新入生歓迎会するんだってよ

2つの事件


これ無理だわ。
入り口付近に人が押し寄せ、さながら通勤ラッシュ時の電車内状態。
遠坂と上野は諦めて椅子に座った。

俺はなるべく近くまで…!と言う小森にえげつない腕力で腕を引きずられ人口密度の高い手前まで来ていた。
2人には半笑いでお見送りされた。
いや上野お前は止めろよ。

椅子に立って双眼鏡で見てるけどどっから取り出したんだ。双眼鏡がいる遠さでもなくね。あとそのおてて離して。

「坊ちゃんがそんな行儀悪い事していいのかー」
「今だけは許される。何故ならあのお姿を目に焼き付けない方が罪」
「危ないし椅子から降りようぜ」
「だから棒掴んでるんでしょ」
俺の腕は棒。


「はッッッッ?!?なんであの問題児っ!!!?」

小森に続き悲鳴や奇声とともにどデカイ声が響く。
「名前を聞くときは自分から名乗れよれーぎ知らず!!誰だよお前!俺は神庭 慧(ガンバ ケイ)だ!!」

失礼なのか何なのか分からない奴だな、誰だよ。
どうやら誰かと会話してるようだが、少し距離がある為1人の声しか聞こえない。

その直後今までの比にならない位の悲痛な叫びが食堂に響いた。

「×¥+・☆→%#^\〒÷○:?!?!!!?ッッッッハァ"ッ???!?!」
何を見たのか小森は最早人語を発せていない。ついでに腕力も人間超えてんぞ。腕もげそう俺涙目。

悲鳴が鳴り止まない中、腕を掴む力が無くなったかと思うと小森が椅子を降りる。

「いや顔色がやばいぞどうした」
「接近……黒もじゃ……綺麗……会長様………顔…幻……口で…ゴミとっただけ…キスじゃない…これは…全部夢……」

哀れなり………。
さっきまでと正反対になってしまった小森があまりに可哀想なので頭を撫でてなだめていると、打撃音が聞こえた。

直後

俺の方に人が飛んで来た。


え……?避け、


れないって!!!俺運動神経良いわけじゃないし……!!これはオワタ……と諦めてそのまま目をぎゅっと瞑る


と同時に横から腕を強く引かれ誰かの胸に飛び込んだ。

ガシャーン!!!と机をなぎ倒す音やら会長様と叫ぶ悲鳴やらが背後から聞こえる。

目の前には制服の上からでもだいぶ鍛えていると分かる筋肉質な身体。しかも俺より結構身長も高い。
って事は上野が助けてくれたのか。この一瞬で体が動くなんて、まず運動神経良く無いと出来ないもんな。

「悪い、助かった……またカレー奢る。安かったら…」
ホッとしたからかつい体に手を回しぎゅーっと抱き締め、安堵のため息を吐き香水の匂いを吸い込んだ。
…………香水?

「……何言ってんのか分かんねぇが。離れろ」

バッと離れる。

うっっっそだろ……っ!!

見上げると、烏の濡れ羽色の様な真っ黒の髪と瞳を持つ、耳にピアスをジャラジャラ付けてる切れ目のイケメンが訝しげにこっちを見ている。ちゃんと見たら制服もだいぶ着崩している。
全然上野と違うじゃねえか……!!!何を間違ってっ、アアアアアア顔が熱い死ぬ!!!!!

「すっ、いません…!その、人違いをしてしまって……!ほんと、助かりました、ありがとうございました…!」

「犬!あんた……」

頭を下げて素早く逃げる。
こっちに駆け寄って来て、びっくりした顔の小森の腕を掴み2人の元に急ぐ。

向こうからこっちが見えていたらしく、こっちに向かってくる2人とも合流。
上野は涙目で俺も行けば良かったと謝られ、遠坂も少し焦ったように近寄って来たが、俺が無事なのを確かめると無事で良かったと言われた。

丁度入り口の人がごっそり減っていた為やっと食堂を出て話をしながら教室に帰ることに。あの騒ぎのせいでゆっくり遠回りする時間も無くなってしまった。
俺にはその元気もなかったが。

「心配し過ぎだろ」
「あんなのに直でぶつかったら柴死んじゃう」
死なねえよ。

会長様が上野にあんなのって言われてるぞいいのか。そう思って小森を見るとスマホを見て真剣な顔をしてたので話しかけるのをやめた。

「でもね、人が集まってきたせいでこっちからは誰かが柴君にぶつかる寸前のとこまでしか見えなくて…本当心配したんだよ?柴君避けれて良かった…」
「あ〜〜……それは……」
ええと、あーと、知らない奴に抱き付いたくだりを避けて話すなら……

「犬が避けたんじゃなくて助けられてたよ。僕が見た時には相手に抱き付いてた」
「えっ」
「待っちが!!」……わないけど語弊を呼ぶ!!!!!!
「ちょ、柴が抱き付く?!!誰に……?!」
「えっとねっ、さっき調べてたんだけど、どうやらZクラスの有名な不良らしいんだ!今は3年生の飛鳥って人がZクラスを治めてるんだけど、その次の頭の有力候補って言われてるのが彼みたいだよ!」
それを聞いた上野は難しい顔をしている。

へぇ、あの人が、

…………………………。

「いやマジか……!」
やっっっっってしまったのでは?
舎弟か子分って人達に殺されるのでは??
せっかくわざわざ助けてくださったのに気安くボディータッチしやがってとか言って…!不躾だそてめぇって…!
あの人の方は、折角助けたのにゴミにボディタッチされて不快と思ってたんじゃ…………あれはゴミを見る目だったのか……!?でも、そんな嫌なやつではないと思いたい!!助けてくれたし!何より俺の生命のために!!!

「何、マジかってやっぱあんた知らなかったの。話したの少しの間だけだけどイイヤツダッタヨ」
「棒読みやめろ」
「まぁまぁ落ち着きなよ、その人はZクラスなんでしょ?校舎も離れてるみたいだし滅多に会うことはないと僕は思うよ」
「おれが住み込みで守る!」
「はいはい!じゃあ僕も!」
「そんな事言ったら僕もお邪魔しようかな〜。来たばっかりで不安なんだよねぇ」
「嘘つけ盛り上がんなー!駄目!却下!」

何言ってんだこいつらは。原則2人部屋なのにどういう部屋設計だよ。
しかも、運良く2人部屋を現在1人で使っているこの優雅さと共有スペースを片付けてない堕落ぶりを見られるわけにいかない…。
特に上野。綺麗好きだから絶対怒るし片付けるはず。俺はあの堕落空間、嫌いじゃないんだよな…。

ぶーぶー言うな!


皆して俺の部屋に移り住む詳しい内容を話しながら教室に戻った。

今日は始業式だった為午後からの授業は無い。担任からの新入生歓迎会を近々開く話と今後の授業の軽いお知らせのHRで解散。

今日は濃かった。
共有スペースに置いたままのアニメの続いを見て癒されよう。ついでにこの前姉ちゃんが送って来たDVDも広げたままだったな…ちゃんと感想を送らないと後が怖いから観ないと。

そう考えながら遠坂達と4人で帰ろうとしていると、担任に呼び止められた。数分で終わる話だからと言われ、皆には待ってもらい俺だけ担任の前に小走りで向かった。

「前髪転校生クンと仲良くなって担任としては嬉しい限りだなぁー。わんちゃん、俺がいい子いい子してやろう」
「手を伸ばす所間違ってますよ。煙草って…脳に…も支障もきたす…んですかね…!検査しに…病院に入院するのをお勧めします!」

お勧めします、で俺のケツに伸びた手やっと振り払う。仮にも犬と言った生徒のケツに手を伸ばすとは。マジで病気かセクハラ野郎め。訴えたら勝訴ぞ。

「じゃれ合いはこの辺で終わるとして、柴、今部屋を1人で使ってるだろ」
「えぇまぁ」
「そんなお前に良いお知らせだ。今日からはじめてのルームメイトが出来る。良かったな!」

「!?」

「なんだ?口を開け閉めして…そんな嬉しいか〜〜俺も嬉しいな〜〜」
はははは(棒)ってあんた、それ、なんで今日言うか…!!!

「俺に当たんなよ……実は俺もさっき聞いたんだ。なんでも、転校生が手違いで1人分としか寮の管理人が聞いてなかったらしく、急遽お前の部屋に"はみ出た奴"が滑り込みだ。相手は聞くところZクラスの奴らしい…悪いが、」一時避難としてだから次の部屋が用意されるまでの辛抱だな!殴られそうになったら逃げろよ!
…………って言われても……!!まずはみ出たってなんだよところてんじゃねぇんだから!!

いや、まずヤバい事が1つ…………

共有スペース!!!!!

「アッッ分かりました!用事を思い出したので失礼します!」
少し驚いた様子の先生を放置してダッシュで皆の元に。
「悪い!ちょっと急ぐからまたラインする!上野に聞いてて!」
「えっ柴?!どこ行……くんだ…?」
「柴君…?先生から何を聞いたんだろう」
「犬め生意気な……」

ほんと皆には悪いけど話してる時間と余裕が無い……!!
話しながら通り過ぎてスピードを落とさずドアに直行。

アレを……、姉ちゃんから送られたアレを見られるわけにいかないんだってば……!!!


ゼェハァ言ってやっと自分の部屋の前に。
遠い………!!!
焦りで少しもたつきながらカードキーでロックを解除し、電子音を聞こえた瞬間音が鳴るくらい勢い良くドアを開けて部屋に入った。

く、くくく靴が…………ある…………!!!!!!

いや……!まだわんちゃんあるやも知れん…!玄関から廊下を真っ直ぐ言った先に2つの部屋。間にある左側の磨りガラスのドアを開けると共有スペース。


つまり、一直線に部屋に入ったなら…………!!


ガチャッ!!!

バンッ!!!!!!


ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



勢い良く開けたドアはその勢いのまま元の位置に戻った。




「(アアアアアアアアアア背中しか見えないけど座り方が確実にヤンキーと呼ばれる人種の誰かがアレを片手に持ってるウウウウウウウウ)」
「…………………………………。」
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