期末試験 後章-芽吹き-

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家族のことを思っていたより淡々と話せたことに我ながら驚いた。

話したことがない、そのことに不安があった。
言葉に詰まったら、呆れられるんじゃ無いか、とか。

けど、ちゃんと俺は乗り越えていたらしい。

良かった。
俺はもう、大丈夫。

目を伏せていると目の前に影が落ちたことに気が付いた。
見上げると、いつの間にか惶が椅子に座った俺の横に立っていた。
何かを我慢するように口を結んで。

なんでそんな顔してんだよ。
笑ってそう言いそうになったが、視界が真っ暗になり言葉が出なくなった。
背中に熱が2つあり、前の温もりに押し付けられてようやく、抱き締められたのに気付いた。

「………大変だったな。……聞いて悪かった」
「…ふはっ。…思ったよりそんなだって。
今時よくある話だし」
何かと思えば。
深刻に言う惶が笑えた。

「え、うわっ」
背中の熱がひとつ消え、後頭部の髪をぐしゃぐしゃにかき回されて思わず驚いた声が出た。

「よくある話だとしてもだ。
お前は、お前だろうが」
「っ、」
「頑張ったな。お前も、お前の姉貴も」

何で返そうか悩んで、ありがとう。そう言おうとした。
なのに、上手く声が出せないことに気が付いた。
喉が、震えて。

なんでだよ、さっきまで何とも無かっただろうが。

優しく髪を掻き混ぜる手と温もりに、胸が詰まる。
じわじわと目の奥が水が溢れ出て、勝手に小刻みに揺れる唇を噛み締めた。
何も言えなくなった俺はコップから手を離して、温もりにそっと手を回してTシャツに顔を押し付けた。
フラッシュバックしていく濁った映像の最後に、優しい惶の声が聞こえた。



そうだった。
姉ちゃんには到底及ばないけど、それでも、俺、頑張ったんだ。


頑張ってたよな。

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