期末試験 後章-芽吹き-

「リビングのうさぎのぬいぐるみも付けるか?」



「…硬い。暑い。」

自分でも引くくらい水分を枯らしきった後、落ち着いた俺は恥ずかしくなってきて硬い筋肉に覆われた背中を叩いた。

目の前の筋肉が僅かに動いて頭に乗せられた手の動きも止まる。
が、再び動き出すのに耐え切れず手を払った。
もう良いって!

鼻を啜りながら前の腹部を両手で押し退けて上を見た。
眉を上げてもう良いのか、とでも言うように俺と目を合わせた。

「…頑張ったな」
「ありがとう。それもう良いから」
別に泣かねえから。

最後にオマケと言わんばかりに頭をポンっと弾いた後離れた惶。

あー涼しい。

テーブルの上のティッシュを引っ張って盛大に鼻を噛んだ。
目も頭も重いけど、驚く程気持ちが軽くなっていた。
たまには泣くのも必要ってことか。
定期的に感動するアニメでも探そう。

3枚目に突入して鼻にティッシュを当てた所で視線を感じて、その視線の元を見た。
テーブルに手をついて体を傾ける惶が、優しさを感じる眼差しで俺を真っ直ぐ見ていた。
しかも、Tシャツの鳩尾あたりが濡れてる。

それを見て、途端に熱が顔に集中してきた。


うわうわうわ無理無理無理無理。


今の空気に耐えられない。
そういや、さっき風呂行くつってたよな。
さっさと行ってもらおう。

「風呂、行くんだろ」
「あ?……ああ、そうだな」

惶が思い出したかのように、俺が指差した風呂の方に顔を向けた。

「いってらっしゃい」
そう言った俺に呆れる。

「…柚木、切り替え早ェな」
切り替えとかそういう話じゃねえから。

「………言わせる気か?」
目のすぐ下までティッシュを覆って睨んだ。

きっと、今、首まで赤いだろう。

「何がだ」
コノヤロウ。
本当に分からないらしい。首を傾げて髪を首元に垂れさせている。


この、このっ…!


「………て、……っ照れてんだよ…!」

振り絞った声が耳に届いたらしい。
惶が口を僅かに開いて瞬きをした。

「あ…ああ………。
分かった。行ってくる」

言ってすぐ扉に向かおうとして、自身が食べていた皿に目を向けて持っていこうとするのを止める。

「良いから、まとめて俺やるから」
はよ。
いいから。
「…あぁ」

戸惑ったように俺の顔を見て、今度こそ扉に向かいドアノブに手をかけた。
よし。やっと行くか。

引いてきた顔の熱に安心した時、扉を開いた惶が振り返って口を開いた。



「…今日、一緒に寝るか?」
「い、いいよ!!寝ねえよ!!!いいから早く行けって!!」
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