土器土器体育祭





食べ終わり一息ついた俺達。

1年の2人のはちまきの色は赤で、この後から敵だなと話をしていると、上野は飲み物がなくなったらしい。コンビニに行くと言って立ち上がった。

「皆は何かいるものある?」
「じゃあピノ」
すぐ手をあげた俺を睨む小森。
きっと脳内では「この上野くんをパシリに使うとは良い度胸だな」

こうだろう。

違うから。
頼み事だから。
おつかいだから。

目が合わないように遠坂をジッと見ておくことにした。
「僕?僕は大丈夫かな」
視線に意図を感じたらしい遠坂が笑顔で言った。
違うんだよ。
違うけど大丈夫なんだな。分かった。

鮎は俺の答えに感化されたらしく、「じゃあ俺もアイス!チョコのソフトクリームで!」と答えた。
元気な鮎にOK!と上野。その様子を見ていた丸君が「じゃあ俺も一緒に行きますよ」と立ち上がった。

えっ。なんか俺も申し訳なくなってきたな。
ほら、と言わんばかりの顔してこっち見てる奴がいる。
分かったって。
立とうとする俺に丸君が手を横に振る。
「ああ、違います!こいつの事もありますけど、俺もお茶買いに行こうと思って」
残り少ないことをアピールするようにペットボトルを軽く振ってみせた。

確かに、残ったお茶はラベルから大きく下にあった。
言ってくれた手前着いていくのもどうかと思い、腰を再び椅子に戻した。
「そっか、じゃあ悪いけど2人共よろしく」


2人がコンビニ向かうのを送り出して暫く。
鮎が小森に親衛隊のことを根掘り葉掘り聞き出すのを苦笑いしていたが、トイレに行きたくなってきた。

「俺ちょっとトイレ行ってくる」
分かった、と返事が。

小森の「迷子になるなよ」に「去年お世話になったトイレなんで」と返して廊下に出た。

Bクラスからは少し遠いらしい。
Aクラスの時はそんな遠く感じなかったんだけどな。

歩いて暫くしてトイレが見えた時に携帯を忘れたことに気付いた。

別にいらないんだけど、トイレに行っている間に上野に帰って来られると俺のアイスが溶けるから、遅く帰って来て、と伝えようと思っていた。

しょうがない。戻るか。

歩いて戻り、扉まで近付くと教室から声が。
まだ親衛隊のことでも話してんのか。姉ちゃんと被る様子を思い出して笑っていると、会話の内容が聞こえてきた。

「…も、なんかユズくんがイメージと違ってたんですよね」

…俺?

想定とは違う内容に足を止めた。

「どういうこと?」
「なんか、ユズくんのお姉さんって元ヤンらしいんですけど、あ、先輩は会ったことあります?」
「今日少しだけ」
「僕はまだかな」
「そうなんですね!小森先輩は見たと思うんですけど、強そうじゃないですか!実際、外に一緒に出掛けたこともあったんですけど、わざと肩ぶつけたきたおじさんが居て、何も言わずに通りすがろうとするのを胸ぐら掴んで謝るまで離さないことがあったんです!」
「それは…凄い人なんだね、柴君のお姉さんって」
感心したような声の遠坂。

そんなことしたのか姉ちゃん。やめてくれ。小森だけでなく遠坂に知られたことに恥ずかしくなる。

「…それで、どうして柴のイメージになるの?」
元の質問に戻す小森。

今更自分のことを立ち聞きしている事実に、このまま聞いて良いのか?と考えたが、答えた鮎に、そんな自分が能天気だったことを理解した。

「だって、お姉さんがああじゃないですか。
なのに、
借り物競走の後に知らない奴から言われも無いことを聞こえるように言われたのに、ユズくんは何も言わずに逃げたんですよ!…何か言うと思ったのに…。」

落胆した鮎の声に、頭を殴られたような衝撃。汗が手に滲んだ。

静かに後退り、振り返って元の道を進む。


脳内に反響するのは、非難するように"逃げ帰った"の言葉。
姉ちゃんと、俺を比べる言葉だ。


気付けばトイレを通りすがり、廊下の端の角、階段の踊り場に立っていた。

壁に背をつけてしゃがみこむ。
冷たい。
詰めていた息を吐いた。

そりゃ、まあ。
姉ちゃんを知っていたら比べるよな。
乾いた笑い声が小さくその場に響いた。

さっきまで普通に話していた鮎の言葉に結構ショックを受けていたらしい。

中学生の頃のことを思い出して、以前そんなこと言われたこともあったな、と考える。

あの時は確か……姉ちゃんの舎弟から。

何があった時かは忘れたけど、姉ちゃんが不在の時に家で同じようなことを直接言われた。
敵意を向けるように、睨んで。

後日どういうルートで知ったのか、その人をボコボコにしたらしく、姉ちゃんの隣で当人があざの付いた顔で俺に土下座して謝ってきた。

あの時は姉ちゃんが、「私は私。ユズはユズ。スタンスが違うことを負い目に感じる必要は無いから」と言ってくれた。

けど、確かに俺はずっと姉ちゃんに守られてきた。

家から離れ、気付いてないだけで、あの時の棘は俺に刺さったままだった。



「…しんど」
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