秘密の先輩






クラスメイトのクソ野郎に先輩の存在がバレて数日経った。

「なんか最近お前ピリピリしてね?生理?」
ねえよ。

何も知らない呑気な和真の横に勢いよく腰を下ろしてため息を吐く。
横に視線を向けると、不審気に眉を寄せ、への字にして薄く開いた口からドライアイスの水蒸気のような煙が出ていた。
ひょっとこみてえだぞ、と言おうとしたが止めた。
まだこの間抜け面を見てる方が和む。
胡座をかいた足に肘をつけ、握った拳に顎を乗せて先輩を眺めながら考える。

あれから何かクラスで言ってくるかと思ったが、あいつは以前と変わらずダル絡みしてくるくらいだった。
ただ、この場に居ることのリスクが高いのは依然として変わらない。
先生にチクるか、ここにあいつ自身が来るか。
予想できるのはこの2択だ。
あの写真を撮った意図と、何故あいつは俺にずっと絡んでくるのかだけが引っかかった。

先輩は何も言わない俺に飽きたらしく、間抜け面を止めて携帯を触り始めていた。
特に用もない携帯を見る気にならず、そのまま先輩を眺めた。
こんなに長時間先輩を観察するのは初めてかもしれない。

木漏れ日が片目に当たり、まつ毛の影が頬を覆うのを見て思っていたより先輩のまつ毛が長かったことに気付いた。
たまに、煙が目に染みたのか、瞬きをして目元に皺をつくり、じわりと目が潤ませていた。
短い頻度で、見もせずに煙草を口元に持っていくのを目で追った。
人差し指と中指で挟んだ煙草からは絶えず煙が上がっている。

自然と目線が口元に留まった。
視界の邪魔にならないように口の端で白い棒を咥え、口を窄める。
手を離して口を閉じ、数秒経って開いた。
途端に溢れる煙。
その濁った色の中から、煙を押し出すような赤色が見えた。

何故か、目が離せなくなった。

閉じて開いてを繰り返す中に見える僅かな赤。
開いて、閉じた。
開く、と予想していた次の動作は行われなかった。

ふいに、閉じていた唇から赤色が現れ、口の端を舐めた。

その赤い舌を口の中に収める拍子に、タレ目で、気怠げな瞳が瞼を押し上げ、視線が合った。
血管が脈打つのが分かり、動揺したまま立ち上がった。

「え、なに、どしたん」
「なんでもねえよ」

たまたま目が合ったとでも思っているのであろう、ずっと見ていたことに気付いていなかったらしい先輩は不思議そうに顔を上げたまま新しい煙草に火を付けた。

このままここには居られねえ。

「……授業出てくる」
「は?うそ、真面目期きた?」
上手い言い訳が思いつかず、「言ってろ。和真も単位気を付けろよ」と言い捨て、目を丸くしていた先輩に背を向けた。

文句が聞こえたが、振り返らずそのまま足早にその場を後にした。


先輩を、男を、エロいと思ったことなんて、今まで無かったのに。




(えー…。まあ確かに単位ちょっとやばいかもしれんな、ガハハ。笑えん)
(消えろ煩悩)
14/14ページ