中間テストですよ

良い話。悪い話。



来る途中鉢合わせた先生に間違ったことを口走った気がしつつ、風紀室の前に着いた。

息を切らしたまま、ドアをノック。
切られた電話の内容に頭がいっぱいになっていた俺は慌ててしまっていて、返事を聞く前にドアを開けてしまった。

そう。開けてしまった。

呼吸を整えながら見えた光景は、

体を椅子にロープで縛り付けられ、顔には口枷が付けられている知らない生徒。
その前に腕を組んで立つ塩島委員長、だった。

中の2人がこっちを見た。

「ししし失礼しました…」

目が合う前に顔を下に向け、スッと静かに扉を閉めた。

………。
公開SMプレイで呼ばれたんで?
床が綺麗だなー。と下を見ながら無になる俺。

帰るか、と思って顔を上げてすぐに扉が1人でに勢いよく開いた。

「何してるんですか。何も言わずに早く中に入ってください」
何も言わずに。
「すいません」
俺、悪くなくね?


先客から全力で目を背けつつ、委員長に続いて中に入った。

扉を閉めて直ぐに委員長が腕を組んだまま口を開いた。

「授業があるのに突然お呼びだてして悪かったですね。至急話しことと、見せたいものがあったので」
「いえ…」
見せたいものってコレですか。ところで椅子に縛られている人について何も言わないのは何故ですか。を飲み込む。


「唐突ですが、柴君には悪い話と良い話があります」
実際に使う人初めて見た〜!
内心キャッキャってしている場合ではない。

「どちらから聞きたいですか?」
真剣な顔の委員長に神妙な顔になる。

「……良い話からで」
「分かりました」

いいでしょう。と言って、何故か机の方に向かった。手に持ってきたのは、どうやら写真の束の様だった。
端っこにあったホワイトボードを引っ張ってきて、1枚ずつそれを貼っていくのをただ眺める。視界の端に動く影。
じたばたモゾモゾ動く人なんていない。

いない…。

マジで誰。

手持ち無沙汰の俺は目だけでチラッと、縛られていまだに放置されている人を観察した。

パーマを当てているのか、くるくるした髪。色は、色落ちして結構経ったらしく地毛の黒髪と金髪とで半分のプリンに。柄の入ったお洒落な丸眼鏡………の、チャラそうなイケメン。だった。
口枷とロープには触れません。触れませんとも。

委員長が何もこの人について言わないし、ひょっとすると俺との話とは全然関係なくて、違反でもしてここに居るだけなのかもしれない。

でもキラキラした目でこっちを見てくるのが怖いので帰して欲しいです。今すぐ。

観察を終えて顔ごとチャラい人から背けていると、作業は済んだらしく委員長が話し始めた。

「さて、柴君。私が今貼っていった写真がありますね?」
「はい」
頷いて、ようやくしっかり写真を見た。
1枚1枚を順に……見る…………と同時に固まる。


写真には、全部 俺 が写っていた。

「はい?!??」

エッッッッッなに?!?こわい!!??
恐怖心で後退りをして、風紀室の出入り口の扉に背が勢い良く当たりガタッと音が鳴る。

貼られた10数枚の写真には、校庭で体操服を着ている俺、廊下で立っている俺、教室で席に座っている俺、食堂でパフェを食っている俺…俺俺俺……レゲェ砂浜ビッグウェーブ!!!!!

発狂しそうになるのを堪える。SAN値チェックしますか?やめておきましょう。

「何ですかそれ?!!!?」
震え声で委員長に聞いた。
「良い話、です」
「どこが?!??!」
というか答えになってねえよ!!!!!
半泣き半ギレで聞き返すと、写真をよく見てください。とにっこり。

見たくねぇ〜〜〜!
恐る恐る、魔のホワイトボードに近付く。
隣に立った委員長が、この写真。と指差したのは、教室で座っている俺が写った写真。
渋々観察する。

アングルは俺の後ろから。(なんで?)
椅子を後ろに少し引いて隣の遠坂と談笑している俺の横顔が。(ピントはここだ。)周りは数人の生徒が立っており、休み時間か、授業終わりのようだった。教壇の前のスクリーンからも文字が見えた。ブレているしだいぶ小さいが、ギリギリ読み取れたのは…

「3限目科目、……10:50~11:40まで……って!まさか!」
上擦った声を出してパッと隣の委員長の顔を見上げた。目を伏せて笑っていた。早る気持ちのまま、もう一度写真を見る。

見るところは勿論、机の中。

俺の身体が邪魔だったが、後ろに少し椅子を引いていたお陰で2/3は見えた。


中身は、


空。


「塩島委員長!!」
「そして拡大した写真はこちらです」
先にそれ見せろよ。

喜びが溢れた俺に対して、何故か手に隠し持っていた、机の中だけを拡大した写真を提示して来た。テンションガタ落ちした。

「写真、それだけで良かったのでは…」
「演出です」
そうですか…。
白けた目で委員長を見た。

って、待てよ。ふと思い立つ。
「あの、俺の証拠が見つかったのが良い話…ですよね?」
「ええ」
「じゃあ…悪い話って…」
口元をひくつかせながら委員長に聞くと、にっこり笑いながら首を傾けた。

そして、チャラい人に近づき、口枷を外した。途端、


「うーーーたん!!!!!!!!!!

生のうーたんとこんな息の届く程近くで会えているなんて欣喜雀躍なんだけど!!!?!ジップロック持って来てないことが悔やまれグッ」

爆音が収まる。
言い切らぬうちに口枷を嵌め直した委員長に静かにお礼を言った。





「………。うーたんって…」
「あなたのことらしいです」
「ん!」
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