期末試験 前章-種蒔き-

招集第1回



体育祭の一幕を終え、あの事件の犯人は罰を受けているものと思っていた。

「残念ながら、Zクラスをはじめるとする実行犯をそれぞれ退学や停学処分にすることはできましたが、主犯や貴方に怪我を負わせた人物は野放しとなっています。…力不足で申し訳ございません。」

正面に座り、項垂れて握った両手に力を入れる塩島委員長から、1人分あけた隣に座っている加賀屋先輩を見た。
深く腰掛け、ソファーに背を預けたままリラックスしている。

「マァ、そんな直ぐに捕まるようなヘマしないと思ってたしいーよいーよ」
そう言ってふわふわの髪を揺らし、手首を上下にスナップさせて緩く笑んだ。


授業が終わった放課後、塩島委員長の詳細の無い招集で風紀室に集まったのは、当人である塩島委員長を除き俺と加賀屋先輩だけらしい。

部屋に入ると、先にソファーに座っていた加賀屋先輩が俺を見て、恒例となった発言のあれこれもあったが割愛。

さっき塩島委員長が言ったように、今日集められたのは先日の話のようだった。
以前より話すようにはなったが、塩島委員長への緊張はまだ少し抜けず、変態ではあるが加賀屋といった、先輩2人と俺だけ空間は居心地悪さがあった。
ただ、それを上回る先日の事件の方へ思考がシフトする。

そうか。
マークしていたとはいえ、主犯とみていたが何も動きが無かった鯨岡のことを罰するまでいかなかったのか。
しらばっくれられたのかもしれないしな。

「それで?」

目の前の机に落としていた目線を、口を開いた声の方へ向けた。

「話はそれだけじゃないデショ」

断言する加賀屋先輩がメガネのブリッジに触れた。
バトンを受け取った塩島委員長が頷く。

「はい。ここからが本題となります。
お伝えした通り、主犯は野放しとなっています。
そのため、狙いである神庭君をはじめとする周囲の人間がまた狙われるかと考えています。
そこで、」
話を区切り、俺と加賀屋先輩の方を順に見た。
「また何か事件を起こしそうになった際には、お2人に助力していただければと。
…それがあと数日後になるのか、期末試験や学園祭等のタイミングとなるのかはまだ分かりかねますが」
「イイヨ!」
「…はい。俺も、俺にできることがあるなら」

即答した加賀屋先輩に続いて頷いた。
ほっとした様に塩島委員長が息を吐く。
固くしていた表情も緩んだ様に思えた。

「ありがとうございます…。
まだ動きがないので何とも言えませんが、状況が変わり次第またご連絡させていただきますね」

加賀屋先輩と了承の返事をした。
今後もこのメンバーで動くことを考えると、2人にははやく慣れないとな。

話は終わったらしく、忙しい風紀と世間話をすることも無く解散となり、風紀室の扉をくぐり、加賀屋先輩と廊下に出た。
扉を閉め、それじゃあ、と加賀屋先輩と別れようとしたその時。
普段と変わらない軽快な声が隣から聞こえた。

「うーたん、実はさっきのことで耳寄りな情報があるんだケド、知りたい?」

加賀屋先輩の目から視線を外し、もう一度見る。
笑ってはいるが、冗談を言っているようには思わなかった。

…なるほど。

無言で風紀室の扉のノブを掴もうとするのを加賀屋先輩が抑えた声で慌てて止めてきた。
器用すね。

「ストップストップ、良い子だからちょっと待って」
良い子じゃないで。

言葉を飲み込み、言い分を聞くことにする。

「…なんで塩島委員長に言わないんすか」
「………話をするためには部室に入れる必要があるんだケド、…うーたん以外入れたくないもん」

視線を下に向け、唇を曲げてつまらなさそうにもごもごと口を動かすのに呆れる。
もんって言うな。

「……コーヒーメーカー、あるヨ」
「…………。」




「タッチパネルで選べる奴」
「…………………。」
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