期末試験 前章-種蒔き-

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答えた後、何故か大喜びの加賀屋先輩と驚いた様に目を見開いて一時停止した惶を不思議に思いつつ、目の前の手をつけずにいたコップに手を伸ばした。
2人の前なら、まあ、良いだろ。

一息に半分ほど飲み干すと、体温が下がった気がした。
美味い。
あとやっぱウーロン茶だった。

結露が付いて濡れた手のひらを上に向けて自然乾燥させていると、加賀屋先輩が「じゃあそろそろ出よっか。ボクが先に出るネ」と提案してきた。

確かに、そのくらい時間が経っていた。
頷く俺と、どうでも良さげな惶は携帯を触りながら片手を払う様に振った。
態度。

加賀屋先輩が俺を名指しで手を振って扉から出るのを無反応で見ていて思い出した。
そうだった。

追いかけて部屋の廊下に出ると、玄関で靴を履く後ろ姿があった。
近寄りながら声を掛ける。

「加賀屋先輩」
「ん?うーたん?……はっ!ヤダ、これって離れがたい…ってやつだネ…!?」
「そういうのいいんで」

扉の方を見て惶が来ていないことを確認してから、声を潜ませた。
「パーカーの人のことで。あれって…」

加賀屋先輩は感激するような表情をすぐに切り替えた。
「彼だろうネ。…きっとすぐに塩島くんも分かると思う。写真を知念くんに見せて答え合わせまで2日もかからない筈だヨ。
目元のホクロ、特徴的だからネェ、彼」
やっぱそうか。

靴を履き終えつま先を何度か床に弾ませる加賀屋先輩に、念の為パーカーを着た怪しい人物を体育祭の時に見たことに告げると、面白そうに目を細めた。

「ヘェ…。ありがとう、調べておくネ」
「お願いします」
「うん。
じゃーーーじゃなくて、ソウダッタ。
うーたん、またヤンキーに巻き込まれてたって聞いたヨ……催涙スプレー付き防犯ベルかスタンガン警棒とか要る?」
「なにそれ……買ってるんすか」
「ウウン。改造するの」
改造するの。

「…や、まだ大丈夫なんで」
「そう?いつでも言ってネ。すぐ作るから」
すぐ作れんのか…。

「あ、そうだった。そのヤンキーの話なんですけど、藤土って人がヤンキーに"数日前に目立つ行動すんな"とか言ったらしくて…」
「それネェ…ちょっと今調べてるから、詳細分かり次第また共有するネ」
「お願いします」

頷き、流石の情報網に引きつつ玄関を出ていく加賀屋先輩を送り出してリビングに戻ると、惶はまだ携帯を触っていた。
怪しまれていないか内心気にしていたからホッとする。

座ってから、次どっちが出るか、を聞くより早く話し出した惶に固まった。

「アイツと何話してたんだ」

あ、怪しまれとる。

「い、一緒にやってるゲームのイベントの話」
「…………ヘェ」
明らかに納得してない声色〜〜〜!

「……と、あの、藤土って人について聞いてた」
実際聞いてたから。
嘘じゃないから。
「アイツに?……なんなんだアイツ」
確かにそうなる。

加賀屋先輩とは。
……。
…………。

「……さぁ……?」
「…はぁ」
うわ。呆れたみたいにため息つかれた。
若干傷付いた。

「…分かった。アイツはもういい。
出る順番だが、塩島に聞いた。2人で出て良いらしい」
え、そうなのか。

携帯触ってると思ったらそういう理由だったか。
「そっか、ありがとう」
「"コップもそのままにしとけ"って」
「おけ」

塩島委員長…ありがとうございます…。


それから部屋を出るまではあっという間だった。
待つ間、整理の行き届いた部屋をじっくり見回していたが、本当にモデルルームのような綺麗さだった。
2人の趣味という趣味が何一つ分からなかった。自室に置いてんのかな。

本来はそうなんだろうな…。
……もう少しリビング片付けるか…。




「…部屋戻ったらリビング、片付けますね…。」 
「………クッションもか?」
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