期末試験 前章-種蒔き-

2



腕を組んでポツポツとダルそうに、時折身体を傾けながら話し出したピアスマン、もとい知念。

話は要領を得ず、時系列もバラバラだった。
勿論、途中制裁時の話をしようとするのを必死に遮って指示者の話に戻すように尽力した俺は、知念が話終える頃には燃え尽きていた。

いい加減にしろよお前。

なお、知念は気付かず、俺は気付きたくは無かったが、その際の加賀屋先輩の瞳孔はガン開きだった。
その異様な雰囲気は眼鏡が多少印象を緩和させていたので、やっぱ眼鏡は重要だと再認識。
俺もデフォルト眼鏡仕様にシフトしていくか要検討。


本題。
喋り終えた知念の話のほとんどは特に不必要だったが、ある一点だけ掘り下げたいところがあった。
ただ、俺が聞くことなく、塩島委員長が要点をまとめてくれた上、同じ点について聞いてくれた。

「よく分かりました。
ところで、依頼者が初めて接触してきた時の話ですが。2人組と言いましたね」
「なんだよ」
「小柄な生徒が主にあなた方に話しかけ、もう1人はパーカーを被って後ろで待機していたと。それから、小柄な生徒が何か確認する時はそのパーカーの生徒に聞きに行っていた。お間違いないでしょうか」
「おー、そう。パーカーの奴も、ガキみたいな奴もマスクしてっから顔はよくわかんなかったけどな。
…あ。」
なんだ?
「何でしょうか」

あぐらをかき、怠そうに天井を見回していた動きが止まった。
思い出したように声をあげた知念にすぐに塩島委員長が促したが、大層言いづらそうに口籠った。

「あーー、や…。そういや、そのパーカーの奴……。」
パーカーの奴が?
「…………マスク越しでも美人そうで、ぜってー金持ちの感じだったから……タッツーが…」
タッツーが?

いや誰だよ。

「…一仕事ヤったらあいつもヤりに行こうぜって…はなしてたなー…って…。」

………。
うわー……。

「ハッ」
「ケダモノヨォ〜!」
「…よくその発言私の前で言えましたね」
「いやいやいやいや!言ったのオレじゃないから!オレに言うなって!!しかもアイツなんか知らん間に退学してたし…」

知念は口々に非難する俺らに言い訳するように慌てて手を横に振りながら早口で言い募った。

「…でもお前、別に反対とかしなかったんだろ」

塩島委員長の少し後ろにケツを移動させてボソッと呟いた。

「え〜だって…まあ…美人そうだったし、髪長かったし、細かったし…」
ケダモノだ。
「うーたん顔出しちゃダメだヨ!塩島くんの後ろに居るんだヨ!」
「はい」
「え〜〜シバちゃーん?」
呼ぶな。

大人しく三角座りで膝に顔を埋めた。
…いやだからなんで俺だけ。
3年達はいいとして。

体を傾けて惶の様子を見ると、膝を立てて腕を組み、見たことない程冷めた目で隣の知念を見ていた。
クールすね。

そそくさと元の体勢に戻り、少し暗い視界の中さっきの2人の会話について考えてみることにした。
塩島委員長が居るなら、俺が口挟む必要ないだろうしな。

パーカーの人は髪が長くて、細くて、美人で、金持ちそう。
特徴があるようで、この学校においてその特徴だけで絞り込むには少し難しい。

ただ、状況の要素を加えるとそれはグッと狭まる。
1つは、小柄な生徒。
聞く限り、髪型などの見た目の特徴では恐らく鯨岡。
そして、その鯨岡が指示を仰ぐってことは、鯨岡より立場が上、もしくは鯨岡が慕っている人。

もう1つは、パーカー。
"パーカー"と"一連の事件"において、心当たりがあった。
記憶が新しい、体育祭での一件だ。
南部さんを巻かれていた垂れ幕の紐が切られていたことを発見する直前に見た人影も、パーカーを被っていた。

借り物かもしれない。
話に出てきたパーカーの奴と体育祭の時のパーカーの奴が同一だとは断定はできない。
が、見た目の特徴と鯨岡が従う人物とすると…。

パンッ。

確信を深めていた所で、目の前から手を叩く乾いた音が聞こえて驚く。

「話はここまでとしましょう。
思っていたより有意義な情報を得ることができました。お陰様で絞り込めそうです。」
「お、じゃあ!シバちゃんの?」
「約束していたことはまた別途追ってご連絡しますね。ひとまず知念を連れて先に2人だけで部屋を出ます。皆さんはそれぞれ時間を10分ずつずらして帰ってください」

解散になりそうだ。
知念が褒美について騒ぎ立てるのを黙殺した塩島委員長が立ち上がった。
ありがとうございます。
そのまま、約束とやらは忘れるように頭をポカン…!しておいてください。


知念の腕を掴み、塩島委員長がリビングから出るのを腰を捻り見上げていた。
ドアノブに手を掛けた塩島委員長は「あぁ、そうそう。加賀屋さんの見張り、お2人に頼みますね」と振り返って笑んだ。
はい。勿論です。

先程と一転して口を閉ざして大人しく従う知念を意外に思っていると、扉が閉じる直前、扉のガラスに手をついて知念が顔を覗かせてきた。
俺に目を合わせてきたのを咄嗟に逸らすことができなかった。

デフォルトだった、軽薄な、にやにやした表情ではなかったから。
小学生が先生からガチ説教を受けた後の様な、決まり悪そうな顔付きをしていた。

「シバちゃん…ごめん」

それだけ言うと、少ししか開いていなかった扉はすぐに閉まり、知念の姿は見えなくなった。
それからすぐ、玄関のオートロックの扉が閉まる音が聞こえた。


なんだ。
突然。
どういう心境の変化?

扉の前の床を視線を落として戸惑っていると、普段通りの軽い音程で加賀屋先輩が「うーたんが来る前にネ、ちょっと一悶着あったんだヨ。狼谷くんと」と、言った。

惶と?

前を見ると、机に肘を付いて口の端をあげた加賀屋先輩が惶に視線を向けていた。

「お前もだろ」
惶は膝を立てて手を後ろにつき、加賀屋先輩を眉を寄せて見ている。

よく分からんかったが…。
2人が何か言ってくれたらしいな。
「えーと、ありがとう…?」

「それで?許すの?うーたん」
「無視しとけ」

あぁ。知念の。
相対的な2人の視線になんて答えようか迷ったが、正直に言うことにした。
言うことなんてこれしかねえし。

「答えるなら、"一生反省してろ"っすね」

だって、許すとか許さないとか、そういう次元の話じゃねえだろ?




「やっっぱうーたんはそうこなくちゃネ!!」
「や、どう意味すかそれ」
「……(こいつがこう答えるのは意外だった)」
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