新入生歓迎会するんだってよ

1


それから俺は何事もなく4限まで無事乗り切った。

あくまで俺は、な。
2限の体育。Aクラスに衝撃が走った事件が起きた。

今日はサッカーで、始めにリフティングテストの練習をしてから遊びの試合。去年から一緒の面倒臭がりな先生らしいいつも通りのメニュー。

そしていつもは上野が視線の的、だった。

今までは。

でも今日はこれがびっくり。そう、遠坂が物凄く目立っていた。それも悪目立ちとかじゃなく普通に凄くて。
ボールは俺の使い魔っハートってぐらい自在に操っていた。でも遠坂だって別に派手にリフティングやらゴールを決めたりなんてしたわけではない。

リフティング練習では、遠坂、上野と俺と何故か小森とのメンバーで一緒に隅でしていると「サッカーボール触るの久々だなぁ〜…」と言って自然な動作でボールを脚で小さく弾ませはじめた。それも俺達を見ながらずっと。俺?聞くな。

これだけで俺の顔のパーツが真ん中に寄ったのに、試合ではもっとヤバかった。顔のパーツが中央に圧縮された。
くそ……俺だってバレーと野球なら……。



試合では、遊びとは言えボンボンでプライドの高い負けず嫌いが多い為7割がガチ。体育の時だけはチワワとはいえ男なんだよなあと再確認する。や、オスか?

そしてチームジャンケンで俺は皆と別れ、木陰に座り遠坂の試合観戦。
基本動かないが、ボールが目の前に転がってくるのを見るとしょうがないとでも言うように渋々パス回しをしていく遠坂。それも的確に。ゴロだけじゃなく、インサイドキックでのパスも淡々とこなす為その時点で結構な注目を浴びていた。

1番目立ったのは、完璧なパス回しでサッカー部のスタメンの奴についにマークされた時だ。スタメンの奴にボールを取られると、態々取り返して他の人にパスをした。すぐ横に立っていた敵チームの柔道部所属の巨体の目がハートになる瞬間を見てしまった俺の気持ちを4文字以内で誰か例えて欲しい。


例に出すとすれば、最悪、だ。


その後なんで取り返しに行ったのか聞くと、「んー……ちょっとムカついたからつい…」だそうな。だが少し後悔しているらしい。続けてこんなに目立つと思わなかった、と苦笑いされた。


あの後授業が終わってもクラスメイトがわらわらと遠坂に群がるのを遠目で上野と笑って見ていた。「次から俺の身代わりかな?」と上野。
南無。
つっても上野に向けられる一定数の熱い視線は相変わらずだった。
南無。


楽しみまくったのか3、4限続けて爆睡する上野に呆れながらも昼休みを迎え冒頭に戻る。


そして



「ふっ、……はぁっはぁっ……ちょっっはやいっ、てっ…はぁっ…おっまえ……らっ!!」


走ってます。



昨晩の宣言通り寝やがった上野を席的に遠坂にシャーペンで刺すのを代弁してもらい、チャイムと同時に腹痛を訴え上野と教室を飛び出した。
すみません先生、実は超元気です。
直後、遠坂、小森、他の平凡仲間と言う名のライバル達が他の教室からも次々と廊下に飛び出してきた。半年に数回だけの争奪戦。


負けられねえ。


と、気合いはあったものの体力だけ俺には無かった。虚しきかな。
その為先陣を切った俺をすぐ抜かした上野を追いかける形で食堂に走ったが、運動部らしき奴らに次々と抜かれてしまった。


このままでは駄目だ。


「う、うえのっ!!」
「どした?引っ張ろうか?」
「もうっ、いい……はぁっ、…置いてけっ!はぁっはぁっ、先に!おまえだけっ、でもっ…!」
「柴?!そんな、一緒にって言ったろ!」
「俺のせい、でっ、はぁっ、今後、おまっ、えの晩飯が…もやし、っばっかの生活なんてっ、はぁっはぁっ……嫌だっ!」
「柴っ……!!」
「行けっ……!!うえのっ!!」
「……分かったっ!行ってくるっ!ギセイは無駄にしない!!」
俺死ぬの?


「ねぇ、はぁっはぁっ、これ、なに?」
「さあ?面白いから僕は何でもいいかなぁ。」
るせぇ。


上野に先に行かせたクソみたいな茶番を交え、最後の方は遠坂に引っ張ってもらって食堂に着いた。
小森が俺とあまり変わらないのは分かるけど遠坂お前。疲れたとか行ってるけど汗かいてないし最早息切れもしてない。なんでだよ。


ぜぇはぁ息を切らしながら食券機に向かうと思ったより人は居なかった。引っ張ってもらったお陰か早めに着けたようだ。そして幸運にもあと3つだった、激安気まぐれ定食をぎりぎり買えた。

遠坂お前マジ俺の女神大好き。

安堵の溜息を吐きながらスマホの通知を見ると上野は既に席に着いているらしく、食券を買い終えた2人にも声を掛けて受付に向かった。





「ところでなんで小森も付いて来てんの?」
「犬め貴様は朝に交わした会話をもう忘れる程ボケが進行してるのかそうかじゃあそろそろ老人ホームに入った方がいいんじゃない?」
「こわ早口…っお願い食券の角で刺さないで…物理的にも精神的にも痛い…」
「あっ上野くん居たよ〜」
7/27ページ