中間テストですよ

副委員長


「ということで、君と、君達にも改めまして、僕は風紀副委員長をしています。3年Sクラス、夏目 翠(ナツメ ミドリ)です。よろしくね!」

パチコーンッ。と星でも弾けた様にウインクをされた。
眩しい。

扉を閉めてソファーの後ろに移動した夏目副委員長が元気に自己紹介をしてくれた。
というか、塩島委員長からは自己紹介なかったよな。…面倒だったんだろうな。知らないの俺しかいねぇし。

「挨拶は終わりましたね。…翠。さっき言ったのはどういうことですか」
「ん?」
「柴君の怪我。事情を知っているんですか?」

とっとっとっ!!!
やっべ!!!さっき誤魔化せたと思ったのに水の泡じゃねぇか!!!

塩島委員長が夏目副委員長の近くに寄り、俺が見えないことを良いことに手でバッテンの印を作って合図した。

頼む〜〜!!お願いします〜〜!!!!
必死な顔が伝わったのか、夏目副委員長が俺の顔をチラリと見た後、明後日の方向を見て頭を傾げた。

「うん。見たのは怪我した後だったんだけど〜……なんでだったっけ?柴くん」
ナイスパス!!!
「っかっ階段から、落ちて、です。罠で足を滑らせて」
「そうそう!直後の廊下で会ったんだもん。確かだよ、ね〜」
「はいそうです!」
2人して塩島委員長に笑顔を向ける。

……………。
これ違うくね?

惶と塩島委員長の白けた視線が痛い。


「はぁ…………分かりました、もう良いです。面白いお芝居ありがとうございました」
「よかったね!柴くん!」
良くない。
バレバレなの分かってます?
分かって言ってます?!?!!

「柴君には言い逃れができないようにしてから再度聞きますので」
さっきより酷くなってんじゃねえか…!!!


「ね〜〜…僕の"友達"だってこと、
忘れないでね?燕」
「……承知しております」
含みがありそうな遠坂の発言は引っかかったが、この場で俺の味方をしてくれてる様なのでやっぱりお前が俺の女神。完。エヌエイチケー。


「おい。終わったんだろ。そろそろ帰るぞ」
ずっと会話を静観していた惶が立ち上がり、俺に顎で扉の方に行くよう指示してきた。

確かにこれ以上いるのも迷惑だし、普通にボロも出そうだ。慌てて俺も立ち上がると、遠坂は手を離した。
どうしたんだ?

「遠坂?」
帰らねえの?と聞くより先に遠坂が塩島委員長の方を向いて口を開く。
「風紀も今日はもうすぐあがるんだよね?」
「そうですね。今日はもう特にはありませんが……」
それを聞いて俺を見上げた遠坂。
艶のある髪が左右に流れて、いつもより目元が露わになる。目元に影をつくる睫毛が長い。

「じゃあ、今日は僕も同室者の燕と帰ることにするね」
「そか、わかった。じゃあまた明日」
「うん。じゃあまた明日。
…惶君も、またね〜」
「…………。」
無視かい。


バイバ〜イと手を振る夏目副委員長の横を、会釈をして通りすがると甘い香りがした。
ん……?
初めて会った時のことを思い出して少し疑問を持ったが、そのまま惶と扉に向かった。

扉から出る時に振り返ると、遠坂はソファーに腕を置いてこちら側に身を捻って手を振っているのが見えた。
笑って手を振りかえし、扉を閉めた。





惶と一緒に帰るのはどうかと思ったが…。
授業が終わってから結構経っているからか、下駄箱に着いても生徒はまだ見掛けなかった。

もう皆遊んでんだろうな。



俺は靴を出し、自身のロッカーを閉め


「………っはぁ〜〜〜〜〜」


盛大にため息を吐いた。
沈黙。
「……………………。」


なんっっ…………っっなんだマジで!!!!

風紀委員長は圧がこわいし!!!

遠坂は雰囲気違うし!!!!

副委員長は嘘が下手!!!!!!!!!!!


流石に声に出す訳にもいかず、手に掛けたままのロッカーの開け閉めを無意味に繰り返す。

バタンバタンバタンバタン
「…………………大丈夫か」
バタッ

下駄箱の場所が違うから別々に靴を履きに分かれていた惶が帰ってきていて、眉を顰め俺を見ていた。

い、いつからそこに。

恥ずかしくてガッと顔に熱が。
素知らぬ素振りでちゃんとロッカーを閉めて、靴を履く。


そして、普通に
「大丈夫。」
って言おうと思った。


けど。
色々疲れ切ってつい本音が。

「……………大丈夫じゃない…」
「…そうか」
「はい」
「…….帰るか」
「はい…」

流石に外で並んで歩くのは、と思って惶より数メートル空けて後に続き寮に戻った。


着替えてから時間を見ると、15時。
晩飯にはまだ早い。
リビングに行くと、先に着替え終わっていたようで惶がソファーで携帯を弄っていた。

これから飯を作る気力はあまり無い。かと言ってお願いするのをなんだかな〜と立ったまま惶を眺めていると、顔をあげた惶と目が合う。

と同時に欲望が弾けた。

「どうし、」
「惶!」
「………なんだ」
「今日食堂行かね?!」
「…俺と、か?」
「嫌ならいい。その代わり悪いけど晩飯は食堂のかスーパーの惣菜かコンビニ弁当に、」
「分かったから。嫌とか言ってねぇだろ」

感謝を述べ、そのまま回れ右をして一旦部屋に戻る。

えーと、惶に合いそうなサイズの上着は…。

適当に棚から服を引っ掴んでまたリビングに。
呆気に取られている惶の目の前まで行き、手に持っていた物を突き出した。

「……なんだ?」
「その変な服だと惶ってすぐ分かるからこれ上に着て、あと帽子」
「変な服…?!」
渡したのは、白の無地のチャックが付いたパーカーと黒のキャップ。そのままいつも通りだと惶だってバレバレだ。今日は"クマサンド"と書かれた文字と、ふにゃふにゃの線のくまがサンドイッチに挟まれてにこにこしているイラストの服。どういう状況なのか全然分からない。

変…?と無表情で呟きながら大人しく上にパーカーを羽織ってくれるのを見届けて先に玄関に向かった。

少ししてすぐに惶も玄関に。
見ると惶はフードを被っていた。
「フード被るから帽子はいらねェ」と言ったので受け取ろうと手を出すも、感触はやって来ない。声を掛けるより早く視界が暗くなった。

「帽子はお前が被ってろ」
「…了解」




「…これ、変か」
「…に、似合ってはいるから大丈夫。
……大丈夫」
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