土器土器体育祭
2
「やっと会えた!!探してたんですよー!!ゆずきさんですよね!!」
「ひ、人違…」
「さっき放送で名前言ってたし、ここに来る前にラインで理沙さんに元の苗字とゆずきさんの見た目の確認済ですよ!」
無様に粘ったところで無駄だったらしい。ピースしてくる鮎君に頬が引き攣る。
なんで今そのリサーチ力発揮してくるんだよ。
と、いうか、この感じ姉ちゃんに言ったな?気が滅入ってきた。
「これでゆずきさんのお題は完了ですね!取り敢えずゴールしちゃいましょ!」
俺よりやる気溢れる鮎君に手を強く引かれてゴールの方に向かうのに、足がもつれそうになりながら着いて行く俺。
周囲を見回し気付けば注目が集まっていた。
初めて知ったらしい鮎君と、既に知っている人は「例のゆずき?」と好奇の目。
勘弁してくれ。
顔に熱を感じ、繋がれた手に視線を落とした。
引いたお題が悪かったのか、代走としてこの競技に出た事が凶と出たのか。
くそっ…こうなるなら先に名乗った方がだいぶマシだった気がする。
いや、鮎君のこの感じだと意気揚々と挙手して出てきそうな気もしてきた…。
つまり俺の引き運の悪さ。
ケースクローズ。
鮎君はというと、俺が相槌を打たなくてもずっと俺を探すうえでの苦労話を延々と話していた。探さなくて良かったんだぜ。元気な子。
そして、鮎君が力強く連れて行ってくれたお陰でテープを切ってゴールに到着。
焼肉にとって幸運なことに1着だった。
ゴールに立っていた先生にお題を確認され、OKをもらうことができた俺は無事この競技を終えることができた。
お題についてよく聞けてなかったが、どうやら他の人は難しいものを引いたらしく、応援席の辺りで走り回って聞きに行っているのが見えた。
ゴールのすぐ近くに居たらしい鮎君の友達らしき人達が口々に、ゆずきさん見つかって良かったじゃん!おめでとう!等と声を掛けられて嬉しそうに「ありがとー!」と返す鮎君に再び頬が引き攣った。
なんだこれ。
上野と居た時でさえ感じたことのない視線の数々に耐えきれなくなった俺。
借り物としての役目を終えた鮎君にはさっさと別れて頂くことにしよう。
「あー…その、鮎君?」
「鮎でいいですよ!」
レスの速さにどうしようか迷ったが、今無駄に長く話を続けるのも得策に思えなかった。
「……分かった、鮎。その、」
「はい!」
元気にお返事する鮎に苦笑いしながら重みのある手を胸元まで持って行く。
「これ、もう離してくんない?」
「…あっ!」
力強く繋がれたままの手を見せると、思い出したようにパッと手を離された。鮎は照れ臭そうに顔を斜め下に傾けた。
「やっと見つけたからつい…。」
「いや、俺が今まで…」
名乗り出なくてごめん、と謝ろうとした時だった。
「顔赤くしちゃってデレデレしてんのヤバ」「アレが親戚とか嘘でしょ」などと近くからこそこそと嘲るような会話が聞こえてきた。
顔に関しては元々だっつの…。
内心ため息を吐いた。最近聞かなかった陰口。慣れてるからいつも通り無視しようとした。
が、鮎の顔が剣呑な雰囲気になって声の方を見ていたので慌てて声をかけた。
「ここで話すのも邪魔になるし歩きながら話そうぜ」
「え?…はい」
その場から離れてすぐ、鮎が隣に並んだ。
「…なんで何も言わないですか?」
血の気が多いな。
「あー…、ああいうヤツには何言っても無駄だし、わざわざ話し掛けに行く必要ないだろ」
「…そうですか…。」
納得してない顔の鮎に強引に話題を変える。
「そういや、いとこなんだし敬語無くていいよ」
「えっ?そっか、確かに!分かった!」
切り替えが早え。
「それで、」俺を見つけたけどどうすんの?と聞こうと口を開いた時。向かってる先に夏目副委員長が食堂で惶と話していた、例の眉目秀麗な部長達と談笑しているのが見えた。
確か、華道部と茶道部だったはず。
髪が長く、上下ジャージで線が細い彼らだ。あそこだけ見たら女子校に見えるな。
そう、ぼんやり考える。
すると、何気なく辺りを見回した様子の夏目副委員長と目があった。
途端、何となく気まずさを感じてすぐ目を逸らした。
「ゆずきくん?それで、何?」
「え?っ」
覗き込んできた鮎に驚いて一歩下がる。
そうだった。完全に忘れてた。
いつの間にか止めてた足を再び動かす。
何言おうとしてたんだっけな。頭を回転させる。
あぁ、そうだ。
「悪い。それで、俺を探してたみたいだけど、見つけてどうすんの?」
隣を見ると、目を点にして瞬きを繰り返していた。あんだけ探して何も考えてなかったんかい。
「…どうしよ?」
知らねえ。
思わず、と破顔する鮎に釣られて笑ってしまった。
「楽しそーだね!」
「っ!」
「うわっ!」
突然かけられた声に驚いて鮎とお互い肩をぶつけた。
話しかけてきたのは夏目副委員長。
気付けば近くを通り過ぎようとしていたらしい。周囲を伺うと、話していた2人は既に近くから居なくなっていた。
それにしても、話しかけられるとは思ってなかった。
悪戯っ子のような表情は文句無しに可愛い。
鮎は初めて見たらしく、頬を染めてガン見している。
そうなるよな、わかる。
「えっと、し、しそ」
「柴です」
覚える気無いな?いや覚えられる必要無いけど。
「そうそう。柴くんお疲れ様!」
その言葉に苦笑いするしか無い。
「ありがとうございます」
「話題のキミの探し人が柴くんだったなんて、きっと今頃燕も驚いてるよ」
楽しそうに鮎に向かってクスクスと笑う夏目副委員長の言葉に驚いたのは赤いままの鮎だ。
「えっ!俺話題になってたんです?!」
そらなるだろ。
笑顔のままうんうんと首を上下に動かす夏目副委員長。そのまま口を開こうとした時、夏目副委員長から携帯の着信音が聞こえた。
ズボンから携帯を出し、画面を見て眉をあげる。
「燕からだ。ヤダ〜帰って来いってことだな〜」しょうがない、お仕事行ってきまーす!と、携帯を耳に当てて手を振り去って行く、嵐のような夏目副委員長に呆気に取られた俺達は力無く手を振り返すことしかできなかった。
去って行く際に香った花の良い匂いが辺りに残る。
……花、か。
夏目副委員長を見つけた時のことを思い返す。俺と目が合った瞬間の夏目副委員長の顔。
愉しげだった。
なのに、辺りを見回した目元は鋭かった。
…………。
気のせいなら、いいけどな。
「で?!誰あの人?!めっちゃ良い匂い、めっちゃきれ、い彼氏??!」
「いやなんでだよ」
「やっと会えた!!探してたんですよー!!ゆずきさんですよね!!」
「ひ、人違…」
「さっき放送で名前言ってたし、ここに来る前にラインで理沙さんに元の苗字とゆずきさんの見た目の確認済ですよ!」
無様に粘ったところで無駄だったらしい。ピースしてくる鮎君に頬が引き攣る。
なんで今そのリサーチ力発揮してくるんだよ。
と、いうか、この感じ姉ちゃんに言ったな?気が滅入ってきた。
「これでゆずきさんのお題は完了ですね!取り敢えずゴールしちゃいましょ!」
俺よりやる気溢れる鮎君に手を強く引かれてゴールの方に向かうのに、足がもつれそうになりながら着いて行く俺。
周囲を見回し気付けば注目が集まっていた。
初めて知ったらしい鮎君と、既に知っている人は「例のゆずき?」と好奇の目。
勘弁してくれ。
顔に熱を感じ、繋がれた手に視線を落とした。
引いたお題が悪かったのか、代走としてこの競技に出た事が凶と出たのか。
くそっ…こうなるなら先に名乗った方がだいぶマシだった気がする。
いや、鮎君のこの感じだと意気揚々と挙手して出てきそうな気もしてきた…。
つまり俺の引き運の悪さ。
ケースクローズ。
鮎君はというと、俺が相槌を打たなくてもずっと俺を探すうえでの苦労話を延々と話していた。探さなくて良かったんだぜ。元気な子。
そして、鮎君が力強く連れて行ってくれたお陰でテープを切ってゴールに到着。
焼肉にとって幸運なことに1着だった。
ゴールに立っていた先生にお題を確認され、OKをもらうことができた俺は無事この競技を終えることができた。
お題についてよく聞けてなかったが、どうやら他の人は難しいものを引いたらしく、応援席の辺りで走り回って聞きに行っているのが見えた。
ゴールのすぐ近くに居たらしい鮎君の友達らしき人達が口々に、ゆずきさん見つかって良かったじゃん!おめでとう!等と声を掛けられて嬉しそうに「ありがとー!」と返す鮎君に再び頬が引き攣った。
なんだこれ。
上野と居た時でさえ感じたことのない視線の数々に耐えきれなくなった俺。
借り物としての役目を終えた鮎君にはさっさと別れて頂くことにしよう。
「あー…その、鮎君?」
「鮎でいいですよ!」
レスの速さにどうしようか迷ったが、今無駄に長く話を続けるのも得策に思えなかった。
「……分かった、鮎。その、」
「はい!」
元気にお返事する鮎に苦笑いしながら重みのある手を胸元まで持って行く。
「これ、もう離してくんない?」
「…あっ!」
力強く繋がれたままの手を見せると、思い出したようにパッと手を離された。鮎は照れ臭そうに顔を斜め下に傾けた。
「やっと見つけたからつい…。」
「いや、俺が今まで…」
名乗り出なくてごめん、と謝ろうとした時だった。
「顔赤くしちゃってデレデレしてんのヤバ」「アレが親戚とか嘘でしょ」などと近くからこそこそと嘲るような会話が聞こえてきた。
顔に関しては元々だっつの…。
内心ため息を吐いた。最近聞かなかった陰口。慣れてるからいつも通り無視しようとした。
が、鮎の顔が剣呑な雰囲気になって声の方を見ていたので慌てて声をかけた。
「ここで話すのも邪魔になるし歩きながら話そうぜ」
「え?…はい」
その場から離れてすぐ、鮎が隣に並んだ。
「…なんで何も言わないですか?」
血の気が多いな。
「あー…、ああいうヤツには何言っても無駄だし、わざわざ話し掛けに行く必要ないだろ」
「…そうですか…。」
納得してない顔の鮎に強引に話題を変える。
「そういや、いとこなんだし敬語無くていいよ」
「えっ?そっか、確かに!分かった!」
切り替えが早え。
「それで、」俺を見つけたけどどうすんの?と聞こうと口を開いた時。向かってる先に夏目副委員長が食堂で惶と話していた、例の眉目秀麗な部長達と談笑しているのが見えた。
確か、華道部と茶道部だったはず。
髪が長く、上下ジャージで線が細い彼らだ。あそこだけ見たら女子校に見えるな。
そう、ぼんやり考える。
すると、何気なく辺りを見回した様子の夏目副委員長と目があった。
途端、何となく気まずさを感じてすぐ目を逸らした。
「ゆずきくん?それで、何?」
「え?っ」
覗き込んできた鮎に驚いて一歩下がる。
そうだった。完全に忘れてた。
いつの間にか止めてた足を再び動かす。
何言おうとしてたんだっけな。頭を回転させる。
あぁ、そうだ。
「悪い。それで、俺を探してたみたいだけど、見つけてどうすんの?」
隣を見ると、目を点にして瞬きを繰り返していた。あんだけ探して何も考えてなかったんかい。
「…どうしよ?」
知らねえ。
思わず、と破顔する鮎に釣られて笑ってしまった。
「楽しそーだね!」
「っ!」
「うわっ!」
突然かけられた声に驚いて鮎とお互い肩をぶつけた。
話しかけてきたのは夏目副委員長。
気付けば近くを通り過ぎようとしていたらしい。周囲を伺うと、話していた2人は既に近くから居なくなっていた。
それにしても、話しかけられるとは思ってなかった。
悪戯っ子のような表情は文句無しに可愛い。
鮎は初めて見たらしく、頬を染めてガン見している。
そうなるよな、わかる。
「えっと、し、しそ」
「柴です」
覚える気無いな?いや覚えられる必要無いけど。
「そうそう。柴くんお疲れ様!」
その言葉に苦笑いするしか無い。
「ありがとうございます」
「話題のキミの探し人が柴くんだったなんて、きっと今頃燕も驚いてるよ」
楽しそうに鮎に向かってクスクスと笑う夏目副委員長の言葉に驚いたのは赤いままの鮎だ。
「えっ!俺話題になってたんです?!」
そらなるだろ。
笑顔のままうんうんと首を上下に動かす夏目副委員長。そのまま口を開こうとした時、夏目副委員長から携帯の着信音が聞こえた。
ズボンから携帯を出し、画面を見て眉をあげる。
「燕からだ。ヤダ〜帰って来いってことだな〜」しょうがない、お仕事行ってきまーす!と、携帯を耳に当てて手を振り去って行く、嵐のような夏目副委員長に呆気に取られた俺達は力無く手を振り返すことしかできなかった。
去って行く際に香った花の良い匂いが辺りに残る。
……花、か。
夏目副委員長を見つけた時のことを思い返す。俺と目が合った瞬間の夏目副委員長の顔。
愉しげだった。
なのに、辺りを見回した目元は鋭かった。
…………。
気のせいなら、いいけどな。
「で?!誰あの人?!めっちゃ良い匂い、めっちゃきれ、い彼氏??!」
「いやなんでだよ」