期末試験 前章-種蒔き-

写真部部室



ステップを踏んで先を歩く加賀屋先輩に連れられ、着いた先は何の変哲もない普通の引き戸の前だった。

3階。
廊下の窓から見える校庭からは運動部の張り上げる声が聞こえ、姿も見えないのにそっちを向いた。
向き直った扉はいつの間にか開かれており、既に加賀屋先輩が中に入った後ろ姿が見えた。
色褪せて読み辛いが、扉の上部に"写真部"と黒い文字で書いてある立札があったことに気が付いた。
コーヒーメーカーがある割にはこういうところは無頓着なんだな、と思いながら中に入り、後ろ手で扉を閉めた。

初めて入った写真部の部室を見回す。
教室の半分程度の大きさだった。
ホワイトボードが一つあり、磁石で貼られている写真はどれもつい最近の行事事である体育祭のものだとすぐに気が付いた。
中心に寄せられた机が数個あり、やけに狭いと感じたのは、全ての壁に沿って棚が並んでいるからか。
全ての棚はアルバムの背表紙で埋め尽くされ、図書館の本棚の通りの様な圧迫感があった。

「写真部は今日休みだヨ」
通りで。

物珍しく部室を見渡す俺に声を掛けた加賀屋先輩が続けて「写真見る?」と言ったが、ただ首を振って答えた。

部屋をまだ見る俺の側までゆっくり歩いてきた加賀屋先輩に、ふと気付いたことを聞く。

「…コーヒーメーカーは嘘すか」
「まさかぁ」

楽しそうに目を細めた顔は悪ガキのようだった。
手を取られ、先導するように引くのはあまりに自然な動きで、何も言わず着いていくことにした。

歩みはすぐに止まった。
ポスターやダンボールや何やらで乱雑に積まれた部屋の隅にもう一つ扉があったらしい。
繋いだ手と反対の手を前ポケットに突っ込み、ごそごそと体を傾ける加賀屋先輩。
アッタ。
呟いて金属音がした手元にはシンプルな形の鍵。
手を離され、振り向いて口元を緩めてみせた加賀屋先輩。
扉に向き直ると鍵をゆっくり差し込み、回す。
ガチャリと音を鳴らして解錠したことを主張した。
扉を開くのを待ったが、加賀屋先輩は横にずれ、棚に肩を押し付けた。
軋む微かな音と同時に手を広げて、どうぞ、と言わんばかりに首を傾げさせた。

わくわく

するわけが無かった。
普通に不気味だろ。
なんか言えよ。
いつも長舌の癖に怖えよ。
映画かドラマなら、扉の先は闇金の事務所でした〜でもおかしくねえぞ。

一向に動こうとしない変態を恨みがましく見たままドアノブを掴む。
何気に聞き耳をずっと立ててはいるが依然として物音ひとつしない。
視線を扉へ向け、息を吐いて、覚悟を決めた。
どきどきしながらゆっくりノブを回し、扉を押して足を踏み入れる。
真っ暗な中、いくつかの電子の光を頼りに中を探ろうと目を凝らしてもう一歩進んだ。

ら、

パーーン!!!


「「「「ようこそうーたーーーん!!!」」」」
「…………。」

紙吹雪が顔にかかりようやく、弾ける高い音はクラッカーの音であることに気が付いた。


遅れて、扉の鍵が閉まる音に振り返った。
電子の光を受け、眼鏡が反射した加賀屋先輩の口元はいつも通りに緩んでいたが、いつもよりも不気味に見えた。




「ヨウコソ、ボクらの城へ」
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