中間テストですよ

僕と契約して以下略



「風紀委員になりませんか」
2度も。


「なりません……。」
「それでですね、えーと、確かここに」
「あの、」
「ありましたありました。はいこちら」
「ちょっと?」

俺の返事が違う形で伝わったかの様に奥の委員長自身の机に向かい、引き出しを探って目当ての紙を1枚こちらに持ってきた。

はい。と渡されたその紙には、"風紀委員になる署名"の内容が。
俺は受け取ってそのまま前の机にぺいっと置いた。

「何してるんですか」
「だからなりませんって」
初めて聞いた、と表情が言う。
なわけねえだろ。
俺の周りはどうしてこうも話を聞いてくれねぇんだ。

「……チッ。まあいいでしょう。狼谷の同室者ですし、これから機会は幾らでもありますから」
こわい。

隣の遠坂にソッと身を寄せたのを見て、委員長の視線が遠坂に移った。

「それで、…あなたはどうされたんですか?」
「僕?」
「そうです。何か風紀に御用でも?」
「………ないね〜。僕は柴君の付き添いで来ただけだから」
馬鹿っ、おまえ、風紀委員長!3年!と言いたいのを遠坂の膝を叩いてアピールする。
なに平然とタメ口聞いてんの!?
変な間を作るなら敬語使えたろ!!
コンクリで埋められんぞ!!

これはインテリヤクザという噂からのド偏見だが。
恐る恐る委員長の方を覗き見る。

「そう……ですか………。あー……そういえばあなたと柴君は同じクラスでしたね……。」

…知り合い?

口に手を当てて何やら動揺している様子の委員長。

き、聞きたい。何故遠坂がタメ口なのか。どういう知り合いなのか。

でも俺には無理。
この変な空気で質問とか無理。

「テメェ…塩島(シオジマ)とどういう関係だ」
陰キャ俺とは違い、堂々と人前で意見できる人間。狼谷惶に感謝。てか風紀委員長そんな名前だったのか。

委員長がジッと遠坂を見る。
遠坂は視線を受けてニコッといつもと変わらず笑んだ。

「燕(エン)とは同室者だよ」
風紀委員長のフルネーム判明致しました!
塩島燕(シオジマ エン)です!(勝訴の紙)

じゃない。
ちょっとさっきから情報が多くて混乱する。

会話で前に出てきた気がして記憶を掘り返す。
同室者って確か。
同室者……って知り合いって言ってなかったっけ…?
メタいこと言うと新入生歓迎会の章の4ページ目くらいに…?

叩いたまま、まだ遠坂の膝に置いていた俺の手に遠坂が触れる。

「うん。そう。前にも言ったと思うけど、燕とは知り合い。家柄の付き合いで」
ね〜?と塩島委員長に笑い掛けた遠坂。

なんか。遠坂がいつもと違う。触れられているだけの手を動かせない。


おい。
手のマッサージし始めんな。
あ、ちょっと気持ちいい。


「…そうですね。」
眼鏡のブリッジをあげてため息を吐く塩島委員長。

「そういうことです。狼谷、分かったら彼を掴んでる手を離しなさい」

いつの間に。
体を前に倒して惶と遠坂の間を見ると、確かに俺と反対の腕を掴んでいた。
何でんな事してんの。

惶は舌打ちをしてからアッサリと手を離して再び腕を組んだ。

全く動揺を見せず俺の手をにぎにぎマッサージしてた遠坂は一体なんなんだよ。
ゴーイングマイウェイか?
その節はあったから不思議はないが。


「話は以上です。出て行って構いませんよ」

そう、塩島委員長が言ったと同時に扉が音を立てて開いた。

「やっほー!終わった?」

扉を開け放った当人は、にこにこと無邪気な笑顔をこちらに向けていた。


「翠……終わりましたが、帰るのが早いですよ。それとノックはしろ」
「アハッいけないいけない忘れてた」
そう言って開けたままの扉をそのままノック。

今しても遅ぇわ。

恐らく、弾ける笑顔の彼以外全員そう思った。


重いため息を吐く苦労してそうな塩島委員長と対照的に、朗らかでまったりとした空気を漂わせる彼。に、見覚えが。
向こうも視線を感じたのか、俺の方を見て、音が聞こえるかと錯覚する程に目が合った。


マズイ

かも?

「あ〜!あの時の君じゃなーい!!!」

「お、ひさしぶり…です?」


冷や汗が流れた俺は、あの新入生歓迎会での一件後出会った時より一層明るい彼に引き攣り笑いを浮かべて返すことしか、今は出来そうになかった。




「うんうん、怪我も治って元気そうだね!」
「ははは…ありがとうございます……」
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