期末試験 後章-芽吹き-

想定外



返事を聞いて暫く、そのままだった遠坂の手が俺の顔の近くで震え始めた。

え。なに。
普通に怖い。
今どういう感情?

次震えるのは俺?そう思った直後、手を退かして一歩下がった遠坂は身体を曲げて肩を震わせていた。

……。
お前。

「…ふふ、ふっ」

震える正体が笑っていることだと気付いて肩の力を抜いた。
ふー、と息を吐いた遠坂が顔をあげた。
悪戯が成功したように口元が綻んでいる。

「ふふ、そんなに怯えないでよ」
「…怯えるだろ。塩島委員長と同じ雰囲気してたぞ。しかもちょっと苛立ってる時の」
「あははっ、怒ってない怒ってない」

非難する俺に手を振った遠坂に安心した。

「でも、聞きたいのは本当だよ」

……そっか。
そりゃそうだよな。
蚊帳の外の間にこうなったんだから、遠坂には話しても良いはずだ。
頷く俺を見て笑みを深めた遠坂は、意味ありげに呟いた。

「…もし、柴君"達"が何かしようとしてるなら、多少僕も役に立てると思うし」

…どういう意味だ?
それから、どこまで知ってるんだ…?

遠坂が、考えようとした俺の肩に触れた。

「それと、話を聞く前に……。」
聞く前…まだ何か……?
何を言ってくる気で…?

「………。」

身構えていたが、暫く待っても口を開いては閉じを繰り返す遠坂。

これは…珍しい。

「…遠坂…?」
「……その」
「…おん」

次第に小さくなる音量を聞き逃さないように顔を近づかせて、聞こえた。


「………少し、抱き締めてもらっても良いかな…?」


瞬きを繰り返した俺。
また揶揄ったのかと疑ってすぐ、照明で照らされた遠坂の姿を見ていて気付いた。


見えた耳は、赤かった。


視線を彷徨わせ、意を決した。
ゆっくり腕を広げ、肩を覆うようにぎこちなく背中に手を回す。

初めは硬かった身体が、次第に俺の方に力を預けてきたのが分かり、手首を動かして遠坂の背中をポンポンと叩いた。

した事とか無いけど、こうするのが自然な気がしたから。



重みを感じる肩は熱く、呼吸が首筋を滑ってくすぐったかった。




「…ふふ…蒸し暑い…。」
「…我慢しろ」
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