土器土器体育祭

行動開始



「失礼します!」
扉の前で息を整え風紀室の扉を開けると、中に居たのは携帯を片手に、インカムに口を動かしている塩島委員長だけだった。
流石に他にも居るかと思って緊張していたから拍子抜けを食らう。

「お待ちしてました。突然お呼びだてしたなか早速で申し訳ございませんが、始めさせていただきます」
インカムから手を離し、そう言いながら部屋の中央に固められた机に向かう塩島委員長に近付いた。

「その前に、…聞こえますか?」
机に置いた携帯に向かって声を掛ける塩島委員長。

『聞こえるヨ!』
『ああ』
この声は、加賀屋先輩と、惶か。

「加賀屋さんは兎も角、お二人はどの程度の情報が入っているのか分からないので、まずは簡易的に現状の報告から入ります」
机に両手を着き、俺を見る塩島委員長に頷いた。

「まず、加賀屋さんから連絡が来ていたと思いますが、南部さん、神庭さんの行方が分からなくなりました。また、神庭さんに至っては風紀の腕章を付けて風紀を偽装した、3年Zクラスの生徒に連れられて校舎に入ったところから確認ができなくなっています。」
ってことは、Zクラスがこの計画に関わっているってことは確定か。

「それから、監視カメラの内の6つが落とされました」
6つも?
『ボクのとこで付けてるカメラは動いてるから、落とされたのは全部風紀のカメラだけだよ』
「そうですか…。
それと、場所を割り出したところ、いずれの場所も大きく離れていて、それぞれに委員を向かわせようとしていたのですが、」
そこまで言ったところで、扉が音を立てて開き、揃ってそっちを見ると夏目副委員長が呼吸が荒げて立っていた。

「はぁっ、あ〜柴くんだ、はー…来てくれてありがとうね〜」
「翠。どうでしたか」
夏目副委員長が片手で鬱陶しそうに髪を払い、こちらに近付いてくる。

「間違いなかったよ、大問題だね」
「…しょうがないな」
言葉を交わす風紀に戸惑っていると、塩島委員長が口を開いた。

「…落ちたカメラのある場所に委員を向かわせようとしていたのですが、つい先程、SクラスにZクラスが暴行を加えた騒ぎが起きました。また、別の場所では赤威が暴れたことにより、先生にも危害が及んだことを翠が今確認してくれました。その為、捜索班も全てその2つの騒ぎに当てることになったので、現在南部さんと神庭さんの捜索部隊は私達のみとなります」
『ワァ…。みんな体育祭サボってるネ』
ほんそれ。

いや、言えた立場かよ。

『テメェが言うな』
俺の心の声は惶が代弁してくれた。

耳が痛いね〜と汗を拭いた夏目副委員長が笑いかけてくるのに頬を引き攣らせていると、塩島委員長が話を戻した。

「そういうことなので、落ちた6つのカメラにそれぞれ皆さんに向かっていただく形になります。ただ、相手が何人居るかなどは全く分かっていないので、もし現場に着いた際に対処できない人数が居た場合、風紀に連絡を入れてください。狼谷もですよ」
『分かってる』
「それと、皆さんへ委員を向かわせることと、他の騒ぎの連携の為に私が残ることになるので…」
「はい!待って、現場に着いて、状況次第で連絡すれば良いんだよね?それなら、委員長が残っててよ」
挙手する夏目副委員長に、塩島委員長と共に顔を向けた。
腕を組んで悩む塩島委員長に続けたのは加賀屋先輩だった。

『確かに塩島くんが出るよりは、夏目くんの方がボクも良いと思うナ』
「…分かりました。では任せますが、結果がどうあれ皆さんもカメラが落ちた現場に着いたらひとまず連絡をするようにお願いします」

それぞれ承諾の返事をするのを聞き、塩島委員長が紙を広げた。

「皆さんに向かっていただきたい6つの場所はここです。加賀屋さんと狼谷は先程送った画像を見てください」
6箇所か。

見ると、3階から5階、旧校舎や体育館側など、ポイントからポイントまで大体どこも離れた所に赤く丸が付いていた。
離れているってことは、それぞれ1人ずつ向かうことになるのか?そう思い、ここにいる人数を数える。
惶、夏目副委員長、それから俺。

…人数足りなくないか?

「あの、動ける人数って誰になるんですか?」
聞いた俺をチラッと見た塩島委員長が携帯の方を見た。
「写真部で動ける方はいらっしゃいますか?」
『ウ〜〜〜ン……ダメだネ。僕だけかな。だから、カメラに向かうのは、合計4人になるネ』
加賀屋先輩、大丈夫なのか??
逃げ足は速そうだが。

遭遇した場合を考え、加賀屋先輩が喧嘩とかできるイメージが全く湧かず流石に少し心配になる。

「分かりました、ありがとうございます。まぁあなたであれば大丈夫でしょうね」
ついさっき考えた事と正反対の事を言う塩島委員長にスペキャになった。
…実は百戦錬磨??

向かってもらう場所と人を決める、と俺を置いて話を進める塩島委員長に、紙を同じように覗き込んだ。

「腕の立つ狼谷と加賀屋さんには場所が近い2箇所を担当していただこうと思います」
『オッケー』
『ああ』
2人が返事してすぐ、夏目副委員長が指を差した。

「場所が近い二箇所って言ったら、新校舎4階と5階と、旧校舎3階と5階だね。狼谷くん足速いし、旧校舎の方は狼谷くんにお願いした方が良いんじゃない?」
塩島委員長の方を見て言った夏目副委員長に、塩島委員長が頷いた。

「そうですね。お2人はどうでしょうか」
『異論ねェ』
『…ボクもそれでいいヨ』

残りの2箇所は、体育館と、2棟目の4階。

「ありがとうございます。あとの2箇所ですが…」
見てくる塩島委員長に「俺はどこでも」と言うと、夏目副委員長が「じゃあ僕は4階まで頑張って走るから、柴くんは体育館に向かってくれる?」と微笑んで目を合わせて来た。
綺麗な顔をそのまま直視できず目を逸らし、それで大丈夫です、と言った。

行動がまとまったところで、塩島委員長が指揮を取った。

「それでは皆さんよろしくお願いします。くれぐれも無理はしないように。特に翠と柴さんは場所に着いたらすぐに連絡するように」
「はぁい」
「はい」
返事をして頷き、その場からそれぞれ解散した。

部屋を出てすぐ、ジャージの袖の小さな光を見てイヤホンの存在を思い出した。

ポケットから取り出し、耳につけたが、流石に音楽はもう聞こえなかった。



──『……ジジッ…。』
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