中間テストですよ

風紀室でシャンシャンする俺is何



委員長が紙を捲る音を室内BGMに、イベスト解放のために俺が小音でシャンシャンしていると唐突に携帯の着信音が。
俺じゃないし、委員長?とタイミングよく完走したので携帯から顔を上げると、委員長もこっちを見ていた。
委員長でもない?
ってことは…。

「ボクですボクボクBO・KU〜〜」
それまで恐ろしく静かにしていた加賀屋先輩のだった。

じゃあいいや。
と、またシャンシャンしようと思ったが、加賀屋先輩って縄で縛られてるんだよな?どうすんだろ。と疑問が湧いたので委員長の動向を確認することにした。幸いあとは最後のストーリーだけになったし。

委員長は、暫くは額を指で掻いて無視していたが、鳴り止まない音に書類を机にバサッと置いて席を立ち上がった。

無言のまま加賀屋先輩の体から音の主を探る。いや〜ん、とふざける加賀屋先輩を勿論黙殺。
探り当てた携帯の画面をじっと見て、画面をタップ。

『もしも〜し!ぶちょー!聞こえてる?風紀行くって部室出た以来連絡無いからどうしてんのか気になって掛けちゃった!」「会えた?会えた?」「ヤクザ先輩がうーたんに会えるように取り計ってくれるって言ってたけど」「あれ、待って?」「なに?」「どしたどした?」「あ」「ってことは、もしかしたら今これ電話でたの部長じゃない説ある?」「あ」「あ」「説〜!』

「御明察〜!!」と、加賀屋先輩。
呑気か。

雑音が混じりながら、多分複数人(声質が似てるからあくまで多分)の声が代わる代わる話しているのが聞こえた。雑音なのはスピーカーにしているせいだろう。
でも何故にスピーカー…?
不可解なことをした委員長は笑顔。
こわい。

「大正解ですおめでとうございます。その声は写真部の4つ子でいらっしゃる蜜口君達ですね?私は先日お伺いしました塩島で、あなた方の仰る"ヤクザ先輩"です。

…"うーたん"の事、存じてらしたとは驚きましたね。」
『「「ひえ」」」「バレてら』
悲鳴が上がった。

「ところで…用事は済んだので暫くしたら帰って頂く予定ですが、他にも用件があればお伺いしましょうか?」

ブラックな笑みを全開に、委員長は加賀屋先輩に向かって何故か挑発してるようだった。
さながら"このまま言わせて良いのか?"と。
だが、電話が掛かってきた時とずっと変わらない緩い笑みを加賀屋先輩は浮かべたままだった。

「クラブズ話していいよ!なぁに?」
『だから僕らをまとめて呼ばないでっていっつも言ってるのにー!」「え〜いいの?』

困惑気味な彼らだったが、加賀屋先輩は「だってボクらじゃないと分かんないっしょ」と、あっけらかんと言った。
それを耳にし、委員長が目を据わらせて片眉をあげて腕を組み直した。


…………。
俺、完全に蚊帳の外だなこれ。
写真部が何か風紀に隠してる…って感じだけども。写真部って何してんだ?写真撮ってるんじゃ?あれ、そういや俺、目の前の人以外に写真部だって人見たこと無いな…?ってか4つ子て。

と、疑問が幾つか浮かばせている間に話は進んでいた為、意識を電話の方に戻すことにした。

「それで?なんか問題あった?」
『と、いうより吉報って感じ?」「動きがあったんだ」「ムクドリエリア1Aが忙しなく始めて、」「そうそうムクドリは全体的に動きがあったね!』
「…へぇ〜…そっかあ…。じゃあそこは引き続きよろしくネ」

加賀屋先輩は思案するように目を伏せて縛られたままの身体を少し反らせた。

「カワセミとスズメは?」
『あそこは相変わらずだねー」「最近のお気に入りの場所にいるよ」「授業中なのに良いご身分〜〜!」「ほんとっ!ねぇーーちょっかいかけていーい?』
「だぁめ。でも…うーん、まぁちょっとは良いよ。たまにはネ」
『『『『やったー!』』』』
「じゃあ次に…」

授業中なのにって点ではお前らも一緒では???キャッキャッと盛り上がっているのを聞きながら、再度目線をゲームの方にやった。体力回復アイテムも残り少なくなってきたから自然回復を数個分待っていると、委員長がやってきて、俺の座っている背もたれのところに両手を着いた。
どうしたのか、と目線を上げて表情を窺うと、加賀屋先輩の方をジッと見ているだけだった。携帯も加賀屋先輩の膝の上に置いてきたらしい。
一体何しに来たんだこの人。

「…柴君」
思ったまなしに話しかけられ、思わず肩が少し跳ねた。今からは話しかけますよって雰囲気出してくれ。ビビる。

「…なんですか」
恐る恐る返事をした俺を流し目で一瞥。再度視線を加賀屋先輩の方に向けた。
「あれ、何の話してる思いますか?」
何のって…。
「……校内で野鳥観察…とか…?」
「フッ」
鼻で笑われた?!
ムクドリ、カワセミ、スズメって、普通そう思うだろ!!!!なあハム太郎!!!

「今話してる鳥、ご存知ですか?」
今?聞き耳を立てると、今の話題はアオサギらしい。加賀屋先輩が面白くなさそうに口を尖らせていた。
「いえ、パッとは思いつかないですけど……サギって体が大きめの鳥ですよね?それが…?」
「あの鳥、採食は水深の浅い水田や川の浅瀬、なんです」
へぇ。物知り。
「グーグルで調べました」
グーグル先生かよ!!!なんだよ!!!

じゃなくて、
「あれ…水田と川って…」
「そうです。この辺は理事長が開拓しているのでいくらここが山奥でも川は学園付近ではありませんし、水田なんて見当たることもありません」
あー…。

なんか雲行きが怪しいな。

「そして、あれのカメラの中の画像ですが……聞きたいですか?」
「いいです。大丈夫です。」
間に合ってます。嫌な予感がするので関わりたくないです。
「そうですよね聞きたいでしょうそうでしょう」
首をぶんぶん横に振るのが見えなかったらしい。眼鏡新調しろください。

委員長は顔を寄せ、俺の耳元まで来るとひっそりと告げた。

「鳥の画像なんて1枚も無かったんですよ」

「へ、へぇ……ソウナンデスカァ…」
大変よく色気のあるお声で……。
「その代わり、眉目秀麗な生徒達が沢山写っていました。」
そこまで言わなくても良かったです。

まああまりに枚数が少なかったので、こちらに来る前に大部分消したんでしょうけど。と委員長は独りごちた。
そんな情報も口に出さなくて良かったと思います。

盗撮かぁ…盗撮なんだろうなぁ……。
遠い目になった。

にしても、俺がそれを聞く必要性が分からない。
「どうしてそんな話を俺にするんで…す……」

口を開いてすぐ、しまった、と思った。
委員長が満面の笑みを浮かべたから。
聞くべきじゃなかったやつ〜〜!
「いやその、」
「ふふ、それはですね。…君もお察ししているでしょう?」
誤魔化そうとしたが全然聞く耳を持ってくれない。

そりゃあ…当然、察しはな…。
してるよな…。

"3人の証拠が集まって身の潔白が晴れた時が風紀に入る条件"

…………。


ふふふ。と笑う委員長に引き攣り笑いを浮かべていると、加賀屋先輩の方の話は終わったらしかった。「終わったよー」と言って数少ない可動域の上半身をゆらゆら動かし、通話が終わったことを俺達に知らせていた。
加賀屋先輩の方に歩き出して背を向けた委員長にこっそりため息を吐いた。

話し込んで放置され、真っ暗になった俺の携帯の液晶に俺の情けない顔が映っていた。

あーどのくらい体力貯まったかなー……つって……。

加賀屋先輩の携帯を元の位置にしまい直す律儀な委員長を横目に、再度開いたアプリでわずかに貯まった体力を見ると、あと少しでキリがいい数字になりそうだった。あと少しだけど手持ち無沙汰だな…と机に目をやると、委員長が冷蔵庫から取り出し淹れてくれたカルピスが。
コップの周りには結露が付き、机に小さな水溜まりを作っていた。
そういや飲んでなかったな。

折角なのでありがたくいただく事に。
結露で手を滑らせそうだと危惧して、両手で口元まで運ぶ。一口、二口、と喉を通すと、委員長は濃いめのカルピスが好きらしいことが分かった。美味い。家庭によって作る濃さ分かれるって言うよな、これ。俺んちは少し薄めだった。炭酸割りで。

でも委員長がこれ出すの意外だったな。コーヒーか紅茶、ワンチャン水かと。

あと数口で飲み終わるところで、一度口から離した。
熱い視線を無視できず。
見たくないが、ゆっくり頭を動かして視線の主を睨んだ。

「……あの…………加賀屋先輩」
「ん?あっ、しーちゃんって呼んで!」
違うだろ。
「加賀屋先輩」
「やっぱ先輩って良いな…いや、しーちゃ………………加賀屋って呼んで!!」
「わかりました。先輩」
「わかってないねっ!?」
希望を全て反していくスタイル。

「先輩。……セクハラ」

白濁色の飲み物を飲んでる人をガン見するとか、"そういう視線"としか。ましてや俺らは男子高校生。すぐ思い当たった。
俺はそこまで鈍感じゃない……つか、こんなあからさまな視線浴びせられたら誰でも気付くわ。俺がそういう対象になるとは露ほども思ってなかったけどな。

出来る限りの冷たい視線を浴びせるも、息を荒げられた。逆効果とか。そんなことある?

……………。

「………塩島委員長」
「はい?」
元の作業に戻っている委員長は視線を上げずに返事をした。忙しい中すいませんと思いつつ、どうしても吐き出したかったことを続ける。

「……あの、俺、基本的に目上の人や初対面、尊敬に値する人には敬語で話しているんですが、」
「それは良い心がけですね」
ありがとうございます。

で、

「…………これには敬語使えないんですけど」

嬉しそうな顔を浮かべている(なんで?)加賀屋をビッと指差した。人を指差しちゃいけませんって?変態、変異形態物だからあれは人じゃない。ノーカン。モウマンタイ。

委員長は顔を上げないまま手を止めると、「使わなくてよろしいかと。それと、罵倒はできる限りお勧めしません。逆効果なので。」と言って再び手を動かした。

えぇー……………。

コップに残った僅かなカルピスに目を落とし、グイッと一気に飲み干してテーブルに置く。勢いを殺しきれずに高い食器のぶつかる音が甲高く響いた。そして、見てんじゃねえ。という意を込め、再度加賀屋先輩を睨みつけた。





「うーたんのレアな冷たい視線ありがとうございます!!!!」
「喧しいです。メモリぶち壊しましょうか?部室に置いてあるでしょうバックアップデータ含めて」
「お願いします」
「アーーーーーーーッ」
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