短編
諸君、俺は女の子が好きだ。
諸君、俺は女の子の太ももが好きだ!
諸君、俺は女の子のおっぱいが大好きだ!!
この地上で生きるありとあらゆる女性が好きだ!!!
……ごめんこれは言い過ぎた。
と、まあ、兎に角。
俺は女の子が大好きだ。
だが彼女はいない。欲しい。すげぇ欲しい。今読んでるエロ漫画に出てくるような、おっぱいでかくて優しくて黒髪でエロいほくろがある大学生のお姉さんみたいな彼女が!!欲しい!!!!
最近の日課である、"ママみのある彼女とよちよちセックス"の漫画のWebページを閉じて息を吐く。今日もティッシュに散った子孫をいそいそとゴミ箱に投げ込んだ。上からポストに入っていたいらないチラシを適当に入れてカモフラージュも欠かさない。
俺ってば頭が良いぜ全く…。
一仕事終えた気怠い体を動かすのが億劫で、そのままベッドに倒れ込みスマホを触る。開くのはてぃっくとっく。どっかの高校生が制服でダンスしているのを適当にスワイプして飛ばしていると、流れで飛ばしたある動画に目を見開いて元に戻した。
こ、この人は…!!!!
「今日も来てくれたんだ、ありがと〜」
「カナちゃんに会えると元気出るので!」
「ふふ、ありがと〜私も夾(キョウ)君に会えると元気出ちゃう」
カウンター越しに小首を傾げて微笑むカナちゃんに心の中で絶叫。可愛すぎる!!!
不思議の国のアリスをモチーフにした装飾でカラフルに飾られた内装。カウンター、椅子、壁まで可愛らしいデザイン。
幸せな俺のいるここはコンセプトカフェ、略してコンカフェの『Alice』。
ベッドで何気なく見て衝撃を受けたてぃっくとっくは、このAliceの宣伝動画だった。フリルのいっぱい付いた可愛いコンカフェの制服を着て、黒髪をツインテールにして、お世辞にも上手いとは言えない振り付けをはにかみながら踊る口元にほくろのある女の子。揺れる胸。
ま…まさにあの漫画の子じゃん……!!!!
と、思い立ったが吉日。
ゲームのソフトを買おうと貯めていた金と涙ながらのお別れをして、今日で1ヶ月程経とうとしていた。
「高校生なんでしょ?こんなに来て大丈夫?」
「っ全然!バイトしてふので!」
噛んだ!恥ずかしい!けどそれよりカナちゃんが優し過ぎて心が潤う…!!
無理しないでね…?と眉を下げるカナちゃんに手を横に振りながら照れ隠しにオレンジジュースをズズッと吸った。
そう。俺は高校3年。受験生が何してんだって怒られそうだが青春には変えられない。
つまり、土日にAliceを通い詰めるわけは、完全に下心だ。
「それで?そのコンカフェ通い詰めてなんか進展あるわけ?」
「まだ5回しか行ってねーんだからあるわけないだろまだ〜」
平日は学校とバイトがあるから土日だけだし…。
他校の同期と休憩中に賄いを食べながら最近の近状を話す。アルバイトはチェーン店の居酒屋。
希望持っててウケる。とか言いやがるこいつはちなみに彼女持ち。余裕ぶりやがってファック。
座ってる椅子の足を蹴っていると、従業員用の勝手口から声が掛かった。
「あの、お先失礼します」
つい先日新しく入ったばかりの新人だった。
「お〜お疲れ様」
「お疲れ〜気をつけてな〜」
夜遅いし、と付け足した俺に律儀にペコリと会釈をする彼に手を振って返した。
高校1年の彼は早めに上がることになっている。
ドアから出ていった背が扉で閉まるのを見送ると、自然と彼の話題に移った。
同期が話を振ってくるのに相槌を打つ。
「…花無(ハナナシ)って、よくここに来たよな」
「忙しいのにな」
「初めてのバイトだろ?」
「らしいな」
「礼儀正しいよな」
「身長も高いな」
「……イケメンだよなぁあいつ」
「…………イケメンだな…あいつ」
花無 秋人(ハナナシ アキヒト)。
高校1年の彼は、すげえイケメンだ。勿論顔が。目に掛かるくらいの黒髪と、目元にほくろのある、落ち着いた雰囲気のイケメン。
ただ、顔だけじゃなく性格まで良いときた。出勤初日から女性陣は大盛り上がりだった。
ちょっと良い感じに仲良くなりかけてた子も、今や俺は空気。ただのバイト友達に格落ちだ。つら。まあ今はカナちゃんがいるからいいけど。
「それで。教育係さん、花無の仕事っぷりどーよ?」
「あー……まずまず」
今日の様々な花無のミスを思い出しながら言った。
仕事は丁寧だけど、動きがまだ遅くて配膳ミスがそこそこ。けど、バイトしてからそんな経ってないしそんなもんだろ。俺もよく先輩に怒られてたし。
焼きそばをつつきながら、次の出勤の時どうアドバイスしようかな〜と考えていると、店内から厨房に先輩が顔を出して来た。
耳を澄ますと、店内の方はお客さんの帰宅が続いてそこそこ空いてきたようだった。
きょろきょろあたりを見回す先輩に声を掛けた。
「どうしたんすか?」
「あぁ…いや、花無ってもう帰った?」
どうしたのかと同期と顔を見合わせた。
「さっき帰りましたけど」
同期の言葉に眉を寄せて苦い顔をする先輩。
「何かあったんすか?」
「や、あいつレジに携帯忘れてたっぽくて…」
と、途端に後ろから女子達の「あたし届けてきます!!」コールが。
苦笑いする男3人。
先輩が「ほら、レジ呼んでるから!」と促すとブーイングが帰ってきた。
イケメンが絡んだ時の女子の団結力こえー。
どうしようか困った様子の先輩に、俺が行きますよ。って言ったら、ホッと息を吐いてスマホを手渡してきたのを受け取る。
「悪いな」
「全然いいっすよ。そのかわり明日の賄い豪華におなしゃす」
ちゃっかりお願いしておく。
先輩が呆れた顔でオッケーの指を作るのを確認して勝手口から出た。
徒歩で来てるし、まだ近くにいるだろ。
軽く駆け足で階段を降りていると、花無の携帯が光った。つい釣られて携帯の画面を見てしまう。
えっ。
悪い、と思うより前に驚きが出た。
足が止まった。
ホーム画面に写っていたのは、カナちゃんだった。
正確に言うと、カナちゃんとツーショットでネズミーランドにいる写真。
ショック。
効果音がつきそうなほど血の気が引いた経験は初めてだった。したくなかったこんな経験…。うっうっ…。
情けなくも涙ぐみながら、目的の人物を探して再度駆け出した。それも、さっきより速めに。明日の賄いの為、そして
こうなったら聞き出してやる…!!
という新たな目的の為に。
何度か途中まで一緒に帰ったことがあったから、再度駆け出してから見つけるのはすぐだった。
「花無ーーー!!!」
「青木先輩…?」
俺の声に驚いて振り向く黒いキャップを被ったイケメン。
隣に並んでリュックを背負った背中を叩く。
話そうと口を開いたが、
「はな、花無…ちょ、ちょっと待ってな…」
体育以外で走るの久々で息があがっていた。ダサい。つらい。
心配そうに顔を伺ってくる花無に申し訳なさ……いや、俺は怒ってる。花無にすれば理不尽かもしれないが、俺はバリおこだ。美男美女カップルなんて二次元だけにしとけ!
「ハァ…ごほん、悪い、待たせた」
「それは全然…大丈夫ですか?」
「大丈夫!…まずは、はい。携帯レジに忘れてたぞ。ポケットから出さないようにしとけよ」
「あっ…すいません。気をつけます。
………あの?」
不思議に思うのも最もだ。
携帯を差し出したのを花無が掴んだが、俺は手を離さなかった。
「…本題に入るぞ」
何のことか分からず不安そうに頷くのを見て覚悟を決める。
「来る途中に、お前のロック画面を見た。…勝手に見たのは悪いと思ってる」
「えっ……はい」
動揺して嫌そうな顔になるのを見て俺は確信した…。お前…彼女とのツーショットとか…見られるの嫌なタイプ…?ロック画面にすんなよ…。
ショックを隠せず、携帯から手を離して項垂れながら聞いた。
「……写ってる人は、彼女か…?」
「いや、全然違います」
「え?」
「絶対無いです」
「無いとか言うなよ!」
「えっ?!すいません…?!?」
無いってなんだよ!!と唐突にキレる俺にビビって謝る花無。
や、だって…。と口籠るのに、なんだよ。と聞いた。
「だって、姉貴なんで…」
そんな。
「……USODA」
「…ほ、ほんとですって」
顔をパッとあげて花無の顔をガン見。驚きの事実に瞬きを繰り返した。
不自然に俺から視線を逸らしながら、言い訳のように早口で口を動かす花無。
「その、家族旅行でこの間ネズミーランドに行って、それはその時の写真です」
カナちゃんがついったーであげてた自撮りはその時だったのか、と内心納得。
でも当然の疑問が。
「…なんでロック画面にしてんの?」
よっぽどのシスコンじゃなきゃやらねぇだろ。
「今朝姉貴に勝手に触られたのを変え忘れてて…」
「…………まじで?」
「マジです」
強く俺の顔を見て頷くのに、信じざるを得なかった。
なーんだ。
やれやれだぜ全く。
はぁ〜〜っと長めのため息を吐いてしゃがみ込む俺。
「よかった〜〜〜〜」
カナちゃんに彼氏がいないって確定したわけじゃないけど、少なくともラブラブの相手は居ないはず!まだ俺にも望みはある!そう息巻いていた俺の頭上から声が。
「…何がよかったんですか?」
見上げる。
街灯の明かりで視界が眩しい中、目を細めた先にあるイケメンの目は、何故か期待の色でキラキラしていた。多分街灯のせいだけど。
花無が続ける。
「俺に、彼女が居なくて…ですか?」
…………。
「……まあ、そう!!」
そう返答した俺に、花無は笑顔を弾けさせた。初めて見た花無の満面の笑みに面食らってしまう。
お前、彼女居ないこと喜ばれて嬉しいってどマゾかよ。
内心引きながらその場から立ち上がる。
休憩時間も終わるし、そろそろ戻らないとな。花無の姉さんがカナちゃんだって最高の収穫も得たし。
先程から妙に上機嫌な花無に、じゃあ。と手を振ろうとしたが、引き止められる。
何だよ。
「俺のこと、気になってたりしますか?」
「する!」
主にお前の姉さん。
即答した俺に、女子なら卒倒しそうな程の優しい顔で「じゃあ、今度俺の家に来ませんか?」と言ってきたから、後でラインくれ!と親指を立ててその場を別れた。
ーーー→
脳死で書いた。
馬鹿と確信犯。
多分、花無君のお家に上がった時にはカナちゃんは居ないぞ。
ちなみに、気づいてる方いると思いますが、
花無→カナ
です。
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