クリスマス

【柴】


「「「メリークリスマース!!」」」


「……め、メリー…クリスマース…」



パーンと勢いよくクラッカーの紙テープが視界を遮り顔やら肩やらに乗っかってくる。


なにこれ。




遡ること4時間前。



今日は12月25日。
既に2日前に冬休みという長期休みに入り、これ幸いと夜更かしをしまくりソシャゲのクリスマスイベントを走っていた。
予定なんてものはない。むしろゲームが予定。

………黙れ脳内の俺クリぼっちとか言うな画面にはいつでも俺の彼女(仮)がいるだろうが!!!!!

そんなわけで、堕落しきった生活をしていて起きると昼を過ぎていた。普段はしない夜更かしするのも寝過ごすのも中々気分が良い。
けどなんなんだろうな…この起きた時の虚無感…。


リビングに向かうと人の気配は無く、昨日伝えられた様に惶は既にクリスマスプレゼントを弟妹に届けに行ったようだ。
直接渡しに行くのが惶らしいというかなんというか。優しい兄ちゃんだ。


遅くなった昼飯をテレビを見ながら軽くすませる。どのチャンネルもクリスマス特集。
イルミネーションが綺麗だなくらいの感想しか引きこもりには浮かばない。
そもそも寒いの苦手だし映像で十分だから何故わざわざ見に行くのかリア充の気持ちが俺には分からん。


そんなこんなでダラダラと過ごせばあっという間に時間が経ち、気付けば17時になっていた。
そろそろ風呂沸かして夕飯の支度でもするか、と思っていた



ら、玄関のチャイムが鳴り、俺は扉を開けた。
人影が3つ。
背後にクリスマス柄の布を被せ何かを色々乗せた荷台と、サンタ帽を被りクラッカーを構えた上野、小森、遠坂が居た。



のが、つい数分前。



まじ、いや、なにこれ。

固まった俺にクリスマスの挨拶をかましてクラッカーを鳴らす上野と小森。
おい小森、お前人に向けて鳴らすなってデカデカと書いてんだろ注意書き見てねぇのかよこら、確信犯だろ確実に。顔面に紙テープ直撃。
中途半端に開いた口からは、微かなため息しか漏れなかった。
でも表情から察したようでバツが悪そうになったから……まぁ…いいか。

危ないので良い子は真似しないでね、マジで。くそビビるから。


ふと遠坂を見ると、荷台を俺の部屋に運び込もうとしていた。流石だ。その行動力。


いや違うだろ、

「何、してんの?お前ら」
目一杯眉間に溝を作り、分かりませんって表情を全力で表現しながら聞くと、きょとんとした顔で上野が返してきた。


「え?クリスマスパーティーの準備?」


「……や、ごめん、理解できない」
正しくは理解したくない。


え?俺の寮のリビングで?


「貴様に今日予定が無いのは分かっている。クリぼっちにならなかっただけ僕達に感謝するんだな、犬!」
確かに無いけど。
親衛隊の活動も休みみたいだし、お前もどうせ暇だったんだろ小森め。

口には出しません。腕力ゴリラに敵うすべが見つかってないので。


小森は兎も角、上野と遠坂が居ることに改めて驚く。
上野に予定が無かった事と遠坂がこんな世俗行事に乗るとは。意外。でも誘ったら来そうではある。
こんなサンタ帽被ってノリノリとは予想してなかったけどな。


学校生活を送っているうちに何度か遊びにきたことがある為、準備の手際が良い遠坂。
冷蔵庫に色々入れだしキッチン借りるね〜と言われれば最早俺に成す術はない。

それと、楽しそうに装飾しだす皆を見てると止めるのに気が引ける。



…………なんてつって本音は、玄関を開け3人を目にした時、今日の残りの予定は諦めていた。このメンバーなら面白いだろうと分かっていたから。


でも、あーくそ、ちゃんと止めないからこうしてゲリラをやめないんだろうなこいつらは……。


慣れて順応し出した自分に思わず遠い目。





小森に蹴られ俺も準備させられて30分程度経ち、パーティーが始まった。
いつ用意してたのやら、ケーキや七面鳥、お菓子に色んな缶ジュース。

この日の為に用意周到な、と思う。

いつから、なんで、俺抜きで計画してたのか、等々聞こうか考えたが、色々考えてる3人を想像すると面白かったからやめた。

今は楽しむのが一番なのだろう。



誰が企画したのやら人狼や王様ゲーム等もした。
この人数じゃイマイチ盛り上がらないんじゃ?と初めは思ったが、嘘がつけない小森や遠坂の前髪の狡さで意外にも結構盛り上がった。
王様ゲームでは何故か王様をずっと引く遠坂の異常な運に全員でドン引きした。

あはは、照れるなぁ〜じゃねえよ。イカサマか全く分からないのが恐ろしい。

時が経つのは早いもので、上野の驚異の食欲によりお菓子以外は食べ切り、時刻は23時を過ぎていた。

俺はソファーの前のカーペットに座り、笑い過ぎてテンションがおかしいままふと缶ジュースを見ると、度数入り、との文字が。

上野はトイレ。遠坂はポッキーを食べている。いつの間にか、小森はソファーで寝ていた。




ん〜〜〜〜......。



深く息を吐きながら片手の親指をこめかみに当て、掌で額を覆う。



な ん で 気 付 か な か っ た 俺 。


通りで、俺達のテンションが変だったわけだ…。

いつもと変わらないのは遠坂くらいだったか?
いや、実は見た目変わらないだけで本当は酔ってんのかも知れん。

俺は太ももの半分程までしか面積の無い赤色の布を引っ張り、僅かに肌寒い素足を摩りながら、テレビの方を眺めてポッキーをぽりぽり食べている遠坂を見た。



ついさっきのこと。

小森がダウンする前に全員で大富豪をして、負けた人がミニスカサンタコスプレをする事になった。
今考えるとこの時点で俺ちょっとワカラナイ。
袋から出してきた上野にそういう趣味が合ったのかと呟くと必死に弁解してきたが、部活で鍛え上げられムキムキに角張った足がミニスカから出ているのを想像すると笑いが止まらなかった。

あ、あの時何言ってたのかあんま聞いてなかったわ、今度聞こう。
覚えてたら。


そうして頑張った俺は1位を捥ぎ取り、2位が遠坂、3位が上野、運の悪かった小森が最下位だった。
潔く着替えた小森がしっくり来すぎてなんとも言えない空気に包まれた時、遠坂が俺に着せてみようと爆弾を落とした。
1位が着るのも良くないかとか頭のおかしいことを言われ着せられた。
サイズとかでゴネたが、ゴリラだらけの空間から逃げられる筈もなく着れてしまった。

そう。着れてしまった。
小森が着たものを。


伸縮性ありすぎだろ。


上野は無言で写真を撮りはじめ、遠坂は悪くないねと言って撮り、唯一まともな反応をした小森は、ひぃひぃ言ってスネ毛を抜こうとしてきた。


……いやまともじゃねぇわ。
実に恐ろしい時間だった。


さっきまで毛布を膝に掛けてたが、今は寝た小森に被せている。
この格好、暖房が付いてるからマシだが、体温的にも視覚にも良くないから早く着替えたい。
でもDVDが人質に取られている為どうすることも出来ない。あれプレミアムだぞ。鬼め。ここが地獄か。

太股の鳥肌を見ていると視線が。下から顔をあげると、こっちを見ていたらしい遠坂と目が合った。

なんだよ。


「そろそろ服着ていい?」


眉を歪めて聞いた俺を見て喉でくつりと笑うと、腕をこっちに向けて広げてきた。


は?……?まさか?

クリスマスに男同士で?

一方はミニスカで ハ グ ?


ジェスチャーで伝えるとうんうん頷かれた。
馬鹿かよ。
不毛過ぎるし絵面が地獄だろうが!


とは、思ったものの……座ったままこっちに手を広げる遠坂の服はもこもこだったのである。
そう。大変暖かそう。


大変


暖かそう。





遠坂の前に這って行き、魅惑のもこもこに倒れこんだ。


誘惑に負けた俺。


あーーーやべぇ…くそあったけぇ。


前に向き直って三角座りになり、遠坂に後ろからもこもこで覆ってもらう。背中から伝わる体温も相まって大変心地いいです。
客観的に見たらシュールだろうな。そう思い、込み上げてきた謎の笑いを口の中に抑え込んだ。

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