秘密の先輩

体育祭 後輩side



最近の俺は苛々していた。
クソ野郎がしつこく付き纏って来てあの場所に行く頻度が激減し、隙を突いて行ってもタイミングが悪いのか、来ていないのか、先輩と出会うことは無かった。
そんな日が続き、とうとう3週間丸々先輩と一度も言葉を交わすことが無く今日が来た。
ただの先輩と後輩。
連絡先すら知らない、そんな薄い膜のような関係。
それでも、アイツの隣に腰を下ろして無為に過ごす時間が普通になっていた俺にはどうしようもない違和感がずっと纏わりついていた。

教室の正面の端に書かれた"体育祭まであと…"が、"体育祭!"に変わっていたのを見て、楽しみにしてる奴がいたことが意外に思った。
恐らくクラスの女子だろうと見当を付け、考えはそこで停止した。
どうでもいい行事に違いはない。
休むことも考えたが、親が来る気満々でいそいそと弁当を作っているのを見て、諦めた。

教室でいつもよりテンションの高いクソ野郎をガン無視するも、慣れたように「リレー頑張ってねん、上瀬戸クン」と手を振られた。
無視した。
淡々と進む競技の中、親への義理だけで出場する競技である、クラス別リレーの待機列で放送を待っていた時。
ふと視線を感じた気がして暇つぶしにその方向に首を動かした。
何度か日差しの眩しさに目を瞬かせ、固まった。
無意識に短く息を吸って呼吸を止めた。

先輩。
寺田、先輩。

廊下から一方的に姿を見て以来の先輩。
あの時のように、体操着。
相変わらず髪型をセットすることもなく、死んだ目をしている。
あえて違いをあげるなら目を僅かに見開いていることだったが、俺も同じような顔をしていると頭の片隅で冷静に分析する。
視線が交わった、長いような短いようなその瞬間、この3週間の間で考えていたことが頭に駆け巡った。
バレて生徒指導されたのかもしれないこと、飽きたのか、俺が失言したことがあったのか、そんな不安が。
いつまで先輩の方を見ていたのか分からなかったが、気付けば聞こえていなかった騒ついた音が耳に入って来て、周囲の集団は離れた先に歩き出していた。
先輩は、既に視線を逸らして隣を歩く男子と談笑していた。

何色にも染まっていないその黒髪を見て、合わせた視線の中に僅かに混ざっていた、いつも非難してくる時に向けてくる"不満"があったのを俺は感じ取っていた。

何でお前がそう思ってんだよ。

先輩の後ろ姿から目を離し、さっきより遠くに行った集団へ足を早めた。

あの様子なら、次はあの場所の、いつものように気怠げに木を背もたれにして座っているところで会える気がした。

…手土産にいつも吸ってる銘柄でも持っていくか。



「ただのクラスリレーでうるせえな。これくらい普通だろうが」
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