秘密の先輩
挨拶
体育祭という俺ら学生にとっての一大イベントを終え、振替休日には気になってた漫画を一気読みするという、最高に充実した休みが明けてはや数日。
そわそわしていたクラスもいつも通りにだらだらした空気感へ元通りになった。
変わったとこといえば、俺は蹴った体育祭終わりの打ち上げで、万年彼女待ちだったバカにいよいよ春がやってきそうなことくらいだ。
休み時間にいそいそと彼女候補の女子の所に向かうのを鼻で笑い、校舎裏なう。
煙草に火を付けながら、今後はあの子がゆーちゅーばーの話を延々聞かされることになるかと思うとゴシュウショウサマだ。
俺は解放されてハッピー。
満足感で口元に弧を描きながら煙を吐いた。
「んふふ」
「…やけに嬉しそうだな」
「んブッ」
だいぶ久しぶりの声が聞こえて咽せてしまう。
あかんとこに煙入った!
いつものリラックス100%だったはずの姿勢に影が落ちる。
咳が落ち着いて、にじんだ視界の中、ゆっくりと視線を上げた。
「……来たのかよ、ウワキ者ぼっちくん」
「…浮気…?」
体育祭の時と同じ銀髪。
ちぇっ。黒髪にはなってないか。
日が開いてた割に、ここで会うのはたった数日前のような気がした。
俺の言葉を繰り返して、少し眉を寄せて不思議そうに首を傾けているのを眺めた。
高い位置にあった顔は、しゃがんでおっさん座りをしたことによって低くなり、俺の首を痛めることはなくなった。
「覚えがねえな。お前こそ」
おれえ????
てかボッチは否定しねーのかよ。
「いつもどぉーーりここにおりましたが?」
ここ、で親指を下にしてアピールすると、目を逸らす後輩くん。
バツが悪そうに見える。
おや?おやおや?
ちょっと気分があがった。
「もしや、さびしかったりしちゃったりするわけ??」
言い終えてフィルターを深く吸った。
チラッと俺を見た後、目一杯ため息をつく後輩。
なんだよ。
「…それはお前だろ」
「なんですって?」
「寂しくさせて悪かった」
いやいやいや、1人で盛り上がってんなよ。
ツッコミを入れようとして口を開いた途端、投げ寄越してきた物を慌てて片手でキャッチした。
んもうっ急になん……。
「俺の吸ってる煙草じゃん!」
驚いてすぐ後輩の方を見た。
俺を伺うように上目遣いをしていて、煙草との珍しさWコンボ。
「………こ、こんな、こんなもので俺が許すわけだいすき!!!」
「いいのかよ」
口元を緩ませるイケメンをよそ目に煙草を胸元でぎゅっと抱きしめた。
君のことはもう離さないからね。
フィルターだけになったらさよならだけど。
あ。フィルターといえば。
話してるうちに手元であがっていた煙がなくなっていたことに気付いた。
「…寺田、は打ち上げ行ったのか」
あーあ。勿体ねー。
でもま、一箱貰ったしいっか。
「んー?体育祭の?行ってないけど。お前は?そもそもあったの?」
「知らねえし行ってねえ」
「だよな」
行かなそう。ボッチだし。
携帯灰皿にフィルターを押し込み、笑おうとして動きを止めた。
つか、なんか、こいつ、…なんて言った?
「……さっきなんて言った?」
既に興味を無くしたのか、以前のように携帯を触る伏せた目の周りにある長いまつ毛を見る。
「行ってねえ」
「その前」
「……。あった。」
頑なに視線をあげない後輩に察する。
お前こら。
「……お前、分かってるだろそれ」
瞼がゆっくり動いて、やっと俺と視線が合った。
「寺田」
形の良い口から、ずっと聞いてた声から聞こえる俺の名前は、なんか、俺じゃないみたいだった。
「………先輩か様付けろよ」
「…寺田センパイ」
カタコトおやめ。
「………。」
「…………。」
「…てかなんで名前知ってんのお前!?」
「今かよ」
呆れた顔をして首を傾けさせるわざとらしい奴の両肩を揺さぶる。
「ストーカーか!?会わない間アタシのまわりかぎ回って探偵してたの?!」
「なん、そのキャラ、ちが、違う、違うからやめろ」
目の前でゆらゆら揺れる髪がカーテンみてえ〜と若干楽しくなってたのを強制的に止められた。
両手首を掴まれ、すぐにパッと離された。
口が開くのを待っていると、視線を下に向けたから追った。
雑草が生えてるだけだった。
なんで見たのよ。
「…たまたまお前が知らねえ奴と話してるのを聞いて知っただけだ」
ふーん。
普通だった。
同じ学校だしそんなこともあるな。
そういえば。と考えてみると、そこそこ一緒に居るけど名前言ったことも聞いたこともなかったっけな。
必要なかったし。
「後輩やい。名前は?」
名無しの後輩は口を開きかけ、何か言おうとしたが口を閉じた。
一度目を伏せて、決意したように目を開けた後、口を動かした。
「……上瀬戸。上瀬戸 万尋(カミセト マヒロ)」
「カミセトマヒロ」
長。言いづら。
言い換えようと、口の中でぶつぶつ何度か後輩の名前を繰り返す。
カミセト、カミ。
神?やだ。
マヒロ、マヒマヒ、マッヒー。
……めんどくさくなってきたな。
「おっけー、じゃあマヒロで」
「…何がオッケーなんだよ」
無視して続ける。
「俺は寺田 和真(テラダ カズマ)。先輩か様付けるならどう呼んでも許そう」
ビシッと指を指して先輩の威厳を見せつけた後、いそいそと新品のタバコの封を開けておにゅー煙草で一服した。
「…和真、センパイ」
お。そっちで呼ぶのか。
それから、後輩っぽい。
もっと前から名前言ってれば良かったなー。
良い響きだぜ、"先輩"ってやつは。
「和真」
「先輩をお付け」
おいこら首を傾げるな。
「先輩って感じじゃねえし」
「先輩を体現してるやろがい。いいから首座らせなさい」
体育祭という俺ら学生にとっての一大イベントを終え、振替休日には気になってた漫画を一気読みするという、最高に充実した休みが明けてはや数日。
そわそわしていたクラスもいつも通りにだらだらした空気感へ元通りになった。
変わったとこといえば、俺は蹴った体育祭終わりの打ち上げで、万年彼女待ちだったバカにいよいよ春がやってきそうなことくらいだ。
休み時間にいそいそと彼女候補の女子の所に向かうのを鼻で笑い、校舎裏なう。
煙草に火を付けながら、今後はあの子がゆーちゅーばーの話を延々聞かされることになるかと思うとゴシュウショウサマだ。
俺は解放されてハッピー。
満足感で口元に弧を描きながら煙を吐いた。
「んふふ」
「…やけに嬉しそうだな」
「んブッ」
だいぶ久しぶりの声が聞こえて咽せてしまう。
あかんとこに煙入った!
いつものリラックス100%だったはずの姿勢に影が落ちる。
咳が落ち着いて、にじんだ視界の中、ゆっくりと視線を上げた。
「……来たのかよ、ウワキ者ぼっちくん」
「…浮気…?」
体育祭の時と同じ銀髪。
ちぇっ。黒髪にはなってないか。
日が開いてた割に、ここで会うのはたった数日前のような気がした。
俺の言葉を繰り返して、少し眉を寄せて不思議そうに首を傾けているのを眺めた。
高い位置にあった顔は、しゃがんでおっさん座りをしたことによって低くなり、俺の首を痛めることはなくなった。
「覚えがねえな。お前こそ」
おれえ????
てかボッチは否定しねーのかよ。
「いつもどぉーーりここにおりましたが?」
ここ、で親指を下にしてアピールすると、目を逸らす後輩くん。
バツが悪そうに見える。
おや?おやおや?
ちょっと気分があがった。
「もしや、さびしかったりしちゃったりするわけ??」
言い終えてフィルターを深く吸った。
チラッと俺を見た後、目一杯ため息をつく後輩。
なんだよ。
「…それはお前だろ」
「なんですって?」
「寂しくさせて悪かった」
いやいやいや、1人で盛り上がってんなよ。
ツッコミを入れようとして口を開いた途端、投げ寄越してきた物を慌てて片手でキャッチした。
んもうっ急になん……。
「俺の吸ってる煙草じゃん!」
驚いてすぐ後輩の方を見た。
俺を伺うように上目遣いをしていて、煙草との珍しさWコンボ。
「………こ、こんな、こんなもので俺が許すわけだいすき!!!」
「いいのかよ」
口元を緩ませるイケメンをよそ目に煙草を胸元でぎゅっと抱きしめた。
君のことはもう離さないからね。
フィルターだけになったらさよならだけど。
あ。フィルターといえば。
話してるうちに手元であがっていた煙がなくなっていたことに気付いた。
「…寺田、は打ち上げ行ったのか」
あーあ。勿体ねー。
でもま、一箱貰ったしいっか。
「んー?体育祭の?行ってないけど。お前は?そもそもあったの?」
「知らねえし行ってねえ」
「だよな」
行かなそう。ボッチだし。
携帯灰皿にフィルターを押し込み、笑おうとして動きを止めた。
つか、なんか、こいつ、…なんて言った?
「……さっきなんて言った?」
既に興味を無くしたのか、以前のように携帯を触る伏せた目の周りにある長いまつ毛を見る。
「行ってねえ」
「その前」
「……。あった。」
頑なに視線をあげない後輩に察する。
お前こら。
「……お前、分かってるだろそれ」
瞼がゆっくり動いて、やっと俺と視線が合った。
「寺田」
形の良い口から、ずっと聞いてた声から聞こえる俺の名前は、なんか、俺じゃないみたいだった。
「………先輩か様付けろよ」
「…寺田センパイ」
カタコトおやめ。
「………。」
「…………。」
「…てかなんで名前知ってんのお前!?」
「今かよ」
呆れた顔をして首を傾けさせるわざとらしい奴の両肩を揺さぶる。
「ストーカーか!?会わない間アタシのまわりかぎ回って探偵してたの?!」
「なん、そのキャラ、ちが、違う、違うからやめろ」
目の前でゆらゆら揺れる髪がカーテンみてえ〜と若干楽しくなってたのを強制的に止められた。
両手首を掴まれ、すぐにパッと離された。
口が開くのを待っていると、視線を下に向けたから追った。
雑草が生えてるだけだった。
なんで見たのよ。
「…たまたまお前が知らねえ奴と話してるのを聞いて知っただけだ」
ふーん。
普通だった。
同じ学校だしそんなこともあるな。
そういえば。と考えてみると、そこそこ一緒に居るけど名前言ったことも聞いたこともなかったっけな。
必要なかったし。
「後輩やい。名前は?」
名無しの後輩は口を開きかけ、何か言おうとしたが口を閉じた。
一度目を伏せて、決意したように目を開けた後、口を動かした。
「……上瀬戸。上瀬戸 万尋(カミセト マヒロ)」
「カミセトマヒロ」
長。言いづら。
言い換えようと、口の中でぶつぶつ何度か後輩の名前を繰り返す。
カミセト、カミ。
神?やだ。
マヒロ、マヒマヒ、マッヒー。
……めんどくさくなってきたな。
「おっけー、じゃあマヒロで」
「…何がオッケーなんだよ」
無視して続ける。
「俺は寺田 和真(テラダ カズマ)。先輩か様付けるならどう呼んでも許そう」
ビシッと指を指して先輩の威厳を見せつけた後、いそいそと新品のタバコの封を開けておにゅー煙草で一服した。
「…和真、センパイ」
お。そっちで呼ぶのか。
それから、後輩っぽい。
もっと前から名前言ってれば良かったなー。
良い響きだぜ、"先輩"ってやつは。
「和真」
「先輩をお付け」
おいこら首を傾げるな。
「先輩って感じじゃねえし」
「先輩を体現してるやろがい。いいから首座らせなさい」