中間テストですよ
4
「「敵…?」」
止まった空気を動かしたのは、止めた当人。
「おっと言葉が足りませんでしたね。"権現寺先生の敵"です」
眉をギュッと寄せて引いた顔をする先生。
「お前…何させるつもりかと思ったわ…。いや、それは変わらねーか…」
変わらねーですね…。
身振り手振りで俺に、何コイツ。って伝えてくるのはやめてください先生。俺も分かってません。
そんな俺と先生を総スルー。
「柴君から聞いた限り、美月先生は権現寺先生の敵でも味方でもありませんね?」
「そりゃあ…先輩で同僚だしなあ」
「では、今回は敵にまわって頂きたく存じます」
「今回は、って……」
まあ今回もクソも、今後居心地最高に悪いだろうな。ドンマイ。
いや、もういいって、コイツ何?のジェスチャー。
流石に先生も渋い顔のままだ。
「助けになることはするが、敵にまわすまでってことは…」
「1人、証人が見つかりました」
話を遮るように、取りたてほやほやの情報を委員長は出した。
先生の空気が変わる。意識を変えてくれたらしい。僅かだが真剣な顔に。
「誰の、何人の証明になる?」
「南部君ただ1人の」
「……………俺が敵をつくれば好転する?」
「恐らく」
無言になった先生が委員長と合わせていた視線を外して空を仰ぐ。と、勢い良く頭を項垂れ、重ぉい溜息を吐いた。
「………分かった。
……分かった分かった、俺は聖職者だから可愛い生徒の為なら…同僚先輩後輩の1人や2人売ればいいんだろ全く……」
「ありがとうございます」
当然という様に、満足の笑みを委員長が浮かべた。
っょぃ。
「さて、では早速ですが話の擦り合わせをしましょう」
っょぃ委員長は制服のジャケットのポケットから小さなメモ帳を取り出した。
先生の持っている情報と、こちらの情報を合わせる。すると、委員長も驚く程に先生の知っていることは少なかったのが分かった。
会議室で話していた内容で全てらしい。
それは…同じ教員同士にしてはおかしくないか…?
同じことに引っ掛かりを覚えたらしい委員長。話を聞いてすぐ、メモをポケットに直すと先生に話しかけた。
「美月先生、早速ですが」
「はいはい」
「問題のあった日、2年のSクラス、Aクラスの試験監督をした先生方は今ここにいらっしゃいますか?」
立ち上がって周りを見回し、頷いた。
覚えてるのか。
「それでは。今から個別に、それとなく試験日のことを各先生に伺ってきて頂いてもよろしいですか?それと…皆さんも存じていると思いますが、3人の不正疑惑の話も混ぜて」
「……そりゃーそんな嗅ぎ回る様な真似、権現寺先生の敵にもなるわな〜〜」
やれやれどっこいせ。とじじくさい掛け声と共に重い腰を上げた先生。早速向かってくれた。
いつの間に手にしたのか、相談するかのように何かのプリントを持って1人、また1人と話しかけて行く先生の背中や、職員室の中を何気なく眺める。
身じろぎをするような動きを感じてふと横を見ると、委員長がポケットからライター程度の大きさの機械を覗かせて触っていた。
な、なぁにそれぇ……?
口角を引き攣らせて委員長を見ていると、視線を感じたらしく俺とばっちり目が合ってしまった。
にっこり。満面の笑み。そしてそのままポケットに機械を再びin。
一方的な気まずさをおぼえて内心ガクブルしていると、美月先生ともう1人先生が慌ててこちらに向かってくるのが見えた。
助かった…!!
「あ、あの、宗さんが試験の嫌疑にって本当ですか…!?」
「柴と南部もですよー」
来たのは宗の、Sクラスの担任で、いつも敬語で穏やかな所が保護者から好評らしい、世界史の先生。美月先生が後ろからやってきて補足。
何も知らない、といった様子の先生に委員長と俺は目を合わせた。
やっぱりか。
「……まだ3人にしか聞いていないが、全員同じような"何も聞いてない反応"、だった。……どういうことだこれ?」
「まあ。そのままの意味でしょうね」
そのままの意味だろうな。
「あ〜?」
先生が反抗期の学生みたいな返事やめてくださーい。
動揺が治まらない先生から目を離して美月先生に委員長が話を振った。
「それで?話は聞けたんですか?」
「その話をする前に…」
「あっ、そうです!…宗さんはそんなことできません…!」
声を荒げたことを自覚した先生が、ワントーン落として2人の会話に入った。
「それは分かってますって…」
あまりに食い気味に来る先生に美月先生が困惑してタジタジになっていたが、それもすぐに終わった。俺と委員長も含め。
「だって、
最後の試験科目の時に宗さんの机の中は空だったのを私確認しました!」
え。
斜め上の返答に固まる3人。
初動は委員長。
「その……どうしてそんなことを?」
「宗さんが腹痛で一度お手洗いに行ったので……決まり通りに試験紙を回収したあと、一応覗き見ました…!」
次に俺が。
「あー…その、最後の科目の試験中、机の中は何もなかったってことですか?」
「そうです…!!」
力強く頷く先生。
最後に美月先生がまとめた。
「つまりだ…。宗が最後の科目で席を立った後の机の中は空。
仮にカンニング用の教科書を持ち出し、戻ってきても試験紙が無いから不正はできない…ってーこと?」
で、Q.E.D.!!!!
宗に関して簡単だ。空になった状態を試験中に証明された。もし教科書を持っていたとして、出し入れをする動作が試験中に確実に必要になる。そんな怪しい動作、試験中、ましてやSクラスで見逃されるはずねぇわな。
だから、戸締りをした放課後にそんな宗の机の中から教科書が見つかるなんておかしな話なんだ。
「というか、宗は試験中にトイレ行ったって話しろよ」
「ご、ごめん……先生が机の中見てたなんて知らなくて……」
先生達が話し込み出したので委員長に任せ、手持ち無沙汰になった俺は宗に電話をかけた。宗の疑いも無事晴れそうだという報告も兼ね。
2人の方は進展は特にないらしいが、兎に角順調に宗も証明できそうでよかった。
電話を切った後ホッと一息吐いていると、先生達の話も終わったらしい。どうやら権現寺先生に証明する際に証人として来いよ、という話っぽい。そして、権現寺先生が他の教員の誰1人とも話の共有を行なっていないのを知っている、という話は秘密裏にしておくことにもしたようだ。
「根回しされたら困りますからね…伝えた他の先生への口止めもよろしくお願いしますね。」
委員長の言葉に美月先生は頷いた。
そうしているうちに、だいぶ時間も遅くなっていたようだった。
部活動が終わる時間で、権現寺先生も直に帰ってきそうなので美月先生達と挨拶をして早々に職員室から出た。
部活も終わってこれから話を聞ける人もいないから、今日はこれで解散に。という委員長に了解の返事を返す。
「風紀室に戻って俺は2人と帰りますね」
「いえ、先程風紀を向かわせたので、お二人のご心配は無用ですよ」
いつの間に。仕事が早い。
「それで、あなたですが…」
顔をこちらに向ける委員長に、胸前で手を横に振った。
「俺は大丈夫です」
「いえ。もう呼んでます」
WHAT?
教員用トイレの前で足を止める委員長に倣い、俺も歩みを止めた。疑問をぶつけるより早く、正解が軽い足取りでやってきた。
「おい、クソ風紀。なんだあのライン……って柚木」
「よ、よっす惶」
制服の上から羽織ったパーカーのポケットに手を突っ込みながら現れた惶は、最初委員長を睨んでいたが俺に気づいて納得したような声をあげた。
一体委員長は惶になんて送ったんだよ。
惶と委員長を往復して見た俺の視線に委員長は片眉を上げた。
「迎えの騎士が必要だから至急来てください、と送っただけですが?」なにか?
じゃねえが?
随分とクサイ言い回しを。
白けた視線が2つ刺さっている筈だが、なんてことないように口元に手を当てて欠伸を噛み殺した委員長。
「では、私も今日は疲れたのでさっさと帰ることにします。柴君もお疲れ様でした、また明日もよろしくお願いしますね。お気を付けて」
「あっはい、こちらこそよろしくお願いします…!お疲れ様です!」
「ところで、柴君が風紀に入るまでリーチがかかってますね。歓迎パーティーの準備でも致しましょうか?」
「け、結構です………」
「何の話だそれ」
「「敵…?」」
止まった空気を動かしたのは、止めた当人。
「おっと言葉が足りませんでしたね。"権現寺先生の敵"です」
眉をギュッと寄せて引いた顔をする先生。
「お前…何させるつもりかと思ったわ…。いや、それは変わらねーか…」
変わらねーですね…。
身振り手振りで俺に、何コイツ。って伝えてくるのはやめてください先生。俺も分かってません。
そんな俺と先生を総スルー。
「柴君から聞いた限り、美月先生は権現寺先生の敵でも味方でもありませんね?」
「そりゃあ…先輩で同僚だしなあ」
「では、今回は敵にまわって頂きたく存じます」
「今回は、って……」
まあ今回もクソも、今後居心地最高に悪いだろうな。ドンマイ。
いや、もういいって、コイツ何?のジェスチャー。
流石に先生も渋い顔のままだ。
「助けになることはするが、敵にまわすまでってことは…」
「1人、証人が見つかりました」
話を遮るように、取りたてほやほやの情報を委員長は出した。
先生の空気が変わる。意識を変えてくれたらしい。僅かだが真剣な顔に。
「誰の、何人の証明になる?」
「南部君ただ1人の」
「……………俺が敵をつくれば好転する?」
「恐らく」
無言になった先生が委員長と合わせていた視線を外して空を仰ぐ。と、勢い良く頭を項垂れ、重ぉい溜息を吐いた。
「………分かった。
……分かった分かった、俺は聖職者だから可愛い生徒の為なら…同僚先輩後輩の1人や2人売ればいいんだろ全く……」
「ありがとうございます」
当然という様に、満足の笑みを委員長が浮かべた。
っょぃ。
「さて、では早速ですが話の擦り合わせをしましょう」
っょぃ委員長は制服のジャケットのポケットから小さなメモ帳を取り出した。
先生の持っている情報と、こちらの情報を合わせる。すると、委員長も驚く程に先生の知っていることは少なかったのが分かった。
会議室で話していた内容で全てらしい。
それは…同じ教員同士にしてはおかしくないか…?
同じことに引っ掛かりを覚えたらしい委員長。話を聞いてすぐ、メモをポケットに直すと先生に話しかけた。
「美月先生、早速ですが」
「はいはい」
「問題のあった日、2年のSクラス、Aクラスの試験監督をした先生方は今ここにいらっしゃいますか?」
立ち上がって周りを見回し、頷いた。
覚えてるのか。
「それでは。今から個別に、それとなく試験日のことを各先生に伺ってきて頂いてもよろしいですか?それと…皆さんも存じていると思いますが、3人の不正疑惑の話も混ぜて」
「……そりゃーそんな嗅ぎ回る様な真似、権現寺先生の敵にもなるわな〜〜」
やれやれどっこいせ。とじじくさい掛け声と共に重い腰を上げた先生。早速向かってくれた。
いつの間に手にしたのか、相談するかのように何かのプリントを持って1人、また1人と話しかけて行く先生の背中や、職員室の中を何気なく眺める。
身じろぎをするような動きを感じてふと横を見ると、委員長がポケットからライター程度の大きさの機械を覗かせて触っていた。
な、なぁにそれぇ……?
口角を引き攣らせて委員長を見ていると、視線を感じたらしく俺とばっちり目が合ってしまった。
にっこり。満面の笑み。そしてそのままポケットに機械を再びin。
一方的な気まずさをおぼえて内心ガクブルしていると、美月先生ともう1人先生が慌ててこちらに向かってくるのが見えた。
助かった…!!
「あ、あの、宗さんが試験の嫌疑にって本当ですか…!?」
「柴と南部もですよー」
来たのは宗の、Sクラスの担任で、いつも敬語で穏やかな所が保護者から好評らしい、世界史の先生。美月先生が後ろからやってきて補足。
何も知らない、といった様子の先生に委員長と俺は目を合わせた。
やっぱりか。
「……まだ3人にしか聞いていないが、全員同じような"何も聞いてない反応"、だった。……どういうことだこれ?」
「まあ。そのままの意味でしょうね」
そのままの意味だろうな。
「あ〜?」
先生が反抗期の学生みたいな返事やめてくださーい。
動揺が治まらない先生から目を離して美月先生に委員長が話を振った。
「それで?話は聞けたんですか?」
「その話をする前に…」
「あっ、そうです!…宗さんはそんなことできません…!」
声を荒げたことを自覚した先生が、ワントーン落として2人の会話に入った。
「それは分かってますって…」
あまりに食い気味に来る先生に美月先生が困惑してタジタジになっていたが、それもすぐに終わった。俺と委員長も含め。
「だって、
最後の試験科目の時に宗さんの机の中は空だったのを私確認しました!」
え。
斜め上の返答に固まる3人。
初動は委員長。
「その……どうしてそんなことを?」
「宗さんが腹痛で一度お手洗いに行ったので……決まり通りに試験紙を回収したあと、一応覗き見ました…!」
次に俺が。
「あー…その、最後の科目の試験中、机の中は何もなかったってことですか?」
「そうです…!!」
力強く頷く先生。
最後に美月先生がまとめた。
「つまりだ…。宗が最後の科目で席を立った後の机の中は空。
仮にカンニング用の教科書を持ち出し、戻ってきても試験紙が無いから不正はできない…ってーこと?」
で、Q.E.D.!!!!
宗に関して簡単だ。空になった状態を試験中に証明された。もし教科書を持っていたとして、出し入れをする動作が試験中に確実に必要になる。そんな怪しい動作、試験中、ましてやSクラスで見逃されるはずねぇわな。
だから、戸締りをした放課後にそんな宗の机の中から教科書が見つかるなんておかしな話なんだ。
「というか、宗は試験中にトイレ行ったって話しろよ」
「ご、ごめん……先生が机の中見てたなんて知らなくて……」
先生達が話し込み出したので委員長に任せ、手持ち無沙汰になった俺は宗に電話をかけた。宗の疑いも無事晴れそうだという報告も兼ね。
2人の方は進展は特にないらしいが、兎に角順調に宗も証明できそうでよかった。
電話を切った後ホッと一息吐いていると、先生達の話も終わったらしい。どうやら権現寺先生に証明する際に証人として来いよ、という話っぽい。そして、権現寺先生が他の教員の誰1人とも話の共有を行なっていないのを知っている、という話は秘密裏にしておくことにもしたようだ。
「根回しされたら困りますからね…伝えた他の先生への口止めもよろしくお願いしますね。」
委員長の言葉に美月先生は頷いた。
そうしているうちに、だいぶ時間も遅くなっていたようだった。
部活動が終わる時間で、権現寺先生も直に帰ってきそうなので美月先生達と挨拶をして早々に職員室から出た。
部活も終わってこれから話を聞ける人もいないから、今日はこれで解散に。という委員長に了解の返事を返す。
「風紀室に戻って俺は2人と帰りますね」
「いえ、先程風紀を向かわせたので、お二人のご心配は無用ですよ」
いつの間に。仕事が早い。
「それで、あなたですが…」
顔をこちらに向ける委員長に、胸前で手を横に振った。
「俺は大丈夫です」
「いえ。もう呼んでます」
WHAT?
教員用トイレの前で足を止める委員長に倣い、俺も歩みを止めた。疑問をぶつけるより早く、正解が軽い足取りでやってきた。
「おい、クソ風紀。なんだあのライン……って柚木」
「よ、よっす惶」
制服の上から羽織ったパーカーのポケットに手を突っ込みながら現れた惶は、最初委員長を睨んでいたが俺に気づいて納得したような声をあげた。
一体委員長は惶になんて送ったんだよ。
惶と委員長を往復して見た俺の視線に委員長は片眉を上げた。
「迎えの騎士が必要だから至急来てください、と送っただけですが?」なにか?
じゃねえが?
随分とクサイ言い回しを。
白けた視線が2つ刺さっている筈だが、なんてことないように口元に手を当てて欠伸を噛み殺した委員長。
「では、私も今日は疲れたのでさっさと帰ることにします。柴君もお疲れ様でした、また明日もよろしくお願いしますね。お気を付けて」
「あっはい、こちらこそよろしくお願いします…!お疲れ様です!」
「ところで、柴君が風紀に入るまでリーチがかかってますね。歓迎パーティーの準備でも致しましょうか?」
「け、結構です………」
「何の話だそれ」