期末試験 前章-種蒔き-

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「めっちゃぶちょー悪役っぽーい!」
「ウケる」
「ちょっとキミ達ね〜〜折角キメたのに台無しでしょ〜?」
ネェ?と頬を膨らませて俺のすぐ横を通り過ぎる加賀屋先輩。
知るか。

ギャハギャハ騒ぐチワワくらい小柄な生徒達と仲良さそうに小突き合うのを見て肩透かしを食らった気持ちになる。
なんだったんだよ。

一騒ぎ終え、席が決まってるらしくそれぞれの椅子に着席するのをただ突っ立って見ていた。
やっと周囲を見渡す余裕が出来、明かりがパソコンの光だけだったのが分かった。

目が悪くなりそうな部屋だな。
電気くらい付けろよ。

慣れた目に、さっきまでの部屋とはうってかわり、写真は1枚も無く、代わりに配線が乱雑に部屋中を伝っているのを認識する。(一つの机にだけ写真が並んでいるように見えたが誰が写ってたとか俺は知らない。知らないから。)
しかもさっきの部室の半分もない大きさだ。
狭い。

部屋を囲む様に机が壁に沿って並び、5つのゲーミングチェアの前にはそれぞれ2台ずつデスクトップモニターとノートパソコンが。
クリーム色だと思われる、薄汚れたカーテンで閉じられた窓辺にはコピー機とコーヒーメーカー。
これのことか。
誘い出す嘘じゃなかったらしい。

クラッカーのゴミを机に置いた4人は椅子に座ったまま、にやにやとしたそっくりな顔をこちらに向けていた。
いやそっくりすぎる。
全員黒髪で、癖毛なのか所々跳ねていた。
小柄で大きな目が特徴的で、小学生か中学生に見えた。
四ツ子…?

「うーたんうーたん、どれ飲む?」
うきうきとした声の方を見ると、加賀屋先輩がコーヒーメーカーの前でカップをセットしていた。

「…ちゃんとこれ洗ってます?」
「毎日ちゃんと洗って持ってきてるヨ!」
失礼なことを言ったが、気にしてないらしい。
立てた親指をそのまま反対に折りたくなったが折角なのでよく飲むカフェラテのイラストをタップした。
すぐにコーヒーの香りがふわりと辺りに漂う。

「「「オレは炭酸メーカーが良いって言ったのに〜」」」
「オレはイチゴミルク飲めるから好き〜」
振り返ると、相変わらずこっちを向いたそっくりな顔の4人が居た。
さっきと違う点は不満げに口を曲げていたことだ。

「今度ネ、今度」
窓辺の棚に後ろ手を着いたまま適当にあしらうのに不満の声が上がった。
普段からさぞ横暴な部長なんだろうな。

「さて」
そう言って写真部部長が俺に視線を向ける。
「遅くなったけど紹介しよーか、
写真部〜の、裏のクラブズ!デス!」
「………。」
続くものと暫く待ったが口は開かない。
「……終わり?」
「エ、うん」
うんじゃねえんだわ。

当の本人達が非難の声をあげた。

「ちょっとぶちょー!!」
「しょうがないよ、こういうとこ適当だもん」
「こんなんだからここの部員増えないんだよね〜」
「ね〜」
加賀屋先輩が口を挟む隙を与えず次々と会話が飛び交い、そのうちの1人が手を挙げた。

「じゃー自己紹介。オレらは見ての通り四ツ子で、オレは1年の蜜口一葉。ちなみに体育祭の時ポケットに封筒入れたのオレだよ」
髪に赤色のピンを1つ留めた生徒だ。
あの時の。
お前だったのか。

「オレは二葉。よろしくうーたん」
続いて手を胸元まで挙げたのは、髪に緑のピンを2つ留めた生徒。
そのまま手を振ってくるのに反射的に手を緩く振り返した。

「オレは三葉。イチゴミルクはうーたんのおかげだから感謝〜」
白色のシンプルなカップを持ち上げて見せたのは、髪にピンク色のピンを3つ留めた生徒。

「オレは四葉。うーたんとやっと会えてうれしーよ〜」
背もたれに体重を預けたままピースした指をちょきちょきさせたのは、髪にカラフルなピンを4つ留めた生徒。

それぞれの挨拶を受け、思わず加賀屋先輩の方を見る。
俺も、これ、自己紹介する流れ?
…というか、"ミツグチ"といえば、風紀室で初めて加賀屋先輩と会った時に電話してた相手?
それから、体育祭の時の内線もこの子らか…!

色々と思うところがあり戸惑っていると、加賀屋先輩が出来上がったカフェラテが入ったカップを手渡してきた。
コーヒーメーカーを振り返ると、シュガースティックのゴミが近くに置かれていた。
っすよね。
よくご存知で。

「それで、こちらがボクのうーたんデス!」
「2年の柴柚木です」
突っ込むことなく頭を少し下げた。
代わりに四ツ子が口々に総ツッコミしてくれたから。



「ぶちょーのではないわ」
「ないわー」
「精々3番手」
「そもそもうーたんって愛称もオレらが一緒に考えたんじゃん」
「(え)」
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