新入生歓迎会するんだってよ

余興


手当も終わり、動くのも多少楽になるまで待ってもらったので、遠坂と共に体育館へ向かう。

全身が湿布臭くて、貼ってる量的に最早俺は歩く湿布みたいな存在になっている。
まじくせぇ。遠坂に俺くさくない?って聞いたらすごく臭うって言われた。
ブロークンハート。


イベントが終わってからそこそこ時間が経ってしまっていた。気持ち急ぎめで体育館に近付くと、拍手やら口笛やらが鳴ってだいぶ盛り上がっている賑やかな音が聞こえた。

なんだ?パフォーマンスでもやってんのか?
遠坂と話しながら覗き込むように中に入ると、


目の前にスカートを履いたバケモノ共が。


瞬時に俺だけUターンして出ようとするのを遠坂に片手で止められる。

「やめろ…!止めないでくれ!こんなっ化物…きっと会場を間違えたんだ…!」
「柴君柴君、大丈夫合ってる。みんな人間ではあるはずだよ」
はず、とは。

「わははは!遠坂くんくっそ辛辣じゃん」
「あぁ…なんだ、伊藤か。お疲れ」

体育館の扉の陰から風紀の腕章をつけて出てきたのは、同じクラスでノンケ仲間の伊藤(イトウ)だった。

「おうサンキュ…ってなんだとは何だ!っじゃなくてその顔!?」
顔を指差して声を荒げられた。
忙しいなこいつ。

「えーっと、これは、大したことない。罠に引っかかりそうになって、階段をちょっと踏み外しただけ」な、遠坂。と遠坂に話を振るとしれっと「うん、そうなの。ちょうど目撃して、さっき一緒に保健室に行ってきたところだよ」と言ってくれた。
誤魔化すの上手いな。


「柴…お前……………ダセェー…………」
蹴飛ばしたい。
溜めて言いやがって。

睨むと、人相の悪さ5割増してんな、とケラケラ笑われた。普通に動けるようになったら覚えてろよ伊藤てめぇ……。

けど、そうだな。
顔はあまり殴られなかったからなんとか誤魔化せそうなのが不幸中の幸いだ。


ふと周りを見ると体育館に居たのはバケモノだけではなかった。入った時は薄暗かった為入り口近くにいた人しか見えなかったが、慣れると制服の風紀や、私服の人もいるのが分かった。

バケモノと思ったのは、ゴツいやつがミニスカをはいて、顔をキャンパスに正気とは思えない化粧を描いていたからだった。
他にも親衛隊所属と思われるチワワ達もいて、普通に似合っている女装だった。もしくはコスプレ?


いやぁ…入り口にいたバケモノのインパクトが強すぎて周りにまで目がいってなかったな。

体育館の大きな舞台にはスポットライトが当たり、横断幕には"女装コンテスト"と書いてあった。

「なるほどな〜………聞いてないが?」
「まあ言ってないからな」
「うおっ」
遠坂と舞台の方を見ていると、横からにゅっと距離をとっていたはずの伊藤が顔を出した。

「これが内緒にしてた、余興ってやつ」
「へぇ〜エントリー式なの?」

遠坂の質問にチッチッチッと人差し指を口元で振る。うざい。

「女装をさせられるのには条件があって、"泥棒は、開始1時間以内に捕まった生徒"と"警察は、1人も捕まえられなかった生徒"…………ということでお2人の成績は、っと…」

そう言って受付の机の方に戻って名簿を調べ始めた。覗きに行くと、名前の隣に3桁の番号がついていた。「これは?」と聞くと「手錠の番号!」らしい。
へぇ、わざわざ管理してたのか。
調べ終わったのか少し興奮気味に肩をバシバシ叩かれる。
痛えって馬鹿。
怪我人なの忘れてんなこいつ?

「すげぇーすげぇー!遠坂逃げ切ってじゃん!!しかも柴なんて生徒会役…」
あっ。
「え」
遠坂の口が開くのを横目に持ってた湿布の袋を勢いよく伊藤の口元に当てた。
手で塞ぐ時間なかったんだよしょうがねぇじゃんそんな怨みがましく見るなよ…。


正直言って、スパンって超良い音が鳴って最高に気持ちよかった。
すっきりしたありがとう。


袋を退かせて真横に近付き、耳元でコソッと話す。

「悪かったって、周りで誰が聞いてるか分かんねぇし大声で言うのだけはやめろ頼むから…」
「そうかぁ〜?わかったよ…」
喧騒の中、周りをキョロキョロ見渡していたが、渋々頷き顔を寄せて小声で聞いてきた。

「そんでこれマジ?興味無さそうな顔してやるなお前ぇ〜」
「いや、これは…なんと言うか成り行きで…サボろうとしてたところを鉢合わせて、手錠をうばわれただけというか」
「そうはならんやろ」
「なっとるやろがい」
怒りのポプ子。

「柴君、誰捕まえたの?」
「……簿記」
「関西弁の?」
頷くと、少し首を傾げて「意外…」と言われた。
何が?

「生徒会役員を捕まえた景品って…ねぇ、伊藤君」
「なぁ遠坂クン」
「な、なんだよ」
遠坂の口元ニッコリ。


「"捕まえた役員と1日自由に過ごせる券"…だよ」


「い…いらねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」





「なんだ。てっきり狙って簿記なのかと」
「だから意外っつったのか」
「柴って方言好きなタイプ?」
「やめろやめろォ」
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