期末試験 前章-種蒔き-

毛玉と宗in生徒会室



「なーヒロ」
「ど、どうしたの?神庭君」

生徒会室のソファーに横になりながらお菓子を食べていた神庭は、生徒会の仕事をしていた宗にふと思いついたように唐突に話しかけた。
ちなみに現在は授業中だ。
戸惑いながらも人の良い笑みを浮かべる宗へ、身を起こして不満気に口を尖らせて咎めるように呟いた。

「だから慧って呼べよ!友達なのに!」

呟くにしては人より大きかったが。
いつものやり取りで、いつもはこの後言い直すように強引にレッスンを行う神庭だったが、今日はどうやらいつもと違うらしい。
宗を上目遣いで睨むように見ていた(あくまで、ビン底眼鏡で目は分からないからそう予測した。)目をすぐに逸らし、お菓子のゴミが乗った机の上に顔を向けた。
生徒会の他のメンバーがそれぞれの用事で留守にしていることもあったが、彼にしては不気味な程静かであることに宗は不思議に思った。

「ヒロはさ、……。」

一体どうしたのか。
言葉を選ぶように区切る神庭に宗は驚きを隠せない。
何を言うのか。
少しの好奇心が宗の側に寄り添い、仕事をしていた手を止めて神庭の少女のように小さく、薄ピンク色の口元を注視することにした。

「……ヒロは、運命の人っていると思う?」
「………。」

宙に視線を彷徨わせて聞こえた言葉を反復する。

運命の人。
運命。

「…運命の人?」
「うん。運命の人」

斜め上の疑問を真剣な声色で投げかけられてしまった。
聞く人によっては噴き出すであろう、ピンポイントであれば床に転がって暫く呼吸困難となるであろう、その言葉に宗は考え込む。
真面目な宗は記憶の中で運命の辞書を捲った。

人間の意思を超越して人に幸、不幸を与える力。
また、その力によってめぐってくる幸、不幸のめぐりあわせ。
運。

「……いる、と思うよ」
考えたことも無かったが、宗は希望的観測も込めてそう答えた。
何よりも、人がいい宗は言葉を選ぶタイプだった。
幸い、宗の狙い通り神庭にとってその答えは望んでいたものらしい。
素早い動きでソファーに膝立ちになると、パッと部屋が明るくなったと錯覚するくらいに満面の笑みを浮かべた。

「だよな!だよなっ!!」
口元を緩ませながら、ヒロが言うなら絶対だ、あいつら馬鹿にしやがって、等と得意気に鼻息を荒くした神庭は勢いそのままに「ありがとな!やっぱりまた探しに行ってくる!」と、生徒会室から音を立てて出て行った。
突然の行動も騒がしいのもいつものことだったが、これだけ起伏が激しいのは初めてだった。
扉が閉まりしばらくして、宗は呆然と机の上に残ったままのゴミを見ながら力無く声を出した。

「い、いってらっしゃい…?」




「ぜっったいあきらめねー!!」
「あ、お菓子忘れてる…。いいのかな…。」
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