期末試験 前章-種蒔き-

in塩島委員長ルーム



ボケカスと再会して数日後。

もっさりした髪の眼鏡の誰かさんから何か言われたのか、ボケカスの調書先は塩島委員長の寮部屋になったらしい。

呼び出されて初めて役付き用の寮部屋のある階のふかふかの絨毯が敷かれた廊下を進み、塩島委員長の部屋をノックした。
すぐに開いた扉から普段通りきっちり制服を着たままの塩島先輩が顔を覗かせた。

「お疲れ様です。柴さんが最後ですよ」
え。そうなのか。
待たせたのを謝ろうとするより早く、中に入るように急かされて中に体を滑り込ませた。

「…途中、誰にも見られていませんでしたね?」
「はい」

呼び出された際に書いてあったことだった。
頷いた俺に口元を緩ませた。

「ありがとうございます。それから、柴さんが最後なのは順に呼び出した内の最後だったからなので。謝罪は不要です」
そうなのか。
随分と厳戒にしてるらしい。

背を向けて中に入っていく塩島先輩を慌てて小走りで追いかけながら部屋を見渡す。
やっぱ広い。
それに、綺麗。

俺達の部屋は先住の生活感が残る傷跡がそこかしこに見えるが、この部屋は先住の過ごし方が良かったのか、傷一つ見当たらず新築のようだった。
廊下を進んですぐ左側にリビングの扉があり、造りは一緒か、と思ったが、突き当たりの部屋が一部屋だけだった。
流石役付き。

……いや、そういえば、塩島委員長と遠坂って同じ寮部屋っつってたよな…?

奥に見える部屋を見て突っ立ったままの俺に、リビングの扉のノブを開いてこっちを向いた塩島委員長が思い出したかのように声をあげた。

「あぁ…。遠坂さんはまだ帰っていませんよ。今日は図書館に用があるとのことなので」
「そうなんですね」
確かにそんなこと言ってたな。
教室で皆と別れる時に言っていたことを頭に思い浮かべた。

………いや、"そうなんですね〜"じゃねえだろ。

やっぱこの部屋で一緒に生活してんのかよ。
ワンルームシェアハウスじゃねえか。
どんな距離感だよ。
ベッドがでかいとかなのか…?
ならあり……か…!?

内心首を捻りながら、促されるままリビングの扉をくぐった。

「うーーーたーーん!やっほ!」
入ってすぐに声を掛けてきたのはいつもの奴。
いつものじゃないのは、その左右に睨み合って殺伐とした空気を生成していた、惶とピアスマンだった。

物が少なく、整頓された綺麗な部屋の真ん中に足の低いガラスのテーブルがあり、そこに3人は座っていた。

俺、あの中に混じんの嫌なんだが。

だって割合で言うと約半分が変態で構成されてる。この部屋。

加賀屋先輩の発言で俺に気付いたピアスマンが、シバちゃーん、と手を振ってくるのを無視して振り返った。
「あの、アレ、拘束してないんですか」
「した場合、落ち着きなくモゾモゾ動きます。絶え間なく。
見たいですか?」
見たくないです。

目に光を無くした俺は首を横にゆるゆると振り、諦めて3人と離れた向かい側に腰を下ろした。
加賀屋先輩を除き途端に静かになった2人からの視線に居心地悪さを感じていると、俺の隣に来た塩島委員長がテーブルの上の自分の前と、俺の前にガラスのコップを置いた。
カランっと氷同士がぶつかり軽い音を立てた。
色合いは明るく薄い茶色で、ウーロン茶かな、と思った。

「ありがとうございます」

少し離れて隣に座った塩島委員長にお礼を伝えると、いいえ、と遠坂と同じように微笑んだ後、前の3人に塩島委員長が向き直った。

ちょっと待て今気付いた。
3人の前にはコップ無え。

「それでは、知っていること全て話していただきましょうか。知念(チネン)」
知念って言うのかピアスマン。
「はいはい、つってもな〜あんま覚えてねーんだけど」

思い出せ。
じゃなくて、お前ら何も言わねえのかよ。


話が進もうとしている中、俺だけが困惑していた。




「「いいから話せ」」
「えーー」
「(え、何これ、気まず。飲めねえよ)」
「ハァハァ(困惑うーたんかわい〜〜ネ〜〜)」
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