中間テストですよ

惶とはじめての



「つってもお前。全然人が居ねぇからいいが、集まってたらどうするつもりだったんだ。お前も目立ちたくねェだろ」
「ん?いや、確証があったから一緒に来たんだって」

心の中でお義兄さんに謝りつつ、欲望のまま食券をチョイス。
働いたらきちんとお返しますので…!!!!
お互いの物を受け取った後、ガラガラな食堂の端の方を選んで2人で向き合って座った。
俺はポテトとパフェと唐揚げ。
惶は塩サバ定食。
渋い。
今度そういうのも作ってみるか。お盆の上に乗った焦げがついて艶々したサバを見て思った。

「確証?」
一緒に食お、と言って2人の間に置いた唐揚げを摘んで惶が言う。
「守衛所の前通っただろ?チャリほとんど無かったから、皆外出てんだろうな…ってその時に思って」
パフェをスプーンでつつきながら言った。


初めの方に遠坂に言ったように、うちの学校は外に出るのは徒歩だと少し大変。バスも全然来ない。だから貸出用にチャリが50台程、守衛所の所に置いてある。
しかも楽なことに、基本的に外出届や外泊届は紙でせずに学校のサイトに前日の23時55分までに申請すればいいだけ。便利。

だから、皆は今日早く終わると知ってるし、遊ぶ予定を立ててきっと昨日こぞって申請したんだろう。俺も久々にアニメイト行きたかったしすれば良かったけど、まぁ…結局今日の感じだと疲れて行かなかったろうから一緒だ。

「……よく見てんな」
「ごっそりチャリ無かったから目に入っただけだって」

その後。
それ美味い?と惶に聞いて、そのつもりは無かったけど少し分けて貰うなどゆっくりしていると、食堂にいる少人数が騒ついた。


目だけで騒ぎの方を確認すると、眉目秀麗な生徒が5人ほどで連れ寄って食堂に来たようだった。

あー……と。

見たことあるような無いような。
全員分からん。

惶の方を見ると、微塵も興味が無さげに唐揚げを食っている。
少しは見てやれ。
いや興味津々にしてる惶もそれはそれでな…。

「なぁ、惶はあの美人組知ってる?」
会話として誰か知ってる人がいるか聞いてみた。

「あ"?あー……部長達」
まさかの全員知ってた。

って部長?
「全員?」
「ああ」
全員あんな美人とか。なんの部活なんだよ。
5人いるから…美容部?ネイル部?スタイリスト部?あとは…………お手上げ。
そういう知識ねえし。

といっても挙げた部活は全部架空だが。
同好会ならもしかしたらあるかもしれない。数が多いから未知。

「…一応、なんだけども。なんの部活か知ってたりする?」
「…随分気にすんだな。好みのタイプでもいたか?」
「だからぁ〜俺は違うって…」
「フ、……確か端から」

鼻で笑われた後、律儀に答えてくれた惶。

端から

華道部部長。肩くらいまである綺麗に手入れされたストレートヘアで泣き黒子のある美人。
茶道部部長。胸元まである長い黒髪に、ずっと微笑んでいる口元に黒子がある美人。
演劇部部長。はつらつとした話し方で声が食堂によく響く、上の方でポニーテールにした美人。
服飾部。クラゲのような少し特徴的な髪型で、目が大きい眼鏡をかけた美人。
調理部部長。ショートヘアに垂れ目で甘い顔、そばかすが可愛い美人。


……らしい。
演劇は学園祭で観ていたけど、その時はがっつり化粧をしていたからか全然気付かなかった。声には確かに聞き覚えはあったけど。

いやぁ…にしても……揃ってくっっっそ美人だな。
乙女ゲーだったら全員攻略対象確定奴。
箱推し生徒会役員と二大勢力になってそう。


よく知ってんな。と聞くと、塩島委員長に問題が起こりそうな生徒の顔と役職などを叩き込まれた、らしい。
確かに風紀では知っておくべきか。

ハッ!

惶と他の部活で顔の良い人がいるのか聞いていると、また、丸君と居た時と同じような視線が。
今度はゆっくりと周りを見渡すも、今回もやはり視線の主を知ることはできなかった。

惶に何か感じなかったか聞こうとしたら、帽子のつばをグイッと下げられた。

「惶?」
「気持ち悪りィな」
「…あぁ、惶も分かったのか」
一瞬俺の顔かと。そうだったら泣くからな。
「誰か分かったり?」
「いや。一瞬だからな」
そっかー。
まぁ視線だけなら害はない。
幽霊と一緒。


……幽霊ではないよな…??

そっちの方が怖いと思った俺であった。
たまに幽霊騒ぎあるし。


取り敢えず、晩飯用の持ち帰りを買ってさっさと食堂を出る事にした。一応。今なら美人部長5人衆に注目が集まってるし丁度いい。


食堂を出る時にもまた同じ視線を感じたが、今度はもう振り返る事はしなかった。



***


柴柚木……。

煮えたぎるようなどす暗い感情を乗せ、呑気に袋を持って食堂を出る柴を一瞥した男は、すぐに視線を自身の隣の人物に移して取り留めのない話を続けた。



紙コップのみ机の上に置いていた男は、手元に持っているカメラのシャッターを一度切ると、残りの中身、いちごミルクを一息に飲み干しすぐに立ち上がって食堂を出て行った。





「俺炒飯にした」
「ブリの照り焼き」
「惶は今日魚の気分なのか…」
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