土器土器体育祭
3
トイレからテントに戻ると、学年別リレーがそろそろ終わりなのか、棒引きの招集が掛けられて席の前で悩む。
理由は、トイレから帰る途中に入った加賀屋先輩からの報告内容だ。
──『急ぎ報告ダヨ。南部くんに続いて神庭くんも居なくなった。詳しいことはまだ塩島くんに聞いてからになるから今はそれだけ』
『俺はどうすりゃいい』
惶の声が聞こえ、そういえば惶も通信機を渡されていたことを思い出した。
『まだ待機。どの程度の人数で動いてるのか分からないからネ。ただ、念の為に校舎の1階で待機してて欲しいナ』
『了解』
『現状詳細が把握できてないから、また塩島くんと連携次第また連絡するネ!うーたんもモチロン待機で!』
「…了解」──
俺は待機ってことになってるが、いつ状況が変化するか分からない今、イヤホンを外すのは憚れた。
「柴君?」
「柴、棒引き呼ばれてる」
耳に手を当てて迷っていると2人から声を掛けられ、慌ててイヤホンをポケットに入れて顔を上げた。
「そ、うだった、じゃあ行ってくる」
怪しまれる訳にもいかず、しょうがねえ、と諦めてテントから出ようとした時。
ポケットから振動が。
取り出して画面を確認し、すぐに耳に当てた。
「もしもし」
『柴さん。申し訳ございませんが、あなたの出番が来てしまいました。急ぎ風紀室までお願いします』
「…分かりました。すぐ行きます」
電話を切って振り返ると、訝しげな小森と目が合った。俺を見ていたらしい。
「どうしたの」
風紀委員長に…と言い掛けて止める。
あぶね。
「あーその、ちょっと先生から絶対今から来て確認してほしいことがあるって言われて…」
「は?今?絶対?」
「絶対」
「……どうしても?」
「どうしても」
……やっぱ無理あった?
けど、引くわけにいかない俺の目をジッと覗き込む小森。
まだテントにいる俺を不審に思ったのか、遠坂も近づいて来た。
「2人ともどうしたの?」
さっき吐いた嘘をもう一度繰り返そうと口を開いたが、それより早く小森が返した。
「下痢でヤバいから今すぐトイレに篭りたいってさ」
え。
「えっそうなの?大丈夫?」
遠坂が心配そうに声を掛けてくれたが、全く身に覚えのないことを突然言い出す小森に戸惑って小森の顔を見る。
遠坂から俺に視線を移した小森は眉を顰めてため息を吐くと、俺の腕を掴んで校舎の方に引っ張っられ、慌てて着いていく。
テントから出たところで遠くで遠坂から、ひどかったら薬買ってくるから言ってね〜、と聞こえた。
暫く無言で歩き、テントから距離が空いた所で手を離された。
「こ、小森?」
やっと振り返って顔を見せた小森は、意志がこもった視線で俺を射抜く。
「僕は嘘は嫌いだ。下手な嘘吐くくらいなら正直に言え」
お見通しらしい。
真っ直ぐな目に動揺する。
何も言わない俺に、目を閉じた小森が長く息を吐いて力を抜いたのが分かった。
「………。」
「まぁ、大方予想は付くよ。親衛隊も騒ついてるしね」
そうなのか。
いや、そりゃそうか。
あの目立つ神庭の姿が見えなくなったんだもんな。
「だから、あんたがやりたいなら行きなよ。役目があるんだろ」
小森…。
「はい。ほら、早く行け」
パンッと手を鳴らした後、片手を鋭く校舎を何度も指差して急かしてくる小森に慌てて足を前に出した。
「あ、ありがと!」
「さっきと、棒引きの代走で貸し2だから」
そこはまとめて1じゃないのか。
ちゃっかりしてんな。
背中に受けた言葉に苦笑して、そのまま風紀室に向かって走った。
「あ、小森君。柴君大丈夫そう?」
「無理そう。……昼まで帰ってこないかもね」
トイレからテントに戻ると、学年別リレーがそろそろ終わりなのか、棒引きの招集が掛けられて席の前で悩む。
理由は、トイレから帰る途中に入った加賀屋先輩からの報告内容だ。
──『急ぎ報告ダヨ。南部くんに続いて神庭くんも居なくなった。詳しいことはまだ塩島くんに聞いてからになるから今はそれだけ』
『俺はどうすりゃいい』
惶の声が聞こえ、そういえば惶も通信機を渡されていたことを思い出した。
『まだ待機。どの程度の人数で動いてるのか分からないからネ。ただ、念の為に校舎の1階で待機してて欲しいナ』
『了解』
『現状詳細が把握できてないから、また塩島くんと連携次第また連絡するネ!うーたんもモチロン待機で!』
「…了解」──
俺は待機ってことになってるが、いつ状況が変化するか分からない今、イヤホンを外すのは憚れた。
「柴君?」
「柴、棒引き呼ばれてる」
耳に手を当てて迷っていると2人から声を掛けられ、慌ててイヤホンをポケットに入れて顔を上げた。
「そ、うだった、じゃあ行ってくる」
怪しまれる訳にもいかず、しょうがねえ、と諦めてテントから出ようとした時。
ポケットから振動が。
取り出して画面を確認し、すぐに耳に当てた。
「もしもし」
『柴さん。申し訳ございませんが、あなたの出番が来てしまいました。急ぎ風紀室までお願いします』
「…分かりました。すぐ行きます」
電話を切って振り返ると、訝しげな小森と目が合った。俺を見ていたらしい。
「どうしたの」
風紀委員長に…と言い掛けて止める。
あぶね。
「あーその、ちょっと先生から絶対今から来て確認してほしいことがあるって言われて…」
「は?今?絶対?」
「絶対」
「……どうしても?」
「どうしても」
……やっぱ無理あった?
けど、引くわけにいかない俺の目をジッと覗き込む小森。
まだテントにいる俺を不審に思ったのか、遠坂も近づいて来た。
「2人ともどうしたの?」
さっき吐いた嘘をもう一度繰り返そうと口を開いたが、それより早く小森が返した。
「下痢でヤバいから今すぐトイレに篭りたいってさ」
え。
「えっそうなの?大丈夫?」
遠坂が心配そうに声を掛けてくれたが、全く身に覚えのないことを突然言い出す小森に戸惑って小森の顔を見る。
遠坂から俺に視線を移した小森は眉を顰めてため息を吐くと、俺の腕を掴んで校舎の方に引っ張っられ、慌てて着いていく。
テントから出たところで遠くで遠坂から、ひどかったら薬買ってくるから言ってね〜、と聞こえた。
暫く無言で歩き、テントから距離が空いた所で手を離された。
「こ、小森?」
やっと振り返って顔を見せた小森は、意志がこもった視線で俺を射抜く。
「僕は嘘は嫌いだ。下手な嘘吐くくらいなら正直に言え」
お見通しらしい。
真っ直ぐな目に動揺する。
何も言わない俺に、目を閉じた小森が長く息を吐いて力を抜いたのが分かった。
「………。」
「まぁ、大方予想は付くよ。親衛隊も騒ついてるしね」
そうなのか。
いや、そりゃそうか。
あの目立つ神庭の姿が見えなくなったんだもんな。
「だから、あんたがやりたいなら行きなよ。役目があるんだろ」
小森…。
「はい。ほら、早く行け」
パンッと手を鳴らした後、片手を鋭く校舎を何度も指差して急かしてくる小森に慌てて足を前に出した。
「あ、ありがと!」
「さっきと、棒引きの代走で貸し2だから」
そこはまとめて1じゃないのか。
ちゃっかりしてんな。
背中に受けた言葉に苦笑して、そのまま風紀室に向かって走った。
「あ、小森君。柴君大丈夫そう?」
「無理そう。……昼まで帰ってこないかもね」