土器土器体育祭

動き出す



うるせェ奴ら全員の意識を落とす呟きが拾われたのか、委員総出で止められたため、Zクラスの馬鹿共を順に沈めるだけに留めたところでやっと事態は収束した。
最初からこうすれば良かったのか。

後のことは委員に任せ、校舎に入り廊下を進んでいると携帯に着信が入った。
画面を見てすぐに応答を押して耳に当てた。

「もしもし、どうかされましたか?」
『……問題発生、ダヨ』
苦々しく聞こえるそれに足を早めた。

「どういうことでしょうか」
『とりあえず、ラインに送った写真見てくれる?』

耳から携帯を離してラインを確認する。
写真は3つ。どれも鉢巻を額に巻いた姿は今日撮ったと思われ、顔がアップされていた。

順に見ていく。
1枚目、2枚目は神庭を張らせていた委員だが…?と思ったところで、3枚目を確認して手が止まる。
再び耳に携帯を当てた。

「確認しました。1枚目2枚目は今の時間神庭さんを見ている委員ですね」
『3枚目は?』
「…どうして彼の写真が送られたのかは分かりませんが、

この生徒は"3年Zクラスの生徒"だと記憶しています」

俺が言った後、数秒沈黙が続いて眉を顰める。さっきからなんだ。

『…なるほど、ネ』
1人で納得する加賀屋に苛立ちを声に乗せた。
「いい加減、その問題とやらと写真の生徒について教えていただけませんか」
『オッケー簡潔に伝えるネ。ついさっき神庭くんも所在不明になった。それに伴って今監視カメラもいくつか通信不能になったヨ』
は?

「なんですって?」
『それと、所在不明になった際に、風紀の腕章を付けて神庭くんを連れて行ったのが3枚目の生徒』
「待て、ちょっと待ってください。…連れ去ったって、今は1枚目と2枚目の委員が神庭さんを見ているはずですがどうやって?」
やっぱりそうか、と呟くのに、加賀屋さん、と詰める。

『ゴメンゴメン、順に話すネ』
その言葉を皮切りに聞いた内容は耳を疑うものだった。

「何も聞いてねェぞ…。」
『ホントに?……例えば、夏目くんからも何も連絡来なかった?』

即答しようと口を開いて、止める。
翠から。
それには覚えがあった。

「…一度、連絡がありました」
『なんて?』
確か、と思い返す。

Zクラスと親衛隊の騒ぎを止めている真っ最中のことだ。翠からインカムで、別の場所でZクラスと一匹狼と呼ばれている赤威が騒ぎを起こしている、との連絡があり、他の生徒に危害が及ばない内は放置でお互い意見が一致した。

そのあと、「…現状最優先として、南部さんの捜索に人数を増員する、と連絡がありました」
『…そっかー、じゃあ、神庭くんから離れた1人はそれが理由だろうネ』
「でしょうね」

神庭からは外すなと指示を怠った自身に舌打ちしそうになるのを抑え、ようやく着いた風紀室に滑り込んだ。

委員長!と声を掛けられるのに手を挙げて返事をし、部屋を見渡す。
目的の人物は居た。
携帯を耳に当てたまま、目的のうちの1人に大股で近付いた。

『塩島くん?』

返事を返さず、驚いたまま俺を見上げる目的の委員に声を掛けた。

「君は神庭さんに付けていた筈ですが、どうしてここに?」
「委員長!それが、俺にも何がなんだかで…!」
困惑と焦りで涙目の彼から、彼と話していた、彼と同様に困惑した様子の隣の委員を見て説明するよう伝えた。

「ついさっきこいつが帰ってきて、俺もなんでか聞いたんですけど、『南部を発見したが、人数が必要だから急いで風紀室に戻れ』って他の委員が伝えに来たからって…。そんなわけ無いからなんでそんなことになってるのか…。委員長も知りませんよね…?」
やっぱりそうか…。

携帯を持つ手の反対で頭を掻き混ぜ、ため息を吐いた。
眼鏡の位置を直し、携帯に向かって伝える。

「聞きましたね?神庭さんから風紀が離れたのはそういうことの様です」
『聞こえたヨ!りょーかい』

視線を戻すと、眉を八の字にして半泣きの委員が俺の言葉を待っていた。
「…既に理解しているでしょうが、君に声を掛けた風紀はダミーです。南部さんは見つかっていません。…起こったことはしょうがないので切り替えていきましょうか」

意識して表情を和らげ伝えると、まだ落ち込んでいるようだが顔付きが変わった様に見えたのでひとまず彼は大丈夫だろう。
話している俺達を見守っていた、風紀室に居る委員を見渡して声を張り上げる。

「よく聞いてください。問題が発生しました。先程、南部さんに続いて神庭さんも所在不明となりました。」
風紀室にどよめきが広がるのを無視して続ける。
「朝伝えたように、想定していた計画が始まったとみて良いでしょう。そのため、現在南部さんの捜索に当たっている人数のうちの半分を神庭さんに。Zクラスが起こす騒ぎへの対応人数は最小限にします。Zクラスに対応できる委員についてはこのリストを参照してそれぞれ連携の程お願いします。
それでは、各自頼みますね」
「「「「はい!」」」」

リストを自身の机から取り出して中心に固めた机の上に置き、それぞれが動き出すのを目の端に捉えつつ、風紀室の奥の部屋へ向かった。

『かっくいい〜!じゃ、ボクの方も進捗があり次第また連絡するね!』
まだ聞いていたんですか。

そう返事を返す前にツーツーツーと、通話が切れた音が聞こえて一度立ち止まった。
こいつ………。

目がすわらせたが、次の目的の人物に向かうために思考を切り替え、監視カメラのモニターを置いている扉を開けた。

扉を開けてすぐ、モニターから受ける光によって深い影が落ちる背中が見えた。



「翠」
「聞こえてたよ〜」
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