またこいつ寝た時に消さないと。
それに、こいつの奇行で忘れかけてた。片手の掌を見せながら動かす。
「で、お菓子くれ。」
形の良い目をぱちぱちして呆れたようにこっち見てるけど、こっちが本命に決まってんでしょ。
「ねぇよ。」
「だぁーよなぁ〜。」
そう言って話してる間手に持っていたペロペロキャンディをまた咥えた。
発音良くtrickはいいのかって聞いてくるけど、俺が欲しいのは甘いのだからそれ以外に別に興味は無い。
「trick or treat」
「んあ?」
お前もやるのかよ。
びっくりしてぱちぱちを繰り返す。
お前にやるお菓子なんてある訳ないだろって言えば、俺の口元を指差した。
えっお前、
「食いかけ欲しいの?」
キャンディを手に持って軽く振る。
やるわけないでしょーに。
そのまま口に咥えた。
後輩は返事をしないまま表情を変えず、こっちに顔を近づけて来る。
「ちょっっ、ま、すとっぷすとっぷすとっぷ!!!!!ごめんやるって!!!あげるからこっちくんなって……っ!!!!!」
顔が良い分圧が……!
慌ててまた手に持ち後輩にキャンディを押し付ける。
けど、
キャンディを持った方の手を片手で捕まれ、腕を木に押し付け上から俺の体を覆う。
「は、」
何、してんのこいつ。ずっと無言だしこわいんだ、けど。
何がしたいのか分からず固まったままの俺に、後輩の整った顔がアップになっていくのをただじっと見つめる事しか出来ない。
俺とあいつとの顔の距離があと数センチになり、
「treat」
「あ?」
通り過ぎて耳元で囁かれた。
スルッと抜き取られる俺のペロペロキャンディ。そのまま後輩の口へ。
「あっま。」って、
「いやお前、甘いの苦手って……!はぁーーーんもぉ〜〜〜〜……」
気が抜ける。無駄にびびったわバカヤロウ。変に意識したせいで今になって顔が熱い。マジ声がエッッロいんだけど!ほんっとバカじゃねぇのくそっ!片手で顔を半分隠して、キャンディを持っていた方の手であいつを押し退ける。
後輩はそのまま立ち上がると、俺の顔見て悪戯っぽく笑った。
「けど、アンタのなら悪くねぇし、甘いの好きなんだろ?センパイ。」
大人びたあいつにしては珍しい表情で、俺のペロペロキャンディを咥えて校舎に帰って行った。あれ、俺のペロペロキャンディって言い方なんか卑猥じゃね。なんて笑ってらんないんだけど。
「この甘いじゃなーい……」
口直ししようとポケットを探す。最悪。今日に限って煙草忘れた。
あーあ、もー…………もうぜってーこんなイベントに関わらん!!!
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