土器土器体育祭

保健室



晩飯。
飯。

…焼肉?

来てはすぐに去った嵐のような担任の言葉を脳内で反復させ、導き出したのはクラスを一致団結させた単語。

まだ競技あんのに勝利宣言しに来ただけかよあいつ。

着替え終え、髪をタオルで拭いていると、そういえば先生が変わったことを言っていたことを思い出した。

"お前らの領分"

視線からして、毛玉と南部さんのことで間違いない。
ってことは、制裁関係のことか?
別に先生が関与しても、というか、むしろ先生は関与すべきだろ。

疑問符を浮かべていると、隣に居た加賀屋が塩島委員長の方を見ていたことに気が付いた。

「ねぇ、塩島くん」
「なんですか」
「やっぱりセンセーはこういうことに手出しできないんだネ」
「………ええ。いくらここが学校とはいえ、家柄や権力には遠く及びませんから」

素っ気なく答えた塩島委員長から目を離し、俺の方を見た加賀屋先輩は肩をすくめてみせた。

エスパーかよ。

ただ、そういう事情だったか。
確かに、校内で先生が絶対である規則をつくったところで権力をもってすれば、そんな規則紙切れ同然だ。

だから権力には権力、か。

中間試験の後の時や、さっき見た担任の歯痒い表情を思った。

ここの先生はツラいな。

塩島委員長が保健室の片付け始めた時、放送がかかり自然と全員がスピーカーを見上げた。

『午前の部が終わりました!皆さんお疲れ様です!昼食でまた存分に力を備えて午後の部も頑張っていきましょう。弁当の販売は今日も沢山あるので、是非ご利用ください!それでは、13時になったらクラスのテントまで集合をお願いします!』

もうそんな時間になってたのか。
棚を閉め、片付け終えたらしい塩島委員長が携帯を見た。

「そろそろ保険医も帰ってくる頃ですね。神庭さんと南部さんはあの方に任せて私は風紀室に戻ります。もう彼は今日のところ動くことはないでしょうし、皆さんは午後の部どうされるかはお任せします」
「なんのこと言ってるのかは寮で聞かせてもらうけど、僕はクラスメイトを応援しに校庭に戻るよ」
携帯を握ったまま固まる塩島委員長から目を離した遠坂が俺の方に視線を向ける。

「俺は…、まあ特になんともないし、俺も遠坂と一緒に行くわ」

ほとんど乾いた短い髪を触れる。
これなら違和感持たれねえだろ。
最近心配性な2人を思い浮かべた。

「え〜〜うーたんも行くの〜?サボろーよ〜」
近くの椅子に腰を下ろして上半身をゆらゆら揺らす駄目な先輩を冷たく見下ろした。

そもそも昼どうすんだよ。

「遠坂、上野と小森んとこ行こうぜ。……加賀屋先輩も昼ちゃんと食ってくださいよ」
「うーたん…!!」

歓喜の声をあげる奴を無視して遠坂に目配せすると扉の方に向かった。
ジャージを羽織って隣に並んできた遠坂。

「点数見てないけど、先生の口振りから焼肉、期待できそうだね」
「はは、どうだか」
でも、買い食いはやめておこうと思った。

塩島委員長に会釈をしてから遠坂と廊下に出る。
賑やかな声が聞こえてくる方へ、遠坂と話しながらゆっくり歩みを進めた。



「携帯無事だった?」
「なんとか。気付いた時すげえ焦ったけど」
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