期末試験 後章-芽吹き-

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くだらないことを話している最中に丸君の腕に数冊の本があった事に気がついた。
腕章も着けてるし、そういえば丸君今仕事中だったか。

「今委員の仕事中だったよな、ごめん丸君」
「あっ…いえ、全然です」

俺の視線を追って手元にある本に目をやった丸君が慌てたように手を横に振った。

「お2人はまだ見ていく感じですか?」
「いや、この本借りて帰る予定……で、良かったよな?」
「うん」

本棚の端まで散策していた遠坂が帰ってきて頷いた。
折り畳み傘は鞄に入ってるけど、どうせなら降らないうちに帰りたいしな。

「そうなんですね。分かりました。
受付俺やるので、先に行っててもらっても良いですか?すぐこの本なおして行くので」
「いいの?分かった。ありがとう」

促されるままカウンターに向かっていると、着く前に丸君がカウンターの方にまわって行った。
受付に既に居た生徒に一声掛けると、バーコードリーダを手に持ち、俺の方に手を伸ばした。
本の上に学生証を載せて渡すと、手際良く登録していく丸君。

なんだかんだでこういう風に丸君が受付の仕事を見るのは初めてで、なんか、バイトしてる近所の歳下の子を見たような気持ちになった。
頑張ってんだなあ…。

俺、まだバイトしたことないんだけどな。
全部架空。

「どうぞ」
「ありがと。じゃあ、またな丸君」
「ありがと〜」
「はい!」

人懐っこい笑みを浮かべた丸君が返事をした後、カウンターに手を付き身を乗り出した。

「…今度はフリーハグ、俺にもしてください」

囁くような声量で上目遣いをした丸君に、不覚にもドキッとした。
何で返そうか戸惑っているうちに、はにかんで照れたような表情になった丸君が身を戻した。

「じゃあ、またいつでも来てください」
「えっ、あ、うん」

そして、返事が聞こえたのか分からないくらいすぐに丸君はカウンターから出て本棚の方に早足で向かっていった。

「……行くか、遠坂」
「うん」


………。
……………。
乙女ゲーみたいだったな、あの丸君。




「好かれてるねぇ〜。するの?」
「…開催する時があれば…。ってかお前が言うな」
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