中間テストですよ

救世主は
※いじめ表現有


「何してるの」


視界が歪み、真っ白になった頭に凛とした声が届く。ざわついていたクラスが静まり返った。

「聞こえなかった?」

「ッ……!」
「なんで……!?」

目の前の奴らが慌てているのが滲んだ視界で分かる。

「僕に。無断で。……………何してるの君達」

声の発生源である戸口の方に目を向けて、瞬きを一度。頬に雫が流れ、クリアになった視界には、
「こ、小森くん……」
鋭くこちらを見据えた小森がいた。

あんな顔もすんのか小森って。
初めて見た表情に驚く。

「これは、そのっ」
「こ、小森くんだってコイツのこと見限ったんじゃ…!」
「そうだよ!言いづらいと思って僕達が!」

先刻までとは180度豹変したこいつらが滑稽だ。よっぽど恐れているのか1人は滝汗になっていた。
凄いなこの変わりよう。小森はこのチワワ達の長だったのか。

「黙れ。醜い」
ピシャリと小森が一喝。
視線をこちらに向けたまま、堂々と歩み寄ってくる。
「僕を言い訳に使うなんて、良い度胸だね」
「でも…!じゃあなんで最近一緒にいなかったわけ!?」

とりわけうるさかった奴が食い下がった。

「……僕にも事情があるだけのことだ」

俺を一瞥してすぐ視線を背けた小森は、ところで、と続けた。

「まだまだ気が治らないらしいね。

………表に出ておいで、僕が相手をしてやる」


おもて?

……………。

いやちょっと待って。
表に?出ろ?相手?

突拍子のない単語に理解が追いつかない俺。
"シリアスはログアウトしました"をトッピング。

「いくら小森くんでも3人は難しいんじゃない?」

何??!
会話がスムーズ!!!
よくある事なの親衛隊???これってお決まりの流れ???何すんの…?ラップバトル…?キャッツファイト…??法廷バトル…????


クラスの反応は…と目だけで伺うと、小森に対しての驚きと安堵の大体2パターンだった。
内容に関しては別段反応がない。
皆……知ってんの?親衛隊あるある……?

戸惑う俺を置き去りに、囲んでいた4人のチワワも小森がさっさと廊下に出ていった。

って、待て。小森に関係ないだろ。何突っ立ってんだ俺は!正直よく分からんが、小森に全部被らせる訳には!

「あっ柴くん!」

何人かに呼び止められたが、我に返った俺は廊下に出ようと歩みを進め、扉を開けようと手を伸ばした。

空を切る結果に終わったが。


あっけない程にスムーズにスライドしていった扉に立っていたのは、

無傷の小森。
双子か疑うほどに戸口で声を挙げた時と何一つ変わらない。ただ、心なしか晴れやかな顔と、暫く交わることのなかった大きな丸い瞳が俺の瞳を真っ直ぐに見ていることだけ。
それだけが先程までとの違いだろうか。


いや、後ろにボロボロになってるチワワが3人いたわ。


「なに…えっと………何したんですか小森サン」
「ステゴロ」
素手喧嘩。


やはり暴力…暴力が全てを解決する…!!!


キリッとした顔で納得していると、小森が少し眉を不審げに顰めながら「それで、彼らから……言いたいことがあるらしい」途中言葉を詰まらせつつ、3人に目を向けた。

促された3人が順に口を開いた。
「お前は嫌いだ。……けっ、けど、僕らの八つ当たりを公衆の場でしたのは、…悪いと思ってる」
嫌い宣言をした直後に小森の睨みで吃りつつ、最後まで言い通した。

「ごめんなさい…」
切れて痛そうな口元に手を当てて、悲痛な涙声で言った。

「…………………………羨ましかった」
最後に口を開いたのは、俺の胸ぐらを掴んだやつだった。

「……たった数日でお前は変わって、全然馴染めない僕達はもうここに居場所なんてなくて、疎ましかった。妬ましかった。

僕にはわからない

………なんで…君は、っどうして…っ」

涙が溢れて。雫が幾度なく流れる。それはきっと、外傷的痛みではないもので。
それを静かに見ていた。
小森がこっちを見た。

分かってる。

目を見て頷いた。

「それは、多分



お前らのそういうところでは?」

「柴ぁ!!!」
「えっ!イッテェ!!ごめん!!違う!?!!」

珍しく名前呼びして小森が殴ってきた腹を摩りつつ、目を点にして呆然と見るチワワ達を見た。
なんだよ、これが率直な意見だが。

「あのさ、」と、納得してない顔の小森から目を逸らして再度言い直そうと口を開くと、大袈裟なくらいにビクつかれて戸惑う。
もう少し優しく言えばいい?

「その、そういう、最初から皆が敵みたいなさ。どちらが上か下か、敵か味方か、の態度。まずはそこを無くすだけでだいぶ違うかと」
「無くすって…」
「そうだな……例えばもう一つの、他人または無害、って枠を作る。とか。
俺もクラスのやつも、お前らを敵視してるわけじゃない。…と思う。敵意剥き出しな態度じゃ誰も話しかけないし、馴染めないとこはそこが原因」
「………はい…」

3人とも枯れかけの花の様な萎え具合だ。
小森は俯いて小さく呟いた。
「ぼくは」
ぼくは………?

ふと気が付いて恐ろしいほどに静かなクラスを窺うと、皆が俺達を見守っていた。

「あー…っと、だから…」

一気に体温急上昇。途端に言いたいこともぶっ飛んでしまった。

あばばばばなななななんだったっけ!?!!

「………だから、馬鹿みたいな意地張らずに聞きたいことは素直に聞けばいいし、理由もなく作ったそのプライドの壁は意味無いし無駄だってこと。……分かったら君も謝りな」

困った顔の俺を見てか、言いたいことを小森が引き継いで言ってくれた。天才かよ。

「…………その、ごめん。悪かった」
「…ん、わかった」

すっかり毒気が消えたようで、すんなり謝罪された。余りに素直で拍子抜けでもある。
見続けていると、段々と赤くなり、顔を背けられてしまった。
なんだ照れてんのか面白いな。

のも束の間。
「今までの暴言は悪かったけど!お前は嫌いなのは変わらないからな!!上野くんや骨川くんと話して羨ましいとか!そう言うんじゃないけど!!!!」と言われた。


はぁ。素直になったらなったで面倒臭いなこいつ。



俺達を見守りスタンスだったクラスメイト達は、チワワの面倒な発言を機にそれぞれに動き始めた。
やっと嫌な静けさと見られる緊張から解放され、内心胸を撫で下ろす。問題源はやはりまだ気不味いのか、そそくさと教室から出ていった。
斯く言う俺も、まだ何人かからチラチラ視線を感じて大変居心地が悪い。

トイレにでも行くか……何も出ないが。と教室を出ようとした矢先、ツイ、と腕を引かれた。

「ちょっといい?」
小森だ。
「?別に良いけど」

教室では話しづらいことらしい。
真剣な顔の小森に腕を引かれてそのまま教室を出た。丁度出ようとしてたしナイスタイミング小森。




「(じゃなくて!いったいなんの話なんだ…!?!この顔のことか?!!…もしくは…?)」
「…………………。」
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