期末試験 前章-種蒔き-

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毛玉とのハプニングを終え、授業を受けた次の休み時間は昼休みだった。

いつもの様に4人で食堂で飯を食いながら話題になったのは、当然毛玉のことだ。
居心地?
悪いに決まってるだろ。
ただ、小森が仕入れてきた話には思わず耳を疑った。

「実は柴にぶつかった後にあの忌々しい転校生は更衣室に向かったらしい。堂々と覗きをしていたってさ」

他のクラスの親衛隊からの情報らしく、まだ着替え終えていなかった生徒や、次の授業が体育の生徒の背中を無理矢理に見て回ったようだ。白けた顔で、ラインの通知が止まらないと言って携帯を見せつける様に振って見せた。
それぞれ同情の反応をみせ、俺も同調したが内心冷や汗が止まらなかった。
惶から聞いた時から随分経ってる。
お前諦めたんじゃねえのかよ。
ただ、"黒髪"つってたから、まだなんとか…?
見られたあの時は光源側にいたから黒髪って思ったのかもな。

でもタイミングが少し違うかったら見つかっていたかもしれないと想像してゾッとする。
寒気の正体はこれだったか…!!

話が移り、生徒会が最近きちんと機能しており会長の格好良さを語る小森の話を適当に相槌を打ちながら帰りにコンシーラーなるものを買いに行くことを誓った。

「聞いてないだろ貴様」
「ん?うん。…あ、いや聞いてる聞いてるかっこいいよな!!お願いします拳をしまってください」


なんとか拳から逃れて現在、放課後。
現在地、校内のドラッグストア。
いつもの様にそれぞれの活動に勤しむのに別れ(遠坂は図書館に行くらしい。)たから俺1人だ。
絆創膏やガーゼの棚の通り過ぎてふと考えたのは少し前の事件のことだった。

体育祭から今日で2週間程経っていた。

振替休日だった次の日、惶から加賀屋先輩もといストーカーの話を尋問されたことは記憶に新しい。
最後には憐れまれて「証拠集めとけよ」と言われた。
残念ながら盗聴器他を見つけられたことが無いから泣き寝入りになりそうだ。

加賀屋先輩は頭に怪我を負ったあの一件で少しは奇行もマシになるかと思ったがそんなことはなかった。
相変わらず一方的に10数件の通知が飛んでくる。
既読無視してるが。

塩島委員長からも特にコンタクトは無く、心配していた南部さんからも特に何も無かった。
ゲームの浮上で生存だけは確認してる。

あとは…と、あった。

異様に充実している化粧品のコーナーの一角で立ち止まる。
ネットで検索して適当に見当をつけた品を手に取る。
塗りやすそうなキャップの着いたペンタイプ。
知らなかったら側に並んでいるネイルか口紅と間違えそうだと思った。
通りからこっちに向かってくる親衛隊らしき小柄な男子が見え、気まずさを覚えてそそくさとその場から移動する。

そのままレジに向かおうとしたが、通りすがりに赤文字で安さを強調しているインスタント麺が目に入り、自然と手にとる。

レジで合計の値段を読み上げられて無駄遣いしてしまったことに気付いて少し落ち込んだ。




「(お菓子買わなかっただけマシ、な、はず。)」
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