土器土器体育祭

焼肉!



教室に戻り、そわそわと先生が来るのを待つ空気が可笑しくてひっそりと笑う。

帰る準備を終わらせて立ったり座ったりと落ち着きのない陽キャを弄るクラスメイト。

そうして、ようやく待ちに待った担任が紙を片手に教室に入って来た。
澄ました顔でスタスタと教卓に立つ。
話し声は自然と止み、全員が静かにじっと先生の方を見ていた。

顔をあげ、期待の目を一身に受けた先生。
「………。」
「「「「…………。」」」」
顔を下に向けた。
「…えー、それじゃあHRはじめまーす」
「「「「先生〜!!!」」」」

怒気を込めて声を合わせるクラスメイトに、ついに先生が教卓に手を付き、俯いて肩を震わせていた。

「わかってるって、焼肉な、焼肉」

顔をしかめて笑う先生に、借りてきた猫のように大人しかったクラスメイトが騒ぎだしていつもの空気になる。
つくづく愉快なクラスだ。

その後、まずは連絡事項読ませてくれ、と明日が振替休日になること、それに伴う注意の話をしてプリントを持った手を教卓に置いた。

「…で、だ。」

区切ってクラスを見回す。

「まずは、白組優勝おめでとさん」
「「「ありがとうございまーす!!」」」
「お前らは勿論、クラスを仕切ってくれた委員長の三谷。熱血指導してた保坂。それからチアボーイズの岸、泉、谷。よく頑張ったな」

名前を呼ばれた奴らの瞳が潤んでると茶化すクラスメイトを微笑ましく先生が見ていた。

「さーて、そんな頑張ったお前らにちゃんとご褒美がありまーす」

そう言って、持っていた紙のうちの一枚を人差し指と親指で見せつけるように持ってヒラリとかざした。
じっと皆が注目。
軽く見た感じ、名前がずらーっと並んでいた。クラスメイトが首を傾げているのを見て先生が口を開く。

「これはな〜、クラス全員分の外出届だ」
お?
「日付は今日」
「「「お!!!?」」」
「んで、近くの街の焼肉店の予約済」
「「「お〜〜〜!!!!」」」

段々腰が椅子から浮き始め、ついに陽キャ達が立ち上がって飛び跳ねるのを見て思わず吹き出す。
宥めるように紙を上下にペラペラと揺らして笑う先生。

「ちなみに予約時間は18時からなー。全員分の予約は取ってるが自由参加だ。肉に飢えてるヤツらは17時30分には街の駅前に集合な」
先生の財布荒らすぞー!と叫ぶ相撲部。
お前らは洒落になんねえ。

以上で話は終わったらしく、相撲部の言葉に渋い顔をしていた先生が握った拳の甲で黒板を軽くノックして肉にはしゃぐクラスメイトの注目を集める。

「HRはこれで終わり。…今日は誰も怪我無く終わって担任の俺は安心シマシタ」

戯けるように言う先生を口元を緩めて見ていたが、真っ直ぐに向けられる視線と目が合って俺に言われた気がした。

どきっとして浮かべていた笑みを崩す俺からすぐに目を逸らすと、先生はもう一度黒板をノックして「じゃー解散、来る奴は遅刻するなよ〜」と言って教室から出ていった。



「「「「やっきにく!やっきにく!」」」」
「…焼肉なー…。」
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