新入生歓迎会するんだってよ

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保健室に行く前に、俺を校舎の前に置いて遠坂は"牢屋"と書かれた、風紀と先生がいて全校生徒が収まる1番大きな体育館へ保健室に行く旨を伝えに行ってくれた。感謝。

校舎に近くなると、流石に放送の音がよく聞こえて賑やかで驚く。いつの間にこんな盛り上がってたのか。

待つ間、怪我がなるべく見えない様フードを深く被り、校舎に入る手前の階段の影がある端っこにしゃがんでいることに。

携帯を適当に触りながら周囲に耳を澄まし、ツイッターを流し見る。
何せ暇だからな。

警察側も随分と暇そうに体育館の前でたむろしている。最終集合場所はこの体育館だからしょうがないか。

前を通って行く2、3年の警察の会話によると、もう既にほとんど捕まっていて、牢屋から出れた人はいないらしい。
そもそもまだ逃げてる奴すごい。終了まであと10分切ってんぞ。

…って遠坂もか。

周りが警察しか居ない中、にこやかに手を振ってこっちに平然と歩いて来る遠坂に、なんなんだろうなこいつ、って思った。
遠坂を皆スルー。ちゃんと泥棒を示すバッジ付けてんのに何故。服だけを判断材料にしてんのか?

「お待たせ〜。あと保健医の先生は丁度出たらしいから、予定通り保健室に行ってみようか」
「そっか。悪い、ありがとう」
「気にしないで、僕もこれからサボれる口実得れたし」
「ハハッ遠坂もそういうのあるんだな」
「ふふっ、まぁね」

それと未だ裸足だった俺に、先生から靴借りたよと言って新しめのクロックスを持ってきてくれたのには感動した。

手を差し伸べてくれる厚意に甘えて立ち上がる。遠坂が体育館の中の様子を教えてくれながら校舎に入ると、急に表が騒がしくなってきた。
他の皆も気になったらしく人混みが多くて校舎から外が良く見えない。放送もまだ状況が掴めてないようだった。遠坂と顔を見合わせて首を捻っていると、見てきたらしい野次馬が興奮を隠そうともせず友人らと近くを通り過ぎて行くのに2人で耳を傾けた。

「やばくね?!あの転校生が白雪姫を牢屋から連れ出して逃げたの俺見ちゃった!!!」
「会計様と副会長様なら俺間近で見れた!!」
「すげーー!!」

す、すげぇ〜〜!???!

いや、えっ?
あの制裁の後で?!??
元気有り余りすぎではってか風紀は何して?!?

「?柴君?どうしたの?」
感心していた遠坂は、俺が固まっているのに気が付いたようで不思議そうに声を掛けられた。

「いや…何でもない、それにしてもすげぇな毛玉」
「そうだねぇ」

そう相槌を打った遠坂はずるずると俺を引き摺って保健室へ向かった。

すげー……。その筋力は何処ぞに…?


保健室に行くまでの間にイベント終了の放送が流れ、道すがら通り過ぎる生徒は皆体育館の方に向かっている様だった。お疲れっした。お陰で校舎の中には誰も見当たらず、休みの日の様に静謐な廊下を俺達の足音だけが響く。


暫くして保健室に到着。身体の重い今の俺にとっては"やっと"到着。普段だと何とも思わない距離なのに。

保健室の扉の前には立て札があり、『保健医只今外出中。個人で処置が難しい生徒やご入用の方は下記にご連絡ください↓ 080-××××-××××』とあった。

「…ここではなかったみたい、だね」
「…だな」

取り敢えず処置をしようと扉を開け、中を見渡すも誰もいないようだ。

ベッドに腰掛ける様に遠坂に促され座っていると、遠坂があちこちの棚からガーゼやら絆創膏やらを探しはじめた。

暫く遠坂を見ていたが、言い忘れていた事を思い出して口を開いた。
「今更なんだけどさ、」
「ん〜?」
「あんなメッセージで来てくれてありがとう」
棚からこっちに顔を向けた遠坂はくすりと笑った。
「まぁ…何事かと思ったよね」だよな……。
一通り道具は見つかったのか、俺の前に椅子を持ってきて俺の座るベッドの上に持ってきた物を置いた。




「イッ!?ちょっ!待って!痛い痛い痛い!タンマ!!!」
「はいはい大人しくしててね〜」
こいつ容赦ねえ!!!
穏やかな空気が流れたと思ったらこれだよ!!!

取り敢えず顔からね、という言葉で手慣れた様に怪我したところを手当てし始めた遠坂。一切の容赦も遠慮も無くぐりぐりと傷口を抉るように消毒していくのは、もうそれ、拷問じゃね?と思ったが手当てしてくれている相手に言える訳無く、というか言ってもスルーされるぞこれ。絶対。

「あのね、柴君」
「いっ、いた、痛い、何?!」
「全部話してほしい訳ではないよ」
「イッ…は、はい」
「呼び付けたからには、それなりに事情を話すのが筋なんじゃないかって、思うだけだよ」
言い終わると同時に、ファスナーの開いたパーカーの前からTシャツをスルッと捲り上げられた。

「……こんなのでよく"罠で"なんて言えたね…」
遠坂が呆れ果てたように顔を見てきた。顔に熱が集まり始め、逃れるように目を伏せた。

細くもないが、筋肉もあまりない貧弱な俺の上半身は、加減なんてないヤンキー共の殴打であちこちにカラフルな青痣が。時間が経過したからあの時より、より痛々しく見える。俺も今見て引いた。
遠坂が湿布を手に持ち「貼るから脱いでて」と言ってきたから、もう隠す必要もねぇなと思いパーカーとTシャツを脱いだ。
うわ、腕も。

「ぅっ」
湿布を貼られるたびに身体がビクつくのが恥ずかしい。細くて長い遠坂の手が最後の一枚を貼り、貼ったところをスルッと撫でて「はい、これで終わり」と言って笑んだ。
「下は、ここの湿布持って帰って後で寮で貼ってね」
パックのまま膝の上に置かれた。こんなにいるか?まあ余れば今度返しに行けば良いか。


…………"筋"。
先程言われた言葉を脳内で復唱する。


「……あのさ……これは、たまたま、ヤバめの制裁をされそうな奴を見つけて…風紀が来るまで時間稼ぎした結果…………みたいな………」
道具の片付けを始めた遠坂の背中に向かって話し掛けた。
「…その後に、知らないやつに声を掛けられたから咄嗟に、遠坂近くにいるかなって思って。……悪い」
「……そう」

聞きながらしていた片付けを終えて、両手を払う様に叩くと、遠坂はこっちを向いて穏やかないつもの顔をしていた。

「いいけど、なんで現場発見した時に上野君や僕に連絡しなかったの?」
「だって、時間なかったし……?」
「にしても体張り過ぎじゃない?柴君ならこんなのになる前に逃げれたと思うんだけど」
まぁ。多分。
でも、そうしたらアイツら罠に掛けられなかったからな……。

遠坂は黙った俺に首を少し傾けた。
「それで…その実行犯は風紀に捕まったの?」
その問いに、意地悪く笑い「だろーぜ」と答えた。



「ザマァみろ」
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