期末試験 前章-種蒔き-
寒気
なんかゾクっとした。
体操着のため、出ている両腕をさすっていると隣に立っていた小森が距離を空けてきた。
顔を見ると眉を顰めている。
あえて一歩近付いてみると、その分遠ざかった。
「……なんで」
「風邪?移すなよ」勿論上野くんにも。
疑問系で投げかけてきた割には断定してんじゃねえか。
据わった目で小森をジッと見ながらあることを思い付いた。
もう一度さっきより速い動きで小森の側に寄ると、予想外の行動だったのか小森は元の距離より大きく離れた。
「………。」
「…………。」
無言で目を合わせ、狭い範囲のプチ鬼ごっこが始まった。
現在体育館で体育の授業中。
バスケの試合で待ち時間が暇だった。
同じく待機中だった岩田をガードにされてプチ鬼ごっこは終わりになった。
当然、絶賛活躍中だった上野の活躍を見逃すことになったことで小森には蹴飛ばされた。
「さっき楽しそうだったけど何してたの?」
「ふんっ。ストーカーされてた」
「違う違う、追っかけっこだって」
語弊。
今だに痛むももをさすりながら手を振って否定した。
授業が終わり、廊下を並んで歩いていると遠坂が思い出したように聞いてきたことにそれぞれ答えた。
「いーなー」
どっちが??
つまらなさそうに見下げてくる上野に呆れる。
「いいよ!上野くんが言うなら追いかけっこしよう!」
追っかけっこって認識してんじゃねえかお前。
見上げていた表情をそのまま顔を下に向けた。
あと上野いたら追っかけっこ終わんねえだろ。
大小が並んで、次の休み時間する?等と追いかけっこするつもりの2人の前に出て廊下の角を曲がろうとした時。
前から人影が勢いよく飛び出してきた。
「え」
「うわっ!!」
胸部に強い衝撃を受け、そのまま横に吹き飛んだ。
今日は散々だ。
節々の痛みを感じてそう思った。
膝を曲げたまま、床に打ちつけた腰に手を当てて原因に目を向けた。
まず視界に飛び込んできたのは、黒い毛玉。
げ。
そのまま声を出さなかった俺を褒めて欲しい。
「いてぇ〜〜!ちゃんと前見ろよな!」
同じく床に転がって手をついたままの毛玉が壊れた音量のまま抗議してきた。
見てたわ。
流星のような速さで飛び出して来たのを避けれたらそれはもう表彰されていい。
ただ、そのまま伝えるにはこいつの大声は人目を引く。
ここは早く立ち去ってもらうために穏便に謝っておくか。
「悪か「前見てないのはそっちでしょ。そもそも廊下を走ってたあんたが悪い。規則を破ってるし過失割合なら100:0になるから」…。」
「なっ、わ、わけわかんねえこと言ってんじゃねーよ!!急いでたんだからしょうがねーだろ!?」
「ハッ。そんな言い訳が通るなら規則や法律なんて存在する意味が無くなるね。生まれは森かジャングルか?」
「はー?!!」
………。
頭を抱えたくなった。
廊下に響く大声に野次馬がちらほら集まって来たのが見える。
見下すように顔を斜めに傾け、腕を組む小森と、それに立ち向かうように弾けるような動きで立ち上がり、両手を握りしめる毛玉の応酬は平行線だ。
これの間に割って入るような度胸は俺には無いぜ。
遠い目で静かに去れば気付かれないかなー…と座りながら考えていると、自然な足取りで目の前にズボンがカットインしてきた。
手を差し出して来た腕を伝って目線を上げると遠坂だった。
いつも通り、口元には笑みが。
肩越しの向こう側に飛び出した頭は上野で、小人の小競り合いと俺とを困った顔で行ったり来たりさせていた。
目の前の手を取って立ち上がると、遠坂は小人達の方に振り返った。
「ところで、急いでたらしいけど大丈夫なの?」
「あ!!」
完全に忘れていたらしい。
焦ったような声をあげて「お、お前のせいだからな!」と、5メートル程まで駆け出し、止まった。
急ブレーキ。
走ってます、と言わんばかりに腕を曲げたままの状態で首だけをこっちに向けた口元はへの字。
捨て台詞でも言う気か?
全員無言で見ていると、口をもぞもぞと動かした。
「……短い黒髪で背中にアザある人知ってる…ですか」
心臓飛び出たかと思った。
懐疑的な表情や不思議そうな表情と見合わせた際に、動揺を表に出さないよう、あえて困惑したように眉をしかめた。
その場を代表するように小森が「知らないけど」とぶっきらぼうに言った。
「分かった!見かけたら教えてくれ!じゃあな!」
毛玉は疑うということを知らないらしい。
そこに大変救われたが。
小森の返答を受けてすぐに、今度は振り返ることなく風を切って嵐のように毛玉は走り去って行った。
「なんで教えてもらえると思ってんの」
嵐に荒らされた後の様に静寂で時が止まったこの場で小森の呆れた様な呟きは大きく聞こえた。
全くな。
「う〜〜イライラしてきた」
「まあまあ」
「柴大丈夫??」
「無理。帰って良い?」
なんかゾクっとした。
体操着のため、出ている両腕をさすっていると隣に立っていた小森が距離を空けてきた。
顔を見ると眉を顰めている。
あえて一歩近付いてみると、その分遠ざかった。
「……なんで」
「風邪?移すなよ」勿論上野くんにも。
疑問系で投げかけてきた割には断定してんじゃねえか。
据わった目で小森をジッと見ながらあることを思い付いた。
もう一度さっきより速い動きで小森の側に寄ると、予想外の行動だったのか小森は元の距離より大きく離れた。
「………。」
「…………。」
無言で目を合わせ、狭い範囲のプチ鬼ごっこが始まった。
現在体育館で体育の授業中。
バスケの試合で待ち時間が暇だった。
同じく待機中だった岩田をガードにされてプチ鬼ごっこは終わりになった。
当然、絶賛活躍中だった上野の活躍を見逃すことになったことで小森には蹴飛ばされた。
「さっき楽しそうだったけど何してたの?」
「ふんっ。ストーカーされてた」
「違う違う、追っかけっこだって」
語弊。
今だに痛むももをさすりながら手を振って否定した。
授業が終わり、廊下を並んで歩いていると遠坂が思い出したように聞いてきたことにそれぞれ答えた。
「いーなー」
どっちが??
つまらなさそうに見下げてくる上野に呆れる。
「いいよ!上野くんが言うなら追いかけっこしよう!」
追っかけっこって認識してんじゃねえかお前。
見上げていた表情をそのまま顔を下に向けた。
あと上野いたら追っかけっこ終わんねえだろ。
大小が並んで、次の休み時間する?等と追いかけっこするつもりの2人の前に出て廊下の角を曲がろうとした時。
前から人影が勢いよく飛び出してきた。
「え」
「うわっ!!」
胸部に強い衝撃を受け、そのまま横に吹き飛んだ。
今日は散々だ。
節々の痛みを感じてそう思った。
膝を曲げたまま、床に打ちつけた腰に手を当てて原因に目を向けた。
まず視界に飛び込んできたのは、黒い毛玉。
げ。
そのまま声を出さなかった俺を褒めて欲しい。
「いてぇ〜〜!ちゃんと前見ろよな!」
同じく床に転がって手をついたままの毛玉が壊れた音量のまま抗議してきた。
見てたわ。
流星のような速さで飛び出して来たのを避けれたらそれはもう表彰されていい。
ただ、そのまま伝えるにはこいつの大声は人目を引く。
ここは早く立ち去ってもらうために穏便に謝っておくか。
「悪か「前見てないのはそっちでしょ。そもそも廊下を走ってたあんたが悪い。規則を破ってるし過失割合なら100:0になるから」…。」
「なっ、わ、わけわかんねえこと言ってんじゃねーよ!!急いでたんだからしょうがねーだろ!?」
「ハッ。そんな言い訳が通るなら規則や法律なんて存在する意味が無くなるね。生まれは森かジャングルか?」
「はー?!!」
………。
頭を抱えたくなった。
廊下に響く大声に野次馬がちらほら集まって来たのが見える。
見下すように顔を斜めに傾け、腕を組む小森と、それに立ち向かうように弾けるような動きで立ち上がり、両手を握りしめる毛玉の応酬は平行線だ。
これの間に割って入るような度胸は俺には無いぜ。
遠い目で静かに去れば気付かれないかなー…と座りながら考えていると、自然な足取りで目の前にズボンがカットインしてきた。
手を差し出して来た腕を伝って目線を上げると遠坂だった。
いつも通り、口元には笑みが。
肩越しの向こう側に飛び出した頭は上野で、小人の小競り合いと俺とを困った顔で行ったり来たりさせていた。
目の前の手を取って立ち上がると、遠坂は小人達の方に振り返った。
「ところで、急いでたらしいけど大丈夫なの?」
「あ!!」
完全に忘れていたらしい。
焦ったような声をあげて「お、お前のせいだからな!」と、5メートル程まで駆け出し、止まった。
急ブレーキ。
走ってます、と言わんばかりに腕を曲げたままの状態で首だけをこっちに向けた口元はへの字。
捨て台詞でも言う気か?
全員無言で見ていると、口をもぞもぞと動かした。
「……短い黒髪で背中にアザある人知ってる…ですか」
心臓飛び出たかと思った。
懐疑的な表情や不思議そうな表情と見合わせた際に、動揺を表に出さないよう、あえて困惑したように眉をしかめた。
その場を代表するように小森が「知らないけど」とぶっきらぼうに言った。
「分かった!見かけたら教えてくれ!じゃあな!」
毛玉は疑うということを知らないらしい。
そこに大変救われたが。
小森の返答を受けてすぐに、今度は振り返ることなく風を切って嵐のように毛玉は走り去って行った。
「なんで教えてもらえると思ってんの」
嵐に荒らされた後の様に静寂で時が止まったこの場で小森の呆れた様な呟きは大きく聞こえた。
全くな。
「う〜〜イライラしてきた」
「まあまあ」
「柴大丈夫??」
「無理。帰って良い?」