土器土器体育祭

もう1人


最悪な光景に時間が止まったように感じる。

靴裏が見えた。
動かない。
ここは3階だ。

なんで、あんなところに。

額から流れる汗が時間の経過を知らせた。
考えるより前にあの場から人を救助しねえと。
弾けるように体を動かした。

教室の外側の細いコンクリートを通り、垂れ幕を吊っている場所に着いた。
動かない輪の中の人物に声を掛けようとしたが、吊ってある紐の様子が目に入り息を呑んだ。

2本ある両方の紐の支えがギリギリとなっていた。
真っ直ぐに切れ目が入ったそれは、人為的なものだと一目で分かった。
また、これを行なった人物は、フードを被って走り去った人物であることもすぐに察しがついた。

もし、輪の中の人物が目が覚めてパニックになり動き出したら、と考え青ざめる。

早く引き上げねえと。

ギリギリとなった紐をしっかりと掴み力を入れて引いた。
が、半分ほどまで上がり、停止した。
脱力した人1人を紐一本で引き上げるには俺の力だけでは足りない。

ゆっくりと力を抜いていく。
再び降りた紐に、余計な負担がかかっていないことを確認して人員を呼ぶために携帯を操作しようとポケットに手を入れた時、すぐ近くから声が聞こえた。

「柴君…?何してるの?」

声の方角に顔を向ける。
廊下の窓から顔を出していたのは、



「とお、さか」
「ん?」
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