土器土器体育祭

お説教



上野親衛隊から傍迷惑な噂を流していた事実が発覚した帰り、上野に噂について知っていたか聞いてみると、聞いたことなかったとの返答だった。
ただ、「そういえば、少し前に先輩から、試合に彼氏は呼んでないのか?って聞かれたことあったけど、これのことだったのかな?」らしい。
そうだな。これのことだな。
後で上野からも、勝手なことすんなって言っといて、って伝えておいた。ピンときていない様子だったが。

時折告白されているらしい上野からすると、彼氏が既にいるって情報がまわると告白を断るには都合が良いんだろうけど、それはそれこれはこれだ。体育祭が終わった後に再度念押しすることにするか。

テントに戻り、にやにやと見てくるクラスメイトを無視してイヤホンを付けて椅子に座ることにしようとした俺だったが、目的の目の前で俺を待ち構えるように仁王立ちする小森によってそれは叶わなかった。
なんならその小森の前に正座している委員長がいることで、未来の俺の姿が見えた。

Uターンしてテントから出ようとした時。
「柴。どこに行くつもり」
「……今行きます」
諦めが肝心な時もあると思います。

上野を連れてとりあえず委員長の隣に正座する。疑問符を浮かべたままの上野も同じように俺の隣に。委員長を覗き見ると、既に絞られたのか、目が虚ろだった。
小森がそれぞれの表情を浮かべる俺達を順に見る。

「まず、かっこよかったよ上野くん」
「ありがと〜!」
「でも、なんで柴をお姫様抱っこすることになったのかな」
「え…?柴がしんどそうで、それで、流れで…?」
「そうだね、見谷から聞いたよ。だから上野くんは何も悪く無いね」
完全に贔屓。

何故か責められている雰囲気で、不平等だと意見することはできない。
だって塩島委員長みたいな雰囲気を醸し出してる。

「さっきも言ったけど、見谷。親衛隊持ちの上野くんにああいった目立つことさせるのって良くないの分かるよね」
「はい…。」
「上野親衛隊の皆さんが柴に好意的だからまだ良かったものの、いくらその場のノリでもリスクを考えると馬鹿の極みだよ。Aクラスの委員長なんだから今度から考えて行動して」
「はい……。」
ガチ説教だ。
下を見たまま震える。

「それと柴」
「は、はい」
俺の番が来た。
下を見たまま自然と背筋が伸びる。

「まず、よく上野くんを足につかったな」
不可抗力です。
「結果としては2着でゴールできたから良いけど、まずはあんたの体力の無さを自覚して」
「はい…。」
「それから、上野くんをお題として連れ出すにしても無言で引っ張っていけばこうならなかったんだから発言の軽率さを反省しろ。うちのクラスの馬鹿っぷりは分かってるだろう」
確かに…。

「反省します……。」
「馬鹿っていうなー!」
公開説教を見ていたクラスメイトがヤジを飛ばした。
睨む小森に後ずさっていく周囲。

「言ったな…?君達も大体ね…」
ターゲットを野次馬のクラスメイトに変えたらしい。
逃げ惑う陽キャを追いかけていく小森を見て、俺達(上野を除く)は解放されたのが分かって同時に安堵のため息を吐いた。
立ち上がった委員長はケロッとした顔で、すぐに応援の為にテントの最前へ向かった。
切り替えはえ〜…。

見ていると、すぐに振り返り委員長が戻ってきて、次の競技は学年別リレーだから上野君出番だよ!と焦ったように声を掛けてきた。
そうだった!と、忘れていたらしく、慌てて上野がテントから走っていくのを見送った。

椅子に座ってイヤホンを付けて一息ついていると、耳元から加賀屋先輩の声が聞こえた。
ギリギリなタイミングだった。

『現状報告〜!狼谷くんには連絡あったと思うけど、借り物競走終盤にて数名の生徒会親衛隊と数名のZクラス生徒が揉めているところを発見したヨ。また、主犯に動きはない。以上!』
簡潔な報告の後、再び流れるアニソン。

ついに始まったらしい。
ただ、主犯に動きがないってことは、騒ぎが計画のものかどうか決めるには早いか。
それに、報告の内容に少し引っ掛かりを覚える。

追い回した小森が帰ってきたことによってその思考は中断したが。



「全く。揃いも揃って」
「ははは…」
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