中間テストですよ

先生トーキング〜ドキドキどんな話?〜



「………話し合いに同席することになったのは、俺、権現寺先生、宗の担任の橋口先生。風紀委員長の塩島、2年Bクラスのテニス部の生徒。の計5人だ。

集まって早々、証拠を見せるように権現寺先生が言ったから塩島が証拠として
"テニス部の生徒の話"
"宗の担任の話"
"お前…柴の机の中の写真"
を提示した」

俺は手に持っていたコップのお茶を一口飲んで頷く。問題はここからか。
お互い正面を見たまま先生は続けた。

「…話を塩島から聞いている間もどういうわけか権現寺先生は余裕のある顔でなー。
変に思ってたんだが、塩島が話し終えた後に権現寺先生が言った

"柴さんのは間違いないでしょう。ですが、後のお2人のは本当のところ……どうなんでしょうね?"

って言葉と、証人として来ていた2人の様子で察しがついた」
「…まさか」

思わず眉を寄せて先生の顔を見た。正面を見ながら先生も同じような、苦い表情を浮かべていた。

「そのまさかで、なんで知ってたのかわかんねーけど、根回しをしてたらしい。」
ゲェ。マジで信じらんねえ。

「それで……権現寺先生が南部のクラスメイトに話すように促すとー……可哀想にな、青い顔で権現寺先生と塩島の顔をチラチラ見ながら
"あれは思い違いだったかも"
って言った」
確かにその2人の板挟みはツラい。

「続けて、橋口先生が暗い表情で誰にも視線が合わないように下を向いて
"試験時は、宗君の試験用紙を回収しただけで、机の中を見ていなかったです。皆さんに話を聞いた時は動揺して勘違いをさせるようなことを言ったかもしれません。すみません。"

って言ったよ。」
は?
「…完全に言わされてるじゃないですかそれ」
「………流石にこれは俺も堪えた。
けど、まあー……橋口先生もご家庭があるからな…。キャリアがあってそこそこの地位を貰ってるアイツ相手から、何かしらの脅しはあったんだろうさ」
遂に美月先生も権現寺先生を"先生"と呼びたくなくなったらしい。

随分と客観的に橋口先生を庇護するような口振りだった。手元のコップから、先生に視線を移した。
橋口先生が脅された?
でも、じゃあ。

「…………先生は大丈夫なんですか?」
「俺?」

驚いたように俺の顔を見た。ようやく先生と目が合う。ゆっくり瞬きをした先生。次第に表情が崩れた。いつもの緩いにやけ面。

「俺を心配してくれてんのか〜〜!良い子だな〜〜尻撫でてやろう」
だからいらねえって。

手が近づく前に素早く弾いた。心配して損をするとはこの事だ。弾かれた手をヒラヒラと振りながら先生が笑った。

「まあ俺にはー…ドラえもんがいるから」
どらえもん????
空を自由に飛ばしてくれんの?
何を言ってんのかさっぱり分からない俺に、「まぁまぁ、要は俺は大丈夫ってこと」と誤魔化して話を戻した。

「あーっと、で、2人の証言があやふやになっただろ?まずいなーって何気なく塩島の方を見たんだが………。

あいつ笑っててな。」
なんで?こわい。

「怒り狂った故の笑顔なのか心配になって声を掛けようと思ったんだが、"問題ありませんよ"って言われてな。驚いた。それでここからなんだが……」
一旦話を止めて先生はコップの中を呷った。

「早速、まず言ったことは南部のクラスメイトに一言、"ネガ"」

ネガ?

「ネガって写真のネガフィルム?」
「…らしい、多分な。それ以上言わなかった。それで……勢い良く顔を上げて塩島を見た後に、

"…マジすよね?絶対ですよね?"
"それだけじゃありません。あなたの身も保証しましょう"

……って感じのことを言った後からは、はじめに言ったことと正反対の、俺らが求めていたことを詳細に話し出した…ってとこか」
目の前で取引されて赤っ恥だったろうな権現寺先生。わろた。

生徒を脅す材料としては、恐らく内申点か推薦、部活の何かだろう。それらを上回る程にその"ネガ"が魅力的だったらしい。

……何のネガなんだ……?

考えていると、先生が続きを話し出した。
「次に塩島は、橋口先生を見ながらポケットに手を突っ込んで、手のひらサイズの機械を取り出して机に置いてこう言った。

"橋口先生は先程、勘違いさせるようなことを言った。……とおっしゃいましたね?では本当はどう言ったのか皆さんで聞き直してみましょうか?"」
「……………。」

待てよ。
手のひらサイズの機械?
頭に浮かんだのは、塩島委員長と2人で職員室に行ったあの日のこと。塩島委員長がポケットの中で触っていた機械。にっこりと仕舞い直したアレ。

「…………録音機ですか?」
「なんだ、お前知ってたのか」
「いえ…ちょっと…見た気がして……」
あれ録音機だったか〜〜〜〜。
内心頭を抱えた。職員室に行く前に委員長が何かゴソゴソ準備をしていたのは録音機だったのがやっと分かった。流石だ。

「まぁ、そうだ。それでお前ももう分かると思うが……あの時の一部始終の音声が流れて先生2人が青くなったところで、ようやく話がついた。で、橋口先生含めて全員会議室から早々に追い出されて〜今、って具合だなー」
成る程な…。
今回は本当に塩島委員長に助けられたらしい。あの人が味方で良かった。マジで。

コップを両手で持ち黙っていると、先生から視線を感じた。

「で?…満足したか〜〜全部俺は話したぞ」
疲れた先生の顔を見て噴き出す。
「はははっ、いや、ありがとうございました。本当に、色々」

改めて礼を言って頭を下げたら、ポンポンと弾む様に軽く頭を撫でられた。そのままどこかに行こうとする先生の背に声を掛ける。

「…本数はなるべく控えてくださいよ、臭いので」
「……………おーおー分かった分かった、心配症なわんちゃんの為にも善処するって」
先生はぴたりと歩みを止めた後、苦い顔で一度振り返った。再び前を向いて手を肩まで上げひらひらとさせると、そのまま風紀室を出て行った。

……控えてほしいのは臭いから、だし。





「…あいつエスパーかよ」
「(……どうせエスパーって思ってるだろうけど……だって、先生灰皿あるか聞いてたろが)」
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