新入生歓迎会するんだってよ

おかえり【終】



股間をタオルで隠した、情け無い格好で惶から目を逸らし、頭が回らない俺は咄嗟に逃げるように言葉を紡いだ。

「えっとー………その、じゃ、おやすみー…」

ドアノブを捻ったのを見て惶は片手で頭を雑に掻き乱した。

「背中に湿布貼るんだろ」

ドアを開きかけて止まる。

「服着たら、リビング来い」

返事を待たずにリビングに入った惶の背中を、固まっていた俺は見送るしかなかった。


えぇ………まじ……………?


部屋に入った俺は、未だ戸惑いながらもノロノロと服を着ていく。
だが、3分とかからず服を着終わってしまい、ベッドに目を移した。

ここで…別に、リビングに行かなくても惶は何も言わないんだろうな。
疲れて寝てしまった、とかなんとか言い訳しても。

とは言っても、だ。
それはなんか癪だし、こっちも聞きたいことがあるわけで。

つか、大体、風紀の腕章堂々と持って帰ってくんなよ、聞けっつってるようなもんやろがいそんなの!!!


自身でもよくわからないキレ方で部屋を出て、リビングに凸した。



入ってすぐ目に入ったのは、部屋着に着替えてソファーに寛いでDSをしている惶だった。
あまりの呑気さに、入り口で膝から崩れ落ちかけた。


何でっ………そんなにおまえはいつも………!


「…………どうした」
お前のせいだお前の。
不審げにこっちを見るのに不満に思い、遂にずっと気になっていたことを聞くことにした。
いい加減知りたい。

「……気になってたんだけど、それ、DSでいつも何してんの?」
「これか?」

器用に片眉をあげ、こっちに来いと招くようにDSを持った手の反対側でおいでおいでをされた。

「???」

誘われるままソファーに近付く。
惶の前に立つと、招かれた手で腕を掴まれて、惶の真横に強制的に着地した。

ぶつかりそうになるのを抑える為に咄嗟に肩に手を置き、足が筋肉質な硬い太腿に当たる。
ち、近い近い、意識的にこんな近付くこと無いから変に意識してしまうんだが!


俺だけ照れる気持ち悪い謎イベントが発生したのは一瞬だった。
惶がDSをこちらに傾けて画面を見せてくれるまでの。


………………………。

……………………………。


「……………………たまごっち……?」
「ああ」

なんて事なさげに頷く惶。
惶がやっていたのは何故か古代の遺物(失礼だが、もう十何年前の話だよって言いたい)である、DSのソフトのたまごっちの"おみせっち"だった。プチのプチ。


えぇー……。

「それを………ずっと真剣にやってたのか………」
「ああ」
「…………妹さんの頼み……?」
「ああ。そうだ」
よくわかったなと言いたげな顔すんな。
お前の趣味だったらどう反応すればいいか困るから合ってて良かったわ。


大きく息を吐いてソファーに背を倒して沈んだ。

ハァーーーーーー。

何を気にしてたんだろ、俺。

惶に一歩踏み込むことは、想像よりも遥かに容易かったらしい。
そもそもこれは一歩にカウントできるのかとかはもう置いておいて。


背中は惶に任せて、俺はハーパンをめくりあげて湿布を貼る。
プラスチックのペラッとした音を聞きながら口を開いた。


「答えなくても良いんだけど、惶って風紀なの?」
「ああ。秘密だが」
「ははっ秘密をそんな簡単に言って良いのかよ」

「……お前だからな」


ワンテンポ遅れて告げられたことに湿布を剥がす手が一瞬止まった。
むず痒い。
口元が緩むのを内頬を噛む事で耐えた。熱を帯びる頬を自覚して、背中を向けていて良かったと心底思った。

信用してくれてるってだけの話……だろうけど、俺がノンケじゃなかったら誤解する声色で言うのヤメテ!!

顔と声の良いやつは気をつけろっての!!!


「……だから、次何かあったら……、俺呼べよ」
「え」

振り向きかけた俺の膝の上に硬いものが放られた。目を落とすと、QR画像が表示された携帯。目を疑い改めて惶を見た。湿布を貼り終えたらしく、片腕をソファーの背凭れに曲げて置き額に手をつけ、口角をほんの少しあげたしたり顔。

「顔、また赤いな」
「なっっっ!おま、え、さあ…!」
わざわざ指摘するか普通!!!恥ずかしげもなくキメ顔ドヤ顔ダブルコンボ決めやがって!!!

「クッ、ハハハハッ」


俺の表情がよっぽどツボに入ったのか、顔をくしゃっと歪めて笑い出した。

おぉ………笑った……。

びっくりして瞬きを繰り返す。長い間過ごしてるわけじゃないが、こんな笑い方初めて見て驚く。こいつも声あげて笑えるのか……。
真面目に失礼なことを考える。


「クックックッ……」
「……………。」
「フフ……ハハハッ」
「…………………………。」

いや、

「フッフッフッ……」


いや笑いすぎ。


惶が意外とゲラなのか、俺の顔が芸人目指せる顔だったのか。

俺のガラスの心に賭けてゲラに一票。

笑い終わるのを待つのも癪で、無言で立ち上がった。額を抑えながら、笑い過ぎで若干涙目になっている惶がこっちを見た。

………。


「…………手伝ってくれてありがとうおやすみ!」
「あ?おい」

照れを隠すのに早口で礼を言って早足で洗面所に向かい、惶が来ないか危惧しながら歯磨きをしてから、寝に行った。

結局追っては来なかったから要らぬ気苦労だったが。





その日は、なんだか楽しい夢を見れた、と思う。
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