秘密の先輩

体育祭



後輩は次の週にも現れることもなく、ついに3週間目を迎えた。
そんで、今日は体育祭だった。
靴が校庭の砂を擦ってジャリっと音を立てる。
ラインの白色が目に反射して目を閉じた。
よりによってすごい晴れ。
仕事しろ雲。
めんどくさい…めんどくさいよパトラッシュ…。
わざと怪我して保健室ですやすやしたい。
痛いのはヤだから実行不可能で手詰まり。

教室からずっと彼女作る気満々で鼻息を荒くする奴を手で払う。
きもちわるいぞ。
いつメンの他2人と賭けしようとしたが、全員彼女出来ない方を譲らなかったからお開きだった。
煙草代の足しになると思ったのに。

右から左へ通り道になってる耳を校長や生徒会長の真面目な話が走り抜けてからは、ほとんどテントの中で過ごした。
吸いて〜〜〜。
ニコチンチンと永遠の別れをしたような寂しさ。
お茶とかジュース飲むノリでキミには側に居てほしい。
口に付けるし実質一緒じゃんか。
しゃがんだまま、彼女募集中のバカがリレーで一着ゴールして盛り上がってたことも不満で口をへの字に曲げた。
小銭逃したかもしれん。
女子がキャッキャしてる。
運動だけはできるもんな。
ちぇー。


全力でもぎ取った、サボれるナンバーワン競技である玉入れ時間がやってきた。
整列と行進を促す放送は運動場のざわめきで掻き消えて無視。
緩く始まり、緩く終わった。やったぜ。
「お前んち親来てんの?」
「それがさ、親からじいちゃん達まで来てるんだよな」
「それで玉入れなのうける」
クラスメイトと保護者誰来てるのかとか話しながらテントへ帰っていた。
ちなみに俺んちは誰も来てない。仕事だって。
ぜってーめんどくさいからだぜ。
俺だって行かないもんな。

適当に話を続けてたけど、次の競技の待機列に久しぶりのやつの姿が見えて言葉に詰まった。
日差しを受けてキラキラ光る銀髪が頭ひとつ飛び出していて、待ち合わせに使えそうだった。

誰とも話している様子もなく、口を結んでつまらなさそうに首元を手で擦っている。
ボッチだ。
今度いつもの場所に来た時からかっちゃろ。
内心バカにしていると、ふとこっちに顔を向けた。
目が合い、やべ、バカにしたのバレた、と思った。
後輩は驚いたように目を大きくさせ眉を押し上げた。
途端、胸の辺りがもやもやっとした。

「おーいどうした?誰かいた?確か、次1年の競技だよな」

弾かれたようにパッと視線を外してクラスメイトに向き直った。
さっきまで話してたやつが俺の返事が無いことを不思議に思ったらしく、俺越しに覗くように待機列の方に身を乗り出した。
完全に忘れてた。

「いや?なんか派手な髪のやついるなーって」
あー。と納得したようにクラスメイトは首を上下に動かした。
「4月に女子盛り上がってた奴じゃん」
「あー知ってる知ってる」
「それ知らねえやつ」
適当に打った相槌に吹き出して笑われた。
なんでバレた。

しばらく無言で顔を見てくるのを同じようにしていると口が動いた。
「なんか寺田って、不思議だよな」
「…褒めてる?俺ミステリアスボーイ?」
「あははっそうそう」
こいつ思ってないな?
笑ったままのクラスメイトの顔を覗き込んでるうちに後輩と目が合った場所から離れていたし、後頭部に視線がまだあった気がしたけど、次の競技の入場の放送が聞こえても振り返ることはしなかった。

その日、昼食の時間の後も変わらずテントの端を陣取っていた俺はそれ以降後輩の姿は見なかった。



「…つまんね」
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