土器土器体育祭

加賀屋side



カーテンを閉め切り、起動している複数台のパソコンの灯りだけが部屋を照らす一室。
部屋の中には5人が椅子に座っており、それぞれ目の前に1台のノートパソコンとモニターが2台ずつ並んでいた。他にも機材や配線が部屋を伝い、壁にはステンレス本棚があり、写真を保管したファイルがほとんどの空間を埋めている。普段は起動しているプリンターも、今日は用がないことから電源が付いていなかった。

うーたんと通信を切ってすぐ塩島くんと脳筋くんに連絡を済ませた。
脳筋くんとの通信を切った後、ボクの隣に座っている一葉くんが、にやにやとしていることに気付いた。

「…なによ」
「いーや?ムシャムシャしてるな〜って」
「アハハ!『まだ南部見つけてねェのかよ』とか言われたんだよきっと!」
「ウケる」
「ぶちょーも頑張ってるのにね〜よちよち」
「「「よちよち」」」

容赦なく追い討ちをかけてくるクラブズの言葉に眉間にシワが入った。

「言っとくケド、キミ達も見つけれてない中の一員だからネ???」
他人事みたいに思っちゃってマァ。

話しながらも全員作業から視線を外していない。
カタカタとキーボードを叩いてカメラを切り替えていくも、依然として異常や南部くんは見当たらなかった。
風紀のカメラだけではなく、他にも複数台設置しているがそのどれにも映っていないことから、他に人気が無い場所がどこか脳内に地図を広げる。

1階はほとんど網羅してるはず。
南部くんが最後に映っていたのは、トイレに向かうために校舎に入ったところを風紀のカメラから確認済だった。
そこから映らなくなったってコトは…と次に2階の地図を脳内で広げていると、焦ったような声が暗い部屋に響いた。

神庭くんだけを監視させていた二葉くんだ。

「ぶちょー!大変!スズメが!」
「ナニ」

スズメはボクら裏写真部がターゲットを呼ぶ際の偽名だ。スズメは神庭だった。
自身のパソコンの前からすぐに移動して二葉の後ろから画面を覗き込みながら指示する。

「異変に感じたとこまで戻って。それと皆は南部くんを探すの続けてネ」

最も、最後の指示はボクが言うまでもなかったケド。
二葉くんの声に反応して振り返ったが、全員動くこと無くすぐに画面に向き直っていた。
助かっちゃう!
流石ボクの部員なだけはあるネ!
そんなことをことを考えているうちに戻った映像の再生が始まった。

校庭にカメラを設置する場所が無かったため、見える神庭くんは校舎から離れた所に居た部分をズームしたものだ。
そのため画質は荒いが、ある程度人の判別はつくため問題は無い。

始まりは、神庭に着いていた風紀の腕章をつけた2人の内の1人がもう1人に近付き、何か話した後にその生徒が画面からフェードアウトしたところだった。タイミングからみて、恐らく南部くん関連かZクラスと親衛隊の騒ぎで呼ばれたと推察。
後で塩島くんに確認することを頭に入れる。

その後すぐに他の風紀の腕章を付けた生徒が近付いて来た。神庭くんを見ていた風紀の生徒に話しかけると、慌てたようにすぐに走り出して彼も画面からフェードアウト。一連のことは神庭くんは気付いておらず、後から画面に入って来た風紀の生徒が神庭くんに話しかけに行ったことで気付いたようだ。
風紀が先導するように神庭くんを連れてテントから離れたところで二葉くんが画面を切り替えた。

今度は校舎入り口のカメラの映像。先程より鮮明に見える映像からは通り過ぎる生徒の顔が良く見えた。
風紀の生徒と神庭くんが一緒に新校舎に入った所で映像を止めた二葉くん。

「これ以降スズメが映ったカメラは今の所ないよ」
思うことはあったが、念のために二葉くんに確認する。

「確かに、この映像以降神庭くんが居なくなったことは異変ではあるケド、風紀が神庭くんを連れて行ったとも考えられるんじゃない?何をもって二葉くんは異変だと?」

画面を現在の映像に戻し、座ったまま二葉くんがボクを見上げた。

「変だと思ってぶちょーを呼んだのは、スズメが居なくなったことと、スズメを連れて行った風紀に見覚えが無かったから。あの人、今まで風紀で見たことないもん」
断言する二葉くんの目は揺るがなかった。

ウーン……やっぱりそうか。
それに、二葉くんが言うなら間違いないネ。
クラブズの中でも1番記憶力が良い二葉くんに任せて正解だった。

「見せてくれた映像の、風紀の腕章を付けた3人の生徒の写真をスクショしてボクに送って」
「アイアイサ!」

指示を出した後、返事をした二葉くんの肩を叩く。

「それと、よく見ててくれたネ。お手柄だヨ」
ボクの言葉に素直に、エヘヘ、とはにかむ二葉くんに笑いかけ、引き続き頼むヨ、と再び肩を叩き、自身の席に戻った。

スクショが送られるまでの間に、携帯を開きながら2人に内線で神庭くんも所在不明になったことを伝える。
狼谷くんから『俺はどうすりゃ良い』と来た。
「まだ待機。どの程度の人数で動いてるのか分からないからネ」

無闇矢鱈に動き回り、もし狼谷くんの手に負えない人数と遭遇した場合、このメンバーにおいて狼谷くんが欠けるのは相当な痛手だ。

「ただ、念の為に新校舎の1階で待機してて欲しいナ」
『了解』
「現状詳細が把握できてないから、また塩島くんと連携次第また連絡するネ!うーたんもモチロン待機で!」

通信を切ったと同時に二葉くんがスクショを送ったと伝えてくれたので確認。
塩島くんに画像を送り、発信する。

直後、カメラを見ていた4人が同時に声を上げた。

「「「「ぶちょー!複数のカメラの映像が落とされた!」」」」



『もしもし、どうかされましたか?』
「……問題発生、ダヨ」
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