新入生歓迎会するんだってよ

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「せやせや、バズ」
「まじでそれで呼ぶのか」



ラインの名前が"柴"で、名前の話になり、「なんかおもろい名前で登録したいな」といって捻った名前がバズ。

しば ゆずき



し『バ』 ゆ『ズ』き


らしい。捻りすぎて原型がない。突然呼ばれたら絶対に分からん。
振り返るのは、顎髭が渦巻き型で無限の彼方に飛び立つ台湾製のおもちゃ以外いないんじゃないか。

木雨は、キュウ様って呼んでなって言われたけど普通に木雨で呼ぶことにする。

「まぁまぁええやん。それで手錠ちゃんと持っとる?」
手錠?なんで?ポケットから出して見せる。


ガチャン


「はい、これでオーケー」

「  」

「うーん流石風紀貸出品、ええやつ使てるなぁ」

木雨は手錠を手に持ち、"自身"の両手首に嵌めてみせた。


…は?


は??????


「なにして…?」

「なにって…バズ、放送ん時寝とったん?言うたやん」ちゃうやつ流したんかな?
じゃないが。

「起きてたけど、…まさか」
放送の内容が脳裏によぎる。
"はよ捕まえてな、ほんまに"


呑気に、これで大義名分が立つっちゅうねんな、とほざく木雨。


俺…生徒会役員…捕まえて…しもたんでんがな…?


青い顔をする俺に向かって、心配せんでもええよ、と木雨は電話をかけながら手をひらひらさせる。

「あ、もしもし?俺俺、今捕まったから迎えに来て〜。うん、場所は旧館南校舎の中庭の…行動可能範囲ギリんとこ、っそない大声出すなや…誰でもええからここに近い風紀大至急頼むな、ほな」

電話の相手は風紀らしい。すぐに電話を切った木雨は顰めっ面をして耳に小指を突っ込んでいる。


去年は確か、捕まった俺は鬼の3年と一緒に体育館に向かった。
今年も同じルールと思ってたから周りの目が怖いなって。
そう思ってたけど。


役員は違うのか…?特別ルールなのか?ブルジョワ?


俺の様子に木雨がポツリとこぼした。


「まぁ…ほら。バズ、目立ちたないやろ」
キュウ様………。


「あと


しょうみ風紀と帰る方が安心やし」
「だろうな!!!」


ところでしょうみって何?って聞くと、言わんの?って驚かれた。無理みとかバブみとかの親戚の、正直み、の略語らしい。
一つ賢くなった。


3分も経たないうちに息を切らして風紀が駆けつけた。それを見て木雨は立ち上がってズボンについた汚れを軽く払い、座ったままの俺に向かって軽く手を振る。


「おん、じゃあ、ほなまた。これから俺暇やしラインでもして」
「あぁうん」


風紀が物珍しそうに俺と木雨へ視線を行ったり来たりするのに、肩を叩いて先を促した木雨。
ただ、何か思い出したかのようにこちらを振り返って黒い袋を投げて寄越してきた。


…なんだこれ。
そこそこの重量がある。


目で何か聞くと、茶目っ気たっぷりのウインクをして「俺のグッズ」


そうか。あとで捨てよう。
大きく頷いた。

「ちゃうちゃう、ほんまはロバー専用罠のやつ!マジに受け取るやつがおるかいな!捨てんなよ!…警察でもなんか奴立ちそうなやつあるんとちゃう?たぶん。どうせやったら適当につこて帰ってきぃ」


そう近所のおっさんみたいな台詞を吐いて、木雨は風紀に連行されていった。
風紀委員の人には去り際に、手錠は随時支給するからまた体育館に来てくださいね、と言われた。


嵐のような人間と風紀を見送り暫く呆けていたが、袋の中身を見ていなかったことを思い出した。


黒い袋の中身を見ると、

煙幕
催眠スプレー(一回きり記載)





一体どこで適当に使えんだよ。





その場にいるのも何となく居心地悪さを感じ、取り敢えず場所を変えることに。

適当にまたぶらぶら範囲ギリギリを攻めていると、木の根か何かに躓いて盛大に転けてしまった。

いてえ。

誰もいないところでよかったけど、これは

「だせぇよな…」

「ぅ…」


突然足元から聞こえてきた呻き声にその場から勢いよく離れた。


誰もいないところと言ったな?!あれはウソだ!?


目を見開き、さっき蹴躓いたところを見るとそこに居たのは


「毛玉の友達(?)……?」


食堂事件の時に、毛玉の隣にいた元Sクラスの奇人だった。しかもオプションで服の至る所に泥が。





「未知の生物との遭遇、一難去ってまた一難、の二本立てでお送り致します、来週もお楽しみに??????」
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