新入生歓迎会するんだってよ
2
つまりは、だ。
遠坂と俺は女装しなくていいってことか。
景品の拒否権については、伊藤は知らないらしく役に立たなかったからあとで先生とか………あ、直接聞く手があった。ラインで繋がっていたことをすっかり忘れていた。
しかし身を削る景品をよく許可したもんだな生徒会。
胸に付けていた泥棒側と警察側のピンバッジを回収した後に伊藤がパイプ椅子を用意してくれ、遠坂と伊藤と3人で受付の机の所で時間を潰す。体育館受付の担当が1人で伊藤は物凄く暇だったらしい。
風紀が堂々と携帯触ってるわけにもいかないしな。
舞台の方を見て3人でどれが1番マシかとか可愛いとか話しながら、机の下で木雨に景品について聞こうとラインを開く。
通知が来ていた。
現在進行形で。
ピロンピロンッと増え続けるトークルームは、既視感のある上野くん。
しばぁ〜暇だよー。遠坂くんも見当たらないよー。寂しいよー。と、青い鳥に言っとけ案件なるメッセージをずっと言い続けている。
既読をつけたくなくなってきているが、このまま通知を増やすのも嫌なので開く。
既読付けた途端『!!!』ときた。
閉じたい。
『どこ〜〜〜????』
『知らない1年に囲まれてる 助けてまめしば〜』
ねぇ知ってる?じゃねぇんだよ。
しょうがないやつめ。
えーと、
『体育館入り口の受付』『チワワ撒いてから来て』
すぐにポコンッと承諾のスタンプが。
あ。
送ってから気がついたけど怪我のこと忘れてた。まぁ…遠坂も伊藤もいるし誤魔化せんだろ。いつかは会うしことになるし。
「伊藤、柴のこの怪我どういうこと」
「ぐぇ」
誤魔化せなかった。
というか誤魔化す時間すらなかった。
何も関係ないのに、上野に胸倉を掴まれて伊藤の体が若干浮いてしまっている。
すまない伊藤。
スタンプを送ってきた暫く後に上野が見え、
お、ちゃんとチワワ撒いてるな…と眺めていると途中から真顔になって早歩きにこっちに向かって来て、一切口を開く間も無く伊藤に近付いたと思ったら、アレ。
固まってしまっていたが、とんだとばっちりを受けている伊藤を助けようと声をあげた。
「上野、違うから、風紀は関係ないから」
「…ほんとに?」
「そうだよ〜階段から落ちたの僕見たから、本当だよ。酷い落ち方でびっくりしちゃった」
上野は俺達の顔を順に見て逡巡した後、そろりと伊藤から手を離した。
よかった。
と思えば、上野が勢いよくこっちを見て、エッと言った。
なんだ今度は。
「待って柴、階段から落ちたの?!!??!?」
「うるっせぇーーな!!そうだよ!!!!!」
ダサいことを大声で言うな!
「じゃあ頭とか打った……?」
「まぁ」
「記憶とか大丈夫?」
「?問題なし」
「じゃあおれたち家族だった前世の記憶とか…」
前 世
首を捻り考える。
????????????
成る程。
そうか。
「お前も頭打ってたか……」
伊藤から体育館に保健医が居るとの返答を貰い、キョトンとした上野の腕を掴んで保健医が居るらしいところにトロトロと向かった。
その可哀想な頭を治して貰いに行こうな。
あと定期的に俺を洗脳しようとするな。
*****
柴と上野が人混みに消え、伊藤が「アイツやっぱバーサーカー」と呟くのを遠坂は耳にした。あまり動じる事も無かった伊藤の様子に、先程までの会話。
疑問に思っていた遠坂は、まだ軽く咳き込んでいる口の軽そうな彼に聞いた。
「ねぇ、伊藤君。柴君って以前にも何かあったりしたの?例えば…"風紀が絡むような何か"とか」
言うべきか悩んだ様子で数テンポ遅れて口を開いた。
「そーだな〜…ケホッ………まぁ、言ってもいっか。
去年の1、2学期くらいに、柴、上野の親衛隊から何度か制裁があってさ。柴は俺らみたいな小中等部上がりじゃないから、上野とか、まぁ他のイケメンとも普通に仲良くしてて。んで一度、やり過ぎな制裁をちょっと、な。
…まぁ未遂だったんだけど」
「詳しいね」
「まぁな!だって俺も現場に乗り込んだ1人だったから!」
遠坂は目を軽く見開き驚いていた。(前髪で見えないが。)柴がとてもそんな様には見えなかったからだった。それに、伊藤の話し方があまりに軽く、とてもそんな重い話が出てくるとは思っていなかった、ということもあった。
だが、軽い口調には理由が。
次第に口元をニヤつかせた伊藤は、勿体ぶる様に「で〜、な〜?」と続きを話し始めた。
「その、やり過ぎな制裁に乗り込んで目にしたのは………」
「うん」
「なんと……」
「…………うん」
「縛られた柴と、床に股間を押さえて悶絶する男達であったのだー!!」
「………………う、ん?」
相槌待ちをする伊藤に遠坂は律儀に相槌を返していき、気分の良くなった伊藤は背景に効果音が尽きそうなほどドヤ顔で言い放った。
やり過ぎな制裁、つまり強姦されそうになった柴は腕を縛られ、男子生徒2人に空き教室に拉致された。
拉致されたことを目撃されていた為、暫くして風紀が急ぎ現場に駆けつけると、柴は2人の股間を力一杯蹴り飛ばし、男としては同情せざる負えない程の苦痛を味わい床に伏せていた、ということだった。
「わぁ……柴君…何というか、すごいね……」
「な!いやぁ…被害者に対してビビったのは後にも先にもアレだけよ。
だって、駆け付けて声を掛けに行ったら、股間を抑えた男子生徒2人の様子を聞いてきて、なんつったと思う?
"なんだ…潰れてなかったか"
…だぜ?タマヒュンしたわ」
遠坂は動揺したように口元を押さえた。
だがそれは話の内容に似つかわしくない笑みを隠す為であり、遠坂は柴の意外な一面を好ましく思った事を自覚した。
と同時にタマヒュンしたし、聞いてしまっていた周りの生徒もタマヒュンした。
「んで、そこからは上野が親衛隊と話したりして制裁も無くなったみたいなんだけど、やっぱり上野、あの様子じゃまだまだ気にしてるみたいだなー」
「そうだね〜…うん。お陰で納得したよ。ありがとう」
伊藤から話しかけられ、口元から手を外すと、遠坂は相槌を打ってにこやかに礼を述べた。
*****
混雑した体育館を暫く彷徨い、小さなブースにやっと辿り着く。
優しそうなおじさんの保健医に上野を見てもらうと、上野の後頭部にタンコブがあったらしい。
まじで頭打ってたのか。
わろた。
ただ、最初に俺の顔を見て驚いた保健医はのおじさんは上野と同じように「ひとまずこれと…あとこれで患部を冷やしておいてね。それと、また保健室に来てね」と痛み止めの錠剤と保冷剤を渡され、2人でブースから出た。
「柴とお揃いだね〜」
嬉しくねぇ〜〜。
時折、上野の首元や背中に保冷剤を当ててたりして戯れながら遠坂のいる方に向かう。
「俺と前世で家族っつったけど、詳しくは?」
「えっとねー、森の中で2人でパン屋やってんの」
くそファンシー。
「食材はおれがハントして柴がさばくの」
「ワイルド過ぎる」
「買いに来るのはクマとかオオカミとか」
「パン屋だよな??肉屋じゃねぇよな???人は来んの?」
「柴とおれ以外の人間はいない設定だから来ない〜」
「設定って言ったな」
けらけら笑いながら上野の横腹を軽く殴った。同じく笑いながら上野は俺が殴ったところを軽く撫で、骨折れた〜、と言った。
弱過ぎる。
カルシウムとって骨強化しろ。
最も、もう今摂っても意味無いらしいが。
「柴ぁ」
「なんだよ」
「痛い?」
脈絡無く聞いてきた上野。
痛々しげに眉を寄せて俺の顔をジッと覗き見る。
「…くっそ痛え」
返答に少し笑われた。
「何かあったらすぐ呼んでっておれ言ったのに……柴のばぁか」
「………そういう上野も頭打ってんじゃん」
拗ねた様に言われて言葉が詰まり、話を逸らすくらいしかできなかった。
「これは、バナナの皮が廊下にあって」
「マリカーかよ」
まじ?
バナナの皮って滑れんの?
話しているうちに、もう入り口近くまで来ていた。遠坂と伊藤が机に肘をついて話しているのが見えた。
「柴」
「ん?」
「次はないから」
滅多に見ることのない、上野の綺麗な良い笑顔。圧倒的な顔面圧。真顔よりこわい。
何度か首を上下に振ったあと、まぁそうそう階段から落ちることなんて無いしな、と誤魔化しておいた。
というか"次"があったら何するつもりなんだ上野は……?
控えめに言ってゾッとした。
2人に近付くと遠坂が、あれ?と言って聞いてきた。
「上野君、怪我してたの?」
「ダセェんだぜ、聞いてくれよ。こいつバナナの皮で滑ったんだってさ」
「柴に言われたくなーい」
うるせーやーい。
伊藤は嬉々としてバナナの皮に反応したのに笑っていると、舞台が騒がしくなったのに気が付いた。
4人で顔を見合わせる。
放送に耳を澄ませると、飛び入り参戦があったようだ。
「飛び入り参戦?そんなのできんの?」
伊藤に顔を向けた。
「まあ……あるのはあるけど、まさかいるとは……自信家か物好き………あ、いや」
なんだ?
「優勝景品目当てかも」
「へぇ〜そんなのあるんだね」
遠坂に相槌を打つ。手回しがいい。
「なんなのそれって」
上野が首を傾けて聞いた。
「プレ5」
は?
「上野ー!いけー!!飛び入りだー!!」
「任せろやーい!!!」
「いや、ついさっき締め切られてたべ」
なんだと?!!!??!
「なんで言ってくれなかったんだよ!!!伊藤の馬鹿野郎!!!」
「バッ?!なんだとぅーー!!」
上野と机に崩れ落ちて嘆く。
プレ5て……どうしてそれを警察と泥棒の景品に回さなかったんだよこれだから金持ちは…!
「あっ。優勝者決まったみたいだよ」
遠坂の言葉に、2人で机に額をへばりつかせたまま舞台の方を向き耳を澄ませた。
『なんと!優勝者は!……先程飛び入りで参加した神庭くんでーす!!!審査員の生徒会の代表3名の満場一致で決定されました!!!これでいいんでしょうかいいんでしょうね!!!』
良くねぇだろ。そんなん八百長だ。
「カンバって誰だっけー?」
「上野知らんのか?あのアフロの転校生だぜ」
えっ。
上野の問いに伊藤が返答した。
「もしかして…2人とも食堂で彼、大声で名前言ってたの忘れたの?」
「マ??」
そうだっけ?完全に忘れてた。
驚いて机から起き上がって伊藤を見た後、舞台に目を凝らした。
いた。
スポットライトが当たっている黒い毛玉の下の人体はセーラー服を着ているようだった。
いや流石に元気すぎる。
制裁後に牢屋からの脱走に女装コンテストって…小学生でもんな意欲的に動かねぇだろ尚且つ強靭な精神…。
俺……助けなくても大丈夫だった説……?
脱力して再び机に崩れ落ちたのは言うまでもない。
「生徒会の美的センスウケる」
「おれプレ5ほしかった…」
「ところで柴君、プレ5って何…?」
「嘘ぉ…逆に遠坂すげぇや…」
つまりは、だ。
遠坂と俺は女装しなくていいってことか。
景品の拒否権については、伊藤は知らないらしく役に立たなかったからあとで先生とか………あ、直接聞く手があった。ラインで繋がっていたことをすっかり忘れていた。
しかし身を削る景品をよく許可したもんだな生徒会。
胸に付けていた泥棒側と警察側のピンバッジを回収した後に伊藤がパイプ椅子を用意してくれ、遠坂と伊藤と3人で受付の机の所で時間を潰す。体育館受付の担当が1人で伊藤は物凄く暇だったらしい。
風紀が堂々と携帯触ってるわけにもいかないしな。
舞台の方を見て3人でどれが1番マシかとか可愛いとか話しながら、机の下で木雨に景品について聞こうとラインを開く。
通知が来ていた。
現在進行形で。
ピロンピロンッと増え続けるトークルームは、既視感のある上野くん。
しばぁ〜暇だよー。遠坂くんも見当たらないよー。寂しいよー。と、青い鳥に言っとけ案件なるメッセージをずっと言い続けている。
既読をつけたくなくなってきているが、このまま通知を増やすのも嫌なので開く。
既読付けた途端『!!!』ときた。
閉じたい。
『どこ〜〜〜????』
『知らない1年に囲まれてる 助けてまめしば〜』
ねぇ知ってる?じゃねぇんだよ。
しょうがないやつめ。
えーと、
『体育館入り口の受付』『チワワ撒いてから来て』
すぐにポコンッと承諾のスタンプが。
あ。
送ってから気がついたけど怪我のこと忘れてた。まぁ…遠坂も伊藤もいるし誤魔化せんだろ。いつかは会うしことになるし。
「伊藤、柴のこの怪我どういうこと」
「ぐぇ」
誤魔化せなかった。
というか誤魔化す時間すらなかった。
何も関係ないのに、上野に胸倉を掴まれて伊藤の体が若干浮いてしまっている。
すまない伊藤。
スタンプを送ってきた暫く後に上野が見え、
お、ちゃんとチワワ撒いてるな…と眺めていると途中から真顔になって早歩きにこっちに向かって来て、一切口を開く間も無く伊藤に近付いたと思ったら、アレ。
固まってしまっていたが、とんだとばっちりを受けている伊藤を助けようと声をあげた。
「上野、違うから、風紀は関係ないから」
「…ほんとに?」
「そうだよ〜階段から落ちたの僕見たから、本当だよ。酷い落ち方でびっくりしちゃった」
上野は俺達の顔を順に見て逡巡した後、そろりと伊藤から手を離した。
よかった。
と思えば、上野が勢いよくこっちを見て、エッと言った。
なんだ今度は。
「待って柴、階段から落ちたの?!!??!?」
「うるっせぇーーな!!そうだよ!!!!!」
ダサいことを大声で言うな!
「じゃあ頭とか打った……?」
「まぁ」
「記憶とか大丈夫?」
「?問題なし」
「じゃあおれたち家族だった前世の記憶とか…」
前 世
首を捻り考える。
????????????
成る程。
そうか。
「お前も頭打ってたか……」
伊藤から体育館に保健医が居るとの返答を貰い、キョトンとした上野の腕を掴んで保健医が居るらしいところにトロトロと向かった。
その可哀想な頭を治して貰いに行こうな。
あと定期的に俺を洗脳しようとするな。
*****
柴と上野が人混みに消え、伊藤が「アイツやっぱバーサーカー」と呟くのを遠坂は耳にした。あまり動じる事も無かった伊藤の様子に、先程までの会話。
疑問に思っていた遠坂は、まだ軽く咳き込んでいる口の軽そうな彼に聞いた。
「ねぇ、伊藤君。柴君って以前にも何かあったりしたの?例えば…"風紀が絡むような何か"とか」
言うべきか悩んだ様子で数テンポ遅れて口を開いた。
「そーだな〜…ケホッ………まぁ、言ってもいっか。
去年の1、2学期くらいに、柴、上野の親衛隊から何度か制裁があってさ。柴は俺らみたいな小中等部上がりじゃないから、上野とか、まぁ他のイケメンとも普通に仲良くしてて。んで一度、やり過ぎな制裁をちょっと、な。
…まぁ未遂だったんだけど」
「詳しいね」
「まぁな!だって俺も現場に乗り込んだ1人だったから!」
遠坂は目を軽く見開き驚いていた。(前髪で見えないが。)柴がとてもそんな様には見えなかったからだった。それに、伊藤の話し方があまりに軽く、とてもそんな重い話が出てくるとは思っていなかった、ということもあった。
だが、軽い口調には理由が。
次第に口元をニヤつかせた伊藤は、勿体ぶる様に「で〜、な〜?」と続きを話し始めた。
「その、やり過ぎな制裁に乗り込んで目にしたのは………」
「うん」
「なんと……」
「…………うん」
「縛られた柴と、床に股間を押さえて悶絶する男達であったのだー!!」
「………………う、ん?」
相槌待ちをする伊藤に遠坂は律儀に相槌を返していき、気分の良くなった伊藤は背景に効果音が尽きそうなほどドヤ顔で言い放った。
やり過ぎな制裁、つまり強姦されそうになった柴は腕を縛られ、男子生徒2人に空き教室に拉致された。
拉致されたことを目撃されていた為、暫くして風紀が急ぎ現場に駆けつけると、柴は2人の股間を力一杯蹴り飛ばし、男としては同情せざる負えない程の苦痛を味わい床に伏せていた、ということだった。
「わぁ……柴君…何というか、すごいね……」
「な!いやぁ…被害者に対してビビったのは後にも先にもアレだけよ。
だって、駆け付けて声を掛けに行ったら、股間を抑えた男子生徒2人の様子を聞いてきて、なんつったと思う?
"なんだ…潰れてなかったか"
…だぜ?タマヒュンしたわ」
遠坂は動揺したように口元を押さえた。
だがそれは話の内容に似つかわしくない笑みを隠す為であり、遠坂は柴の意外な一面を好ましく思った事を自覚した。
と同時にタマヒュンしたし、聞いてしまっていた周りの生徒もタマヒュンした。
「んで、そこからは上野が親衛隊と話したりして制裁も無くなったみたいなんだけど、やっぱり上野、あの様子じゃまだまだ気にしてるみたいだなー」
「そうだね〜…うん。お陰で納得したよ。ありがとう」
伊藤から話しかけられ、口元から手を外すと、遠坂は相槌を打ってにこやかに礼を述べた。
*****
混雑した体育館を暫く彷徨い、小さなブースにやっと辿り着く。
優しそうなおじさんの保健医に上野を見てもらうと、上野の後頭部にタンコブがあったらしい。
まじで頭打ってたのか。
わろた。
ただ、最初に俺の顔を見て驚いた保健医はのおじさんは上野と同じように「ひとまずこれと…あとこれで患部を冷やしておいてね。それと、また保健室に来てね」と痛み止めの錠剤と保冷剤を渡され、2人でブースから出た。
「柴とお揃いだね〜」
嬉しくねぇ〜〜。
時折、上野の首元や背中に保冷剤を当ててたりして戯れながら遠坂のいる方に向かう。
「俺と前世で家族っつったけど、詳しくは?」
「えっとねー、森の中で2人でパン屋やってんの」
くそファンシー。
「食材はおれがハントして柴がさばくの」
「ワイルド過ぎる」
「買いに来るのはクマとかオオカミとか」
「パン屋だよな??肉屋じゃねぇよな???人は来んの?」
「柴とおれ以外の人間はいない設定だから来ない〜」
「設定って言ったな」
けらけら笑いながら上野の横腹を軽く殴った。同じく笑いながら上野は俺が殴ったところを軽く撫で、骨折れた〜、と言った。
弱過ぎる。
カルシウムとって骨強化しろ。
最も、もう今摂っても意味無いらしいが。
「柴ぁ」
「なんだよ」
「痛い?」
脈絡無く聞いてきた上野。
痛々しげに眉を寄せて俺の顔をジッと覗き見る。
「…くっそ痛え」
返答に少し笑われた。
「何かあったらすぐ呼んでっておれ言ったのに……柴のばぁか」
「………そういう上野も頭打ってんじゃん」
拗ねた様に言われて言葉が詰まり、話を逸らすくらいしかできなかった。
「これは、バナナの皮が廊下にあって」
「マリカーかよ」
まじ?
バナナの皮って滑れんの?
話しているうちに、もう入り口近くまで来ていた。遠坂と伊藤が机に肘をついて話しているのが見えた。
「柴」
「ん?」
「次はないから」
滅多に見ることのない、上野の綺麗な良い笑顔。圧倒的な顔面圧。真顔よりこわい。
何度か首を上下に振ったあと、まぁそうそう階段から落ちることなんて無いしな、と誤魔化しておいた。
というか"次"があったら何するつもりなんだ上野は……?
控えめに言ってゾッとした。
2人に近付くと遠坂が、あれ?と言って聞いてきた。
「上野君、怪我してたの?」
「ダセェんだぜ、聞いてくれよ。こいつバナナの皮で滑ったんだってさ」
「柴に言われたくなーい」
うるせーやーい。
伊藤は嬉々としてバナナの皮に反応したのに笑っていると、舞台が騒がしくなったのに気が付いた。
4人で顔を見合わせる。
放送に耳を澄ませると、飛び入り参戦があったようだ。
「飛び入り参戦?そんなのできんの?」
伊藤に顔を向けた。
「まあ……あるのはあるけど、まさかいるとは……自信家か物好き………あ、いや」
なんだ?
「優勝景品目当てかも」
「へぇ〜そんなのあるんだね」
遠坂に相槌を打つ。手回しがいい。
「なんなのそれって」
上野が首を傾けて聞いた。
「プレ5」
は?
「上野ー!いけー!!飛び入りだー!!」
「任せろやーい!!!」
「いや、ついさっき締め切られてたべ」
なんだと?!!!??!
「なんで言ってくれなかったんだよ!!!伊藤の馬鹿野郎!!!」
「バッ?!なんだとぅーー!!」
上野と机に崩れ落ちて嘆く。
プレ5て……どうしてそれを警察と泥棒の景品に回さなかったんだよこれだから金持ちは…!
「あっ。優勝者決まったみたいだよ」
遠坂の言葉に、2人で机に額をへばりつかせたまま舞台の方を向き耳を澄ませた。
『なんと!優勝者は!……先程飛び入りで参加した神庭くんでーす!!!審査員の生徒会の代表3名の満場一致で決定されました!!!これでいいんでしょうかいいんでしょうね!!!』
良くねぇだろ。そんなん八百長だ。
「カンバって誰だっけー?」
「上野知らんのか?あのアフロの転校生だぜ」
えっ。
上野の問いに伊藤が返答した。
「もしかして…2人とも食堂で彼、大声で名前言ってたの忘れたの?」
「マ??」
そうだっけ?完全に忘れてた。
驚いて机から起き上がって伊藤を見た後、舞台に目を凝らした。
いた。
スポットライトが当たっている黒い毛玉の下の人体はセーラー服を着ているようだった。
いや流石に元気すぎる。
制裁後に牢屋からの脱走に女装コンテストって…小学生でもんな意欲的に動かねぇだろ尚且つ強靭な精神…。
俺……助けなくても大丈夫だった説……?
脱力して再び机に崩れ落ちたのは言うまでもない。
「生徒会の美的センスウケる」
「おれプレ5ほしかった…」
「ところで柴君、プレ5って何…?」
「嘘ぉ…逆に遠坂すげぇや…」