新入生歓迎会するんだってよ

回想


今日から一時的に生活する簡素な部屋をベッドの縁に座りながら見渡す。

今まで無駄な設備が多く呆れていたが、毛布やベッド等の生活に必要な備え付けがある事に初めて感謝した。

にしても、リビングや脱衣所が散らかっていたからこの空き部屋も何処かに漫画やら散らかしているものと思えば、全く何も無くて拍子が抜ける。そのままなんとなく今日から同居人となった人物がいる部屋の壁を見つめた。

柚木は……変わった、というか不思議な奴だ。正直リビングで初めてアイツを認識した時は、うるさいヲタク陰キャかと思った。


目を閉じてたった数時間前の出来事を思い返す。
荒れていたリビングで見たことないDVDや漫画を見つけ、中でも最も目立っていたやつを思わず手に取って見ていると、玄関がうるさくなり今度はリビングのドアがデカイ音を立てた。

今度の同居人もうるせぇ奴かよ。そう苛々してドアの方を見ると、磨りガラス越しで何やら丸まってるのが分かって訳がわからなかった。未だに分かってない。

と思えばドアが開き、土下座をしてきて何やら早口で言った後にDVDを返せと。柚木に悪いが何と言っていたのかほとんど覚えてない。渡す時にやっと顔を見たら、ツリ目気味の普通の奴で、俺の想像していたヲタクとは違い、内心少し驚いた。
俺の思っていたヲタクはもっと、鬱陶しい前髪とヒョロくて眼鏡で声のちっさぇ暗い奴、ってイメージだった。しかもその上、食堂の時のとろい奴だったとは。

その後…片付けを終えて部屋に帰ろうとしていたから話しかけ、下の名前で呼ぶ事にした。言外に厚い壁を作っているのがただ気に入らなかった。………それだけだ。

意外にも厚い壁は柔らかくできていたようだった。名前呼びにもすぐ対応され笑顔で返された。家族や腐れ縁の奴等からしか下の名前を呼ぶ奴は居ないが、存外悪い気はしなかった。


押し掛けてきた3人は端的にいうと"面倒"だった。

初っ端からガン飛ばしてきた奴には、癇に障った為に敢えて含みをもたせた話をすると案の定突っかかってきた。
ちっこい奴は俺に興味無さそうでよく分からなかったが、気になったのは前髪がえらく長い不気味な奴。遠坂って言ってたな…顔を合わせた時からどういうわけかずっと視線を感じていた。観察するような視線だ。あんな奴見覚えがねぇし、立ち居振る舞いからもただの一般人とも思えねぇ不気味な奴。ただ……いや、アイツにだけは注意する必要がある。

…………………ようやく馬鹿から離れたと思ったらこれか。俺から転がり込んでおいて、ではあるが。

閉じていた目を開き、額に手を当て下を向くと肩にタオルをかけていたのを思い出した。
風呂場に持っていくのを忘れ、置いていた柚木のを借りたんだった。タオルをハンガーにかけ、起きていたら一言伝えようと部屋を出た。

部屋からは明かりが漏れていたから起きてると分かり声をかけてノックをした。が、返事が無いので仕方なくドアを開け確認すると、寝ていた。案の定だ。部屋の電気をつけたままベッドにうつ伏せに乗っかって。
毛布は勿論足元の方でぐちゃぐちゃになって踏まれていた。半ズボンなのにだ。

毛布ぐらい被れ馬鹿……。

枕を頭の下に置き毛布を掛け、電気を消した。廊下から漏れる光を受けている顔を見ながら、なんで俺がこんな事をと思う。

弟達を思い出してつい手を焼いてしまう、こういうのが柚木のおかしな所だ。

会話が成り立たない馬鹿が周りに多い俺には、理解が早い柚木が同室者で正直助かった。前の同室者が馬鹿で五月蝿かったから、またそうだったら部屋に篭って過ごそうと考えていたからだ。
かと思えば、食堂では俺を誰かと勘違いしたり、脱衣所やリビングが汚かったり、俺が髪を乾かすハメになったり、しまいにはこんなことまでさせやがる間の抜けよう。
会って1日しか経ってねぇんだぞテメェ。だが俺から世話を焼いているのも事実で。
次第にぐちゃぐちゃになってきた思考をゆるく頭を振ってリセットする。

ベッドから離れ電気を消し、廊下から間抜けな寝顔を一度見て、ドアを閉めた。


少しの間だろうが、悪くねぇかもな。
電気を消してからベッドに入り、目を閉じて久々の静寂を噛み締めた。




「(…………結局アイツと柚木は付き合ってんのか…?)」
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