こばなし
「アッ嘘やん!ほんまアホちゃうかこのパソコン変換機能ポンコツ〜!」
「うわ、ここクッソ汚ねえ。また掃除しないと」
「…………あのさ。」
白崎は腕を組んで片手を顎の下に添え、それぞれの作業に夢中になっている様子の木雨と柴に声を掛けた。
なに?と振り返った2人に白崎は真剣な顔でその麗しい口を開いた。
「君達、口悪くない?」
「ということで始まりますわよ。第1回〜私達の中の真のお上品選手権〜」審判不在。
「何が、"ということで"なのか」
「あらあら、いけませんわねゆきっぺさん」
さっき言ったじゃありませんこと?と、腰をくねらせた不快指数最高峰の動きを見せる木雨が白崎に説明を施す。
口が悪くないか?
そう2人に伝えた後、白崎は宗への悪影響を考えてのことだと補足した。幸いにも宗は不在のグッドタイミング。
柴はその時、お前は最近不良友達が出来た一人息子を持つママか?と思ったが言わなかった。
宗が「ここの計算クソややこしいね」とかそのうち言い出したらどう思う?と白崎が言った言葉に反応したのは、木雨。
「じゃあほな、口調を上品にする練習でもせーへん?」
で、今に至る。
ちなみに柴はクッソ汚い棚の掃除をしながら適当に「そうですわ」「その通りですわ」等と木雨に合いの手を入れていた。適当にも程がある。
「それに、それ上品というよりお嬢様じゃ」
「細かいことは置きなさって!」
ボイスが無ければただの江戸っ子のようなことを言って木雨は遮った。
「…わかったわかった…やれば良い……の、ですわね?」
「それで良いのですわ」
可哀想に。元々の発言源、とはいえ、謎の遊びに巻き込まれてしまった白崎は、この瞬間から渋々謎ルールに従うことになった。
「これあそこのファイルに入れてもらえませんこと?」
「ここってこれで合って……る…わよね」
「ちょっと掃除機かけますわよ」
文字面を読むだけだと、ファビュラス。
耳で聞くだけだと、トチ狂った男共。
の、空間が生徒会室にできてしまったのであった。
男子高校生とはそういうものだ。
そういうものなのか?
「この書類は終わったわよ」
「あら、白崎馴染んできていましてよ」
「うるさいですわよ柴」
「即レスワロタですわ」
「それはありなのかしら」
「アラアラおバズさん、お里が知れますわよ。ってやつかしら??」
「イントネーション関西弁引き摺ってる木雨に言われたくありませんわ」
それまで互いの作業しながらだったが、煽った木雨に柴が返したことで2人は顔を見合わせた。
「なんですのやりますの?」
「いいですわよ。こちらのお嬢様力は1307ですわよ」
「悟飯初期やないかですわよ」
「今お嬢様力って…?」
「ふふん。雑魚ですわね。私はお嬢様力53000ですわよ?」
「フリーザ様草ですわね」
「お嬢様力??」
細かいことは置いとけ、と先程誤魔化された白崎は澄んだ瞳で2人を見つめるも総スルーされていた。また、ドラゴン◯を履修していない為に何を言ってるんだこいつらは。とも思っていた。が、木雨が「ゆきっぺのお嬢様力は如何程ですの?」とどうでも良い話を振ってきたことによって白崎は困惑することになってしまった。
「……えっと…。」
「白崎?」
「………は、83000…辺り…?」
失笑。が2つ。
世の良い子は、くれぐれも皆この漫画は知っているだろうとたかを括って軽率に話題を振ることはやめてあげよう。この後恥ずかしそうにキレ散らかす白崎の様な人を見なくなければ。
「ッ!さっきから僕に分からないことばっかり言って!そんなノリ分かるわけないじゃないか!!馬鹿じゃない!?!かしら!!!!」
「………あとで漫画貸してあげようかですわよ?」
「ごめんって、アニメもみせてあげようか?ですわよ?」
「………………その…邪魔してごめんね。皆どうしちゃったの…?で、ですわよ…?」
項垂れた白崎の肩に2人は手を置いて慰めていた。そして、直後。背後から聞こえた声に3人は固まった。
ぎこちない動きで首を後ろに回した3人の目に飛び込んできたのは、書類を手に持ち困惑をふんだんに表情に乗せたまま引き攣った笑みを浮かべる宗と、その背後には、宗と確認ついでに生徒会室に寄ることにしたらしい、生徒会顧問である美月先生が。言わずもがな、表情は哀れみと嘲りの半笑いだった。
「もうその口調はいいのかですわよ?」
「やめろください先生。記憶から抹消させますよ物理的に」
「しっ柴君!?駄目だよ!象の置物持って先生ににじり寄るのはやめよう?!」
「その漫画って面白いの……。」
「おもろいで、寮にあるさかい今度1/3くらい持ってきたるわ」
勝者不在。