新入生歓迎会するんだってよ

3


皆と別れて寮に帰ると、玄関に大きな靴が。

もう帰ってきてるのか。


って、思った、のに!坊ちゃん校のヤンキーの基準はアテになんねえな、なんて!思ったのに!


自室で着替えてからリビングに戻るとそこには、ソファーの背にもたれ掛かりながらDSで何かのゲームをしているヤンキー様が。上下スウェット。


あの野郎。
あれは絶対今日サボったぞアイツ。
最早寮から出てすらないだろ。


「おかえり……何してんだ、そこで。」
お前だよお前。


リビングのドアを開けたまま恨みがましく見る俺に気付き、惶が声を掛けてきた。くっっそ。不審げな目で見んじゃねえ!サボりやがって!


とは言う気になれず、ってか言えねえから、「何も無いっす…」とだけ言って静かに後ろ手で扉を閉めた。


早速、冷蔵庫の整理をしにキッチンに。
明日が生ゴミの日だしタイミング良くて万歳。寮では、決まった曜日にゴミを廊下に出しておけば業者が回収してってくれるようになっている。


いくら坊ちゃん達の学校とはいえ、曜日をきっちり決めている所に業者の意地を感じるな。


時間は然程掛からなかった。
一通り纏め、大きいゴミ袋に投げ入れ一先ず完了。袋は夕食と朝食後のゴミもあるだろうから軽く縛るだけに。


にしても、そこまで捨てるものがなくて良かった。きっと財布も喜んでる。


冷蔵庫内の整理を終えて俺は、未だに真剣にDSと向き合う惶を横目にいつもの体制に。これから取り繕う生活も嫌なので今から慣れてもらいますとも。


テレビの前のふわふわふさふさなカーペットを陣取り、クッションを枕に寝転がりながらスマホで漫画を読む。


これがいつもの体制。もしくはDVDを見る。たまに片手にお菓子。

堕落してる俺をとくと見るがいい!
いややっぱ見ないで。


暫くしてから反応が気になり、チラッと惶を見るとマジでなんの反応もなかった。
ひたすらDS。


何なんだ、一体何のソフトがお前をそこまで熱中させているんだ。


気になったけど、漫画の続きも気になるからこの事を考えるのは、保留。



お互いダラダラとしていたらあっという間にもう晩飯の時間になっていた。


惶に声を掛け、昨日の残りのマーボーを温め直して晩飯に。
声を掛けた時に焦った声で惶が言った、あとちょっと待て、が歳相当、いや、それより幼く見えてくそわろた。
あとちょっと、ってやつ痛い程気持ち分かる。セーブまで!セーブまであとちょっとだから!つって、わはは。

でかいフライパンに残った麻婆豆腐を温め直しながら、焦る惶を笑いながら暫く見ていた。


2人で手を合わせ、いただきます。最後に残った結構な量をすくってくれた惶の山盛りな皿を見ながら食べていると、おい、と声を掛けてきた。

何?

口にまだご飯が残ってたから目だけで惶の顔を見て話を促す。


「朝。言ったろ、朝飯の事。」
ああー。そういや、晩飯の時話すとかなんとか。
水を飲んでから数回頷いて返事をした。

「そういや、言ってた。なんだっけ、朝起きんの?目覚まし時計ないんじゃなかったっけ?」
「スマホ」
あったわ目覚まし。
馬鹿かよ俺。

「で、朝飯は何時だ?教えろ、起きるから」


そうは、言われても……今まで俺だけで特に時間とか決めてないから困る。

少し考えてから、寮を出る30分前の時間を伝えた。このくらいなら、まだ食べる時間。それを二つ返事で惶は了承した。
それで良いのか…。


先に食べ終えた俺はこの前のように洗い物を頼み、風呂に入った時にどうでもいいことに気付いてしまった。


俺ら、全然なんも話してない。


確かに堕落したところを始めに分かっていてもらおうとダラダラした。
けど、あれが"同室者との長い時間を過ごした最初"って……流石に、ヤバくないか…?いやヤバい。思わず反語。アァー……でも同室者ってこんなもん?もーー距離感わっかんねーー。コミュ障陰キャにはハードルが高いぜ交流は……。


溜息をそのままに湯船に沈んだ。


決めた。

気を使わず楽だったし。
向こうも気にして無さげだし。
居心地良かったからもう何か言われるまで、というかリミット短いし別に嫌われてもいいし。現状維持で!
いく!
よし!


決意をしてザバーっと風呂から上がった。





「アッ悪い!鍋!!」
「別に。あと髪乾かせよ」
「っス、おかあ……お惶さん」
「………………。」
「…………。」
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