期末試験 前章-種蒔き-

報告



本を片手に寮に帰ると、惶が料理をしてくれていた。
精神的に疲れた俺は庭園から室内に戻り、そのまま帰りたかったが、汗の付いた本をすぐ戻すのもしのびなく、借りて帰ることにした。
多分借りた時の顔色は砂漠の砂だった。

惶と挨拶を交わしてすぐに本を自室の机に置いて部屋着に着替え、共有部屋のソファーにダイブ。

特に意味もなくテレビを付け、目から滑らせていた間に良い匂いが。
早く飯が食べたくなった俺は惶の手伝いをすることにした。

お。牛丼だ。


手際の良い惶により、俺が手伝ったことといえばサラダを盛るくらいですぐに晩飯となった。

手を合わせ、半分程食べ進め、胃袋が催促を落ち着かせた所で惶にあのスキンヘッドについて聞くことにした。

「あのさ、すげえ厳ついスキンヘッドの人知ってる?多分Zクラスだと思うんだけど」

思ったよりアバウトになった気がする。
ゴムで髪を一纏めにしている惶が俺をチラッと見て、すぐにまた箸を動かした。

「………どのくらいの身長なんだ」
「190くらい」
「ピアスしてるか?」
部分的に。
「あー、耳と口にあった」

ターザンを頭に巻き、ドヤ顔髭面で腕を組んだ姿を思い浮かべながら答えた。

聞きながらも手を動かす惶の皿が綺麗になる。
このペースはおかわりするな。

口を親指で拭って一言、「知ってる。3年Zクラスだ」とアキネーター惶が答えた。
やっぱZクラスか。

「あー、それでさ、リーダーみたいにヤンキー従わせてたんだけど、Zクラスのリーダーって蓮って人で間違いなかったよな?」

おかわりしに台所へ行った惶に、サラダをつつきながら聞く。
「ああ」
短く答え、席に戻ってきた惶が続ける。
「あの人は、藤土 地秋(フジト チアキ)。
……1年の時はレンさんとお互い背中預けてたらしいが、俺が入った2年の頃には既に対立してた」

一杯目と同じくらい盛ってんのは最近ではデフォで、それを見ながら、なるほどなー、と呟いた。

「確かに、体育祭で見た蓮さんって人の雰囲気と全然違うかったしな。マジで目が合った時くっっそ怖かった」
方向性の違いで解散したのか。
バンド?

残り少ないサラダをかき寄せて口に運ぶ。
視線を感じ、顔をあげると惶が手を止めてこっちを見ていた。
なんだよ。

「…怖かったのか」
「え、おん。正直ちびるかと思った」
冗談抜きで。

え、何。惶怖くないのか?
逆に普段怖くないとか?
疑問符が止まらない俺に惶が眉を寄せた。

「………お前」
はい。
「会ったのか。あの人に」
「…………あ。」

バンドか?とか考えてる場合じゃなかった。

ストーカーしかり、結構お惶さんは心配性だったことをうっかり忘れてた。
ところで俺の周り心配性多くない?

合わされていた視線を小刻みにずらし、落としかけた箸を握り直す。

「会ーった、というか、たまたま鉢合わせて……。」

箸を置き、眉を寄せたままこっちに手を伸ばしてくる惶から逃れるように背を倒し、椅子の背もたれに肩が当たった。

「いや!怪我とかないから!」

箸を持ったまま両手を上げる俺を疑り深く見てくる。
ほんと、風呂上がり全裸見せても良いくらい。
…良くはねえか?

「どこで会った」
「図書館」
「……またくだらねェことに首突っ込んだんじゃねェだろうな」
「なんでだよ」
どういう認識だよ。
図書館行っただけだろうがよ。

惶は不服な俺を一瞥し、呆れたようにため息を吐くと再び牛丼を食べ始めた。

「や、聞いてくれ。なんならその藤土って人が絡んできたヤンキーから助けてくれたんだって」
「は?」

あ。
アホ面。
目を見開いて口を大きく開けて固まる、珍しい惶の姿の写真を撮りそうになった。
脳裏に浮かぶ2人。
勝手にダメージを負った。

「…………あの人が?」
「まあ、はい」

釘刺されたけど。
無傷で居られたのは藤土さんのお陰、っていうのは間違いねえし。
怪訝な表情を浮かべたままお茶を飲む惶を見ながら、残していた最後の牛肉を噛み締めた。
美味かった。

以降黙々と食べ始めた惶を携帯片手に眺めた。

にしても、そんなに意外なのか。
そういや、と庭園で藤土さんが口にしたことを思い返す。

"目立つ行動すんな"、"数日前に言った"、か。

…今度ストーカーに会った時に聞いてみるか。




「……一応レンさんに報告だな」
「ん?」
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